NEC(金杉明信社長)が、プラットフォームビジネスの販売力増強に乗り出した。デルや日本ヒューレット・パッカード(日本HP)など外資系ベンダーがシェアを伸ばすなか、NECの販売力にかつてのような輝きが薄れてきたことが背景にある。「メーカーとしてプラットフォームは重要な柱」(津田芳明・執行役員常務)と位置づけ、商材の拡充や販売パートナーの活性化に全力を挙げる。
プラットフォームビジネスで巻き返し狙う
■デルと日本HPの猛追に危機感、販売店との“強い絆”再構築 NECは、これまで販売パートナーに対しソリューション力の強化を求めてきた。オープン化が進むと同時にハードウェアの価格が下落し、プラットフォームビジネスだけでは十分な収益が得られなくなったことを受けた施策だった。この結果、勝ち残った販売パートナーは、さまざまなソリューション力を身につけ、それぞれが得意とする分野の獲得に努めてきた。
オープンな世界では、すべてのプラットフォームがネットワークで結合する。これに伴い、「ソリューションさえしっかりしていれば、ハードウェアはどこのメーカーでもいい」(システムインテグレータ関係者)と、マルチベンダー化が進んだ。多くのメーカーにとって、これまでメーカー依存度が高かった販売パートナーに自立を促すことで、ビジネス全体としてプラスに働くという楽観的な期待感があった。
だが、ここへきて変化が生じ、国産ベンダーとして強みを発揮してきたNECの販売力が弱まる傾向が見えてきた。オープンなプラットフォームビジネスに強いデルや日本HPが、NECの販売力を上回る勢いで急速に売り上げを伸ばしているためだ。IT市場調査会社のガートナージャパンによると、2004年1-3月期のPCサーバーの国内出荷台数シェアで、デルが初めて首位の20.9%を獲得。これまでトップだったNECを下した。さらにシェア第3位には日本HPが続き、NECを猛烈に追い上げている。
危機感を感じたNECは、プラットフォームビジネスの販売力増強に乗り出した。まず、今年4月、これまで「パートナー」と呼称してきた全国約370社の販売パートナーを「NEC販売特約店」の呼び名に変更した。もともと「販売店」とは、プラットフォーム販売が収益の中心だった時代の呼び名であり、オープン化が進んでソリューション中心のビジネスへと移行してからは、各ベンダーとも「パートナー」の呼称が主流となっていた。
津田執行役員常務は、「当社は数年前に『販売店』から『パートナー』に呼び名を変えたが、パートナーの語感には“対等の関係”が強く出ていて、NECとの距離が少し離れた印象が強まった」と、再び販売特約店という名称に戻した理由を説明する。メーカーとシステムインテグレータは対等な関係であるがために、プラットフォームについてもメーカーを固定する必要がないという動きが目立ち始めていたわけだ。
このタイミングで、あえて「NEC販売特約店」に変えることで、「われわれNECの商品を販売してもらう関係」(津田執行役員常務)を明確にする。これにより、メーカーと販売店の「強い絆」、「結束した強い集団」に再度まとめあげる方針を打ち出す。マルチベンダー化の進行を止めることは、システムインテグレータにとってはリスク要因の1つになる危険性がある。だが、そのリスク以上のメリットが得られれば、販売特約店になる価値はある。
■コンピュータとネットワーク、両分野のカバーが強みに NECが販売特約店に提示したメリットとは、外資系ベンダーにはない新商材の拡充、特約店同士のアライアンス強化の推進、ウェブを活用した販売支援や技術支援などが中心となる。いずれもデルや日本HPを強く意識した内容になっており、NEC本来が持つ強みを最大限に発揮することを狙ったものだ。
商材面では6月1日に、かねてから打ち出していた情報と通信の統合ソリューション「ユニバージュ」ブランドの品揃えを大幅に強化した。「IPテレフォニーパック」や「ユニファイドコミュニケーションパック」など、中堅・中小向けの情報・通信統合製品のセットメニュー化を進め、販売特約店が売りやすい商材に仕立てた。
「外資系ベンダーはコンピュータだけ、あるいはネットワークだけというところが多いが、両分野を統合した製品を出せるのはNECの最大の強み」(同)と、コンピュータ中心のデルや、ネットワーク中心のシスコシステムズなど外資系ベンダーには追随できない製品開発に力を入れる。
同時に、これまでコンピュータを中心に販売してきた販売特約店と、PBX(構内交換機)などネットワーク機器を中心に販売してきた販売特約店とのアライアンスを、NECが仲介して推進する。
昨年度(04年3月期)は、コンピュータとネットワーク系特約店間のアライアンスや、基盤システムを得意とする特約店とアプリケーションを得意とする特約店間のアライアンスなど、NECが関係したアライアンスだけで15件あり約40社の特約店がこれに加わった。
今年度(05年3月期)は、ユニバージュなど新商材に対応するアライアンスを中心に、100件約50社の参加を見込んでいる。
津田執行役員常務は、「最初は、互いに仕事の取り合いになるのではないかと疑心暗鬼な部分もあったが、最終的にはアライアンスにより互いのビジネスが拡大している」と、これまでのアライアンス実績を高く評価する。
オープン化の追い風を最大限利用した外資系ベンダーの攻勢に対し、NECは情報と通信の製品融合や特約店との関係強化で迎え撃つ。ソリューション重視で、システムインテグレータとは対等な“パートナー”であるべきだとの考え方を方向転換し、再びプラットフォームを収益の基盤として見直し、パートナーはNECの販売店だと位置づける関係強化が急速に進む。これにより、シェア巻き返しを実現できるのか、注目が集まる。
 | プッシュ型とプル型の両立 | | | ハードウェアの価格が下がり、それだけでは収益が得にくくなっているのは事実であり、収益性が高いソリューションを重視していくことは、今後とも変わることはない。 ただ、プラットフォームでも、たとえばユニバージュなど他社では真似のできないNECオリジナルの製品では、高い付加価値を生み出すことも十分に可能だ。一方で、低価格を武器とする外資系ベンダーに対しては、こちらも競争力ある価格とウェブを使った効率的な販売網を整備する。 |  | PCサーバーにしても、無停止型サーバーやブレードサーバーなど高付加価値製品は、販売特約店がプッシュ型で訪問販売してもペイする商材だ。 また、価格で比較されることが多い標準的なPCサーバーなどについては、販売特約店と連携したウェブ販路を整備するなど、プル型の販売モデルを確立する。 どちら片方に力を入れるのではなく、プッシュ型、プル型を両立させることで、総合力を高める。 | |