ブロードバンド環境が成熟するなかで、個人向けEC（電子商取引）が巨大市場として姿を現しつつある。この動きを察知したシステムインテグレータは、ECシステム構築需要の取り込みに躍起だ。だが、ECを手がけるサービス事業者のうち、コンシューマの要求を満たせる有望な事業者は一握りにとどまっているとの指摘もある。成長性が見込めるECサービス事業者を選別し、提案を強化することが、システムインテグレータのEC構築ビジネス拡大には欠かせない。（安藤章司●取材／文）

サービス事業者間に格差も

■ブロードバンドが普及を後押し

　ここ1－2年で急速にサービスが拡充してきたというのが、EC関係者らの一致した見方だ。ECサービスに詳しいコマースリンク（春木博社長）の永山淑子・取締役は、「1999年当時はIT業界がECで大騒ぎしただけで、コンシューマにとっては物足りない内容だった」と、商品点数や価格などの面で見劣りがしたと話す。ブロードバンドが普及していなかったことも、ECビジネスが不発に終わった要因の1つだ。

　ブロードバンドが普及した現在は、基盤整備も整い第2のEC隆盛期に突入している。経済産業省では、07年のコンシューマ向けECの国内市場規模は、02年の2兆6850億円から12兆3000億円へと拡大すると見る。

　ECサービスを手がける大手GMS（総合小売業・大規模スーパー）の多くは、既存ビジネスとECを融合させることで、事業全体の底上げを狙う。ECシステムと基幹系システムとのシームレスな連携を実現し、コンシューマへの販売・サービスチャネルの1つとして業務体系の中心部に取り込もうとするGMSがある一方で、ECを業務体系の中心部へ組み込めず、「ECビジネスが停滞しているGMSもある」（ECサービス関係者）と二極化が進む。

　大手GMSでさえ明暗が分かれるなか、中堅・中小の小売業の格差は、さらに拡大している。昨年4月、ECで成功を収めている事業者らで設立した日本ネットビジネス協会（新井治彦会長）は、「売れているショップが集まることで、影響力拡大を狙う」（粕谷日出明事務局長）とし、まずは実力あるECサイト経営者が力を結集することで、ECビジネスの振興に努める。今年秋をめどに、全国の500以上のECサイトを集めた大規模なキャンペーンも検討中だ。

■システム構築ビジネスに手応え

　こうしたECビジネスの拡大に、システムインテグレータは敏感に反応する。流通小売業向けのオリジナル統合業務システムを開発するなど、流通小売分野に強いインテグレータのアイティフォー（須賀井孝夫社長）は、6月2日に自社開発のECパッケージソフト「アイティフォレック」の販売に踏み切る。流通小売業のシステム構築に、ECは欠かせないとの判断からだ。

　須賀井社長は、「当社が得意とする流通小売業の基幹業務とECをシームレスに統合することで、顧客からより高い評価を得られるようになる」と、自社開発のECパッケージの出来栄えに自信を見せる。

　EC関連ビジネスを重点事業に位置づけるソフトクリエイト（林勝社長）では、今年に入り、自社開発のECパッケージ「ecbeing（イーシービーイング）」の引き合いが相次いでいる。4月にNTTコミュニケーションズ（NTTコム）がイーシービーイングの正式採用を決めたのに続き、オービックビジネスコンサルタント（OBC）が7月に発売予定の「奉行新ERP ECソリューション」（仮称）への組み込みが決まるなど、「引き合いが急増している」（林社長）とECビジネスへの手応えを感じる。

　EC市場を支えるチャネルは、パソコンやモバイル（携帯電話）だけでなく、テレビを中心とした情報家電からのチャネルも期待できる。コジマの小島章利社長は、「地上デジタルが本格化する06年頃から、テレビのコンピュータ化がさらに加速する」と予測する。システムインテグレータにとっては、ECシステム構築という成長市場を自社のビジネスへ取り込まない手はない。