日本パーソナルコンピュータソフトウェア協会(JPSA、淺田隆治会長=ウッドランド会長)は今年度(2005年3月期)、ソフトパッケージ会社のITベンチャーを育てるため「JPSAアライアンス大賞」を創設した。6月の通常総会では、同賞の第1回受賞企業が発表され、奨励賞3社、特別賞1社が選ばれた。同協会は昨年度、月1回ペースで「アライアンスビジネス研究会」を開催し、有力ITベンチャーのプレゼンテーションを実施。受賞した企業は、この中から選出された。今後は企業間の事業提携の機会を増やすため、受賞企業に対し、JPSA会員企業が技術・開発の支援を行う。BCNでは受賞各社の技術や商品などを紹介するとともに、前川徹・JPSAアライアンス大賞評価委員会委員長(富士通総研経済研究所主任研究員)による講評などを聞いた。(谷畑良胤、木村剛士)
会員企業がITベンチャーを支援へ
【奨励賞】高速屋データベースソリューション
「高速維新」 ■100倍速いデータベース 「競合他社の処理速度に比べ100倍速い」(木下正利・取締役高速維新事業担当)というデータベース処理技術を開発し、この技術を用いたデータベースソリューション「高速維新」を開発・販売した。高速屋(新庄敏男社長)は、IBM、マイクロソフト、オラクルといった外資系企業が牛耳るデータベースソフト市場に挑むソフトベンダーである。
データベース処理速度の遅さに目を着け、他社が採用するデータ処理技術「HASH」や「B-Tree」などを一切使わず、全く新しい技術を開発・採用したことで高速化を実現した。
処理速度を部分的に2-3倍にし、その技術を掛け合わせることで、結果的に大幅なデータ処理の高速化を実現し、「100倍速い」技術ができた。
同社では今後、アライアンス戦略を進めていく方針だ。大手システムインテグレータやシンクタンク、ソフトウェア会社との協業体制の構築を急ぐ。販売パートナーだけでなく、OEM(相手先ブランドによる生産)パートナーも積極的に増やしていく。
「当社だけでは太刀打ちできないが、当社の技術に加え、他者の製品・サービスを加えた共同ソリューションが競合他社に挑んでいくためには重要」(木下取締役)と、アライアンス強化の理由を語る。
現在のパートナーは、富士ソフトABCだけだが、今後は数十社との企業とアライアンスを組んでいく方針。
高速屋=
http://www.kousokuya.co.jp/
【奨励賞】ターボデータラボラトリー超高速情報処理技術
「DayDa.Laboo(デイダラボー)」 ■高速データ処理が可能 ターボデータラボラトリー(古庄晋二社長)の超高速情報処理技術「DayDa.Laboo(デイダラボー)」は、データをメモリにロード(読込)して処理を実行する。アクセス速度の速いメモリにデータを搭載することで、プロセッサのデータ処理スピードを1000倍に高めることが可能という。
業務に必要なデータ処理は通常、サーバー上のRDB(リレーショナルデータベース)を利用しているが、中堅・中小企業のデータ処理量ならば、RDBを使わずパソコン上に同技術をインストールするだけで高速にデータ処理ができるという。
同技術は昨年、米国特許を取得しているほか、国内外で特許申請中。国内では、大手クレジット会社など15社に導入実績がある。

同社の杉本薫・取締役営業開発部長は、「RDBはディスク処理速度の制約を受け、扱いも難しい。しかし、当社の同ツールは扱いが簡単でRDBが不要になる」と話す。
ただ、これまでは、同技術を導入企業のデータ処理量に応じて数百-数千万円で販売してきたが、まだ価格が高いのが悩み。「RDBベンダーの既得権益を侵さないよう、慎重に販売数を伸ばし、将来的には数万円で提供したい」(杉本取締役)という。現在、同社とAMDでは提携を検討しており、近く、「DatDa.Laboo for AMD64」(仮称)を発表する計画だ。
ターボデータラボラトリー=
http://www.turbo-data.co.jp/ 【
奨励賞】クオリティ・アンド・バリューコンサルティングウェブ-OJTシステム
「“有能塾”YOU KNOW NAVI」 ■ウェブでOJTを ウェブ-OJT(実地教育)システム「“有能塾”YOU KNOW NAVI」は、クオリティ・アンド・バリューコンサルティングの星寔社長が、ソニーの全社プロジェクト「開発設計改革・品質改革・組織風土改革」の推進責任者だった経験ノウハウを基に、ウェブベースのプログラムとして商品化した。
同システムは、ウェブ上のプログラムに出てくる質問に対して回答するだけで、自らのビジネスの手法が周囲にどう影響しているかなどを判定するツール。この結果を受けて、人間改造することで職場での信頼関係向上などに役立てることができる。ビジネスの上で組織間や担当者間の信頼関係を構築することが、日本的な作り込みや擦り合わせの作業を活性化するという点に注目して開発した。

開発者の星社長は、「40歳を過ぎれば、他の社員から問題点を指摘されると、理解はできても不快になり、やる気が失われる。新入社員も同じ」と話す。そこで、このシステムを利用すれば、自分自身の仕事に対する状況を客観的に把握でき、自分自身や周囲の期待が明確化できる。星社長はこれを「自分を“リード”する」と表現する。
同システムは、創造工学研究所の元所長で故人の中山正和氏が考案した思考技法「NM法」を発展させた。すでに、いくつかの企業で試験的に導入が始まっているという。
クオリティ・アンド・バリューコンサルティング=
http://www.qvc.co.jp/
【特別賞】ソフトクリエイト企業内の書類をウェブフォームで保存するソフトウェア
「X-point(エクスポイント)」 ■ブラウザで帳票に入力 ベンチャー企業以外では唯一、販売で他社とのアライアンスの拡大が早期に見込めるとして、ソフトクリエイト(林勝社長)が商品化したソフトウェア「X-point(エクスポイント)」が特別賞に選ばれた。
同ソフトは、ブラウザ上で企業内の伝票イメージにデータの入力ができ、画面をPDFファイルで保存・印刷できる。「日本古来の書類文化を踏襲し、企業内の書類など紙の帳票類と同じ感覚で入力・出力・決裁するように、ブラウザ上で完結できる」(岡本康広・社長室部長代理)と話す。オプションのワークフロー機能を使えば、目的の書類検索や集計なども容易になり、コスト削減につながるという。

また、ウェブ伝票を作成する「TSDesigner」も標準搭載されており、企業が自社のフォームに応じた伝票を自由に作成できる。
同ソフトは、6月中にも新版が発表されるが、すでに業務ソフト会社やグループウェア会社などの製品と同ソフトが連携したソリューションが各社から提供される見込み。岡本部長代理は、「まずは、電子政府・自治体関連などで利用が拡大する」と見ている。
ソフトクリエイト=
http://www.softcreate.co.jp/ ◆講評◆JPSAアライアンス大賞評価委員会 前川 徹委員長(富士通総研経済研究所主任研究員)
●「日本発」ソフトを世界に アライアンス大賞の目的は、資金力・技術力などが不足するソフトベンチャーを支援・育成することにある。この受賞を経て、ITベンチャーが、販売、技術、資金などの面で他社と協業する機会を生み出し、新規性のある技術や製品を効率良く世に送り出そうとしている。将来的には、ITベンチャーに対する資本参加やM&A(合併・買収)があってもいいと考えている。
選考基準は、その新規性に加えてアライアンスの可能性があり、さらに新商品が市場で広く普及する見通しのあることとした。残念ながら、今回は成功事例やすぐに広がりそうな商品に乏しく、「最優秀賞」に該当する企業がなかった。だが、来年度以降は、最優秀賞を獲得するITベンチャーが登場することを期待している。
日本のソフトパッケージ市場は、政府調達の仕組みが不十分で、ITベンチャーが入札などに参加できない。このため、ソフト会社が育ちにくい。ならば、大手ソフト会社と協業して入札に参加する手段を使い、市場を盛り上げ、結果的に「日本発」のソフトを世界に広める役目を果たせれば、と思っている。