デル(浜田宏社長)が、ショップを活用した直販拠点「デル・リアル・サイト」の展開を加速している。ダイレクト販売に特化している同社が、製品購入を検討しているユーザーなどが実際に製品に触れる場として位置づけている同サイトは、全国の主要パソコンショップ内に「ショップ・イン・ショップ」形式で出店したり、書店やショッピングモールなどの異業種との提携による出店など、さまざまな形態で現在78店舗を展開している。そんな同社がここにきて、「独立型店舗」の出店にも本格的に乗り出すという新たな取り組みを始めた。地域密着型の展開を強化するとともに、取り扱い製品が増加するコンシューマ事業拡大にも大きな威力となっている。(大河原克行(ジャーナリスト)●取材/文)
「独立型店舗」に乗り出す
■日本発の販売支援施策、国内に78店舗を展開 デルが出店しているデル・リアル・サイトは、米本社に先駆けて日本法人が独自に開始した制度だ。
「日本のユーザーは実際に製品に触れて、説明を聞いて、購入したいとするケースが多い。また、BTO(受注生産方式)による購入が難しく、アドバイスを受けながら購入したいという声も多い。これらのユーザーに安心して、デルを購入してもらうための1つの手法として開始したのがデル・リアル・サイト」と説明するのは、釼持祥夫・デル・ホーム・システムズ事業本部長。続けて、「競合他社の製品と直接比較する環境のなかで、ユーザーからの要求を“生の声”として吸収できる場でもある」と語る。
デルの直接スタッフによる製品説明と購入アドバイスを中心とする拠点で、ユーザーはその場からオンラインで申し込む形態となっている。
現在、日本では78店舗を展開するが、日本での成功を受けて、米国でもリアル・サイトの展開が始まっている。
デル・リアル・サイトの出店形態として一般的なのが、パソコンショップ内に「ショップ・イン・ショップ」の形態で出店する方法だ。販売店との契約形態は個別となっているが、出店のためのスペース費用は支払わず、同サイトを通じて注文があった実績に応じて、一定のマージンを支払うのが標準的な契約形態といえる。
「販売店にとっても、デル製品を取り扱っていることによる集客効果、在庫を持たなくていいというメリット、店頭における現金授受がない煩雑さの解消、サポートに対する手間がかからない、といった効果がある。さらに、デル製品の購入を申し込んだユーザーが、売り場の他の製品を一緒に購入していくといった相乗効果もある」(釼持事業本部長)という。
同社の調査によると、デル・リアル・サイトをきっかけに同社製品を購入するユーザーのうち、約半分がデルの存在を知らずに店頭に訪れたケースだという。デルにとって、新規顧客開拓という点でも大きな役割を担っているのが分かる。また、大阪、名古屋、新潟、広島、沖縄では昨年から今年7月末にかけて、相当数のテレビCMを流しており、これらの地域では、デルの認知度の向上とともに、デル・リアル・サイトを通じた販売も増加傾向にあるという。
「販売店のなかには、リアル・サイトを置くことで他社の製品を食ってしまうのではと懸念する声もあるが、そうした報告はほとんどない。むしろ、ここでアドバイスを受けながらデルの申し込みができるという新たな認知により、プラスアルファの収益確保と集客につながっている」(福田強史・デルホームシステム事業部リアルサイトビジネスグループシニアマネージャー)と話す。
現在、同社のパソコン出荷量の約2割がコンシューマ。そのうち約2割がデル・リアル・サイトを通じたものだという。
■独立型店舗の出店を加速、製品展示からソリューション提案に  | | 単なるショールームではない | | | 独立型店舗の場合は、採算性はよりシビアに見る必要があると考えている。出店の条件を挙げるとすれば、どれぐらいのポテンシャルを持っているのか、地域にどれだけの認知度を与えることができるのかといった点。そうした意味でも独立型店舗は、多くの人が訪れる場所に設置することが優先される。 ただ、ショールームとして出店するつもりはまったくないため、認知度だけでなく、どれだけ販売に貢献できるかという点を重視する。当社の場合、7月で上期が終わるが、上期内にもリアル・サイトの新規出店は検討しており、下期以降も積極的に展開していきたいと思っている。 すべての都道府県にリアル・サイトを出店する必要はない。しかし、今年度は地方都市への出店を視野に入れた取り組みを行いたいと考えている。 | |
最近、同社が積極的に取り組んでいるのが、独立店舗形態による出店だ。
5月28日にオープンしたJR上野駅構内店(東京都台東区)、6月12日に開店した大阪日本橋店(大阪市中央区)はいずれも独立形態の店舗で、「デル専門店」ともいえる店構えになっている。
独立型店舗としては、昨年12月にオープンした吉祥寺元町通り店(東京都武蔵野市)をはじめ、クイーンズスクエア横浜店(横浜市西区)、仙台アエル店(仙台市青葉区)などがあり、10坪から20坪程度の店内にデルの製品が展示されている。
「独立型店舗の場合、ショップ・イン・ショップ形態ではできない自由度がある。ご紹介キャンペーンなどの各種独自施策のほか、パソコン本体だけに展示をとどめず、周辺機器やワークステーションなど幅広い展示も可能になる。デルブランドの製品が増加したことで、それらの組み合わせによってどんな使い方ができるのかといった提案も必要になってきている。その点でも、独立型店舗ならではの展開が可能になる点では大きな意味がある」(釼持事業本部長)と語る。
実際、独立型店舗では、デルが国内投入している液晶プロジェクタのデモンストレーションを行えるコーナーを設置しており、具体的な使い方提案も行われている。
だが、独立型店舗の場合、従来のショップ・イン・ショップ形態とは異なり、デル自らが店舗のテナント料を支払い、その上で一定の売り上げ貢献を目指すという点で、よりシビアな管理が求められる。
約半年という短い期間で管理をするデル・リアル・サイトの場合、採算性に乗らないと判断した場合には、すぐさま撤退するという判断が下される。
「これまでに撤退したリアル・サイトは、40-50か所にのぼるのではないか」(福田シニアマネージャー)という数からも、同社がリアル・サイトの採算性の管理には厳しく取り組んでいることがわかる。
裏を返せば、独立型店舗の採算性維持のためには、各地で積極的な独自キャンペーンなどが繰り広げられる公算が強い。いわば、オンライン販売という“空中戦”による手法でシェアを伸ばしてきた同社が、いよいよ独立型店舗を核とした地域密着型の“地上戦”に乗り出したともいって良さそうだ。