急成長する中国IT市場で、日系ベンダーのシェア拡大策が本格化している。NEC、富士通など日系大手ITベンダーは、対中戦略でこれまで大きく出遅れており、劣勢を挽回するためのアライアンスやターゲットの絞り込み、高付加価値化など、あらゆる手法を駆使してシェア拡大に努めている。NECは6月29日に、中国最大手のディストリビュータであるデジタルチャイナ(神州数碼、郭為・総裁兼CEO)と業務提携し、拡販に向けた第1歩を踏み出した。富士通もターゲットを明確化するなど、販売効率の向上に力を注ぐ。(安藤章司)
NEC、富士通、販路開拓に躍起
■06-07年には5兆円規模に 中国のIT関連の市場規模は、2002年で3兆円弱だったのに対し、06-07年には5兆円規模まで拡大することが見込まれている。08年の北京オリンピックまでには、日本のIT市場規模を10とすれば3-4割の規模に成長すると見られている。人口は日本の10倍以上あることを考えると、今後とも継続した成長が見込める。中国の携帯電話の加入者数は03年末時点で2億人を突破しており、すでに日本の総人口よりも多い。
パソコンやPCサーバー市場のシェアでは、IBMやヒューレット・パッカード(HP)、デルなどの米系企業と、デジタルチャイナの親会社であるレノボ(聯想、旧レジェンド)など地元中国の有力企業が上位を占める。
これに対して、日本国内で優勢を誇るNECや富士通は、中国市場におけるシェアの拡大で遅れをとったため、シェアは10位以下と低迷している。主要ユーザーの多くは中国へ進出した日系企業が占めており、中国企業や中国へ進出している外資系企業など開拓しなければならないターゲットは依然として多い。
■中国は最重要市場 
急成長する中国でシェア拡大を達成しなければ、世界市場における競争力の低下を招く恐れもある。このため、NECでは中国市場を世界戦略における「ファーストプライオリティ(最重要市場)」(NECインフォメーションシステムズ(上海)の木戸脇雅生・董事長)に位置づけ、シェア拡大に本格的に取り組み始めた。
まず手始めに昨年10月、NECは中国最大手のディストリビュータであるデジタルチャイナと業務提携し、プロジェクタの販売を中国で本格化した。ここでデジタルチャイナと関係強化の基盤をつくったNECは、6月29日、新たにサーバーとノートパソコンの販売提携を同社と結び、7月から中国市場に向け本格的な販売を開始した。
デジタルチャイナとNECがコミットしたサーバーとノートパソコンの販売目標は、今後3年以内に中国市場で上位5位に入ることである。現在の10位以下のポジションから上位5位圏内に食い込むのは容易なことではない。
デジタルチャイナの姚武・副総裁通用信息本部常務副総経理は、「当社だけの力では達成できない。NECによる中国市場向けの価格や品揃えの協力なくしては困難で、両社の共通の目標として認識している」と、NECに対し全面協力を求める。
NECでは、デジタルチャイナを全力でバックアップし、まずは絶対的な販売数量を増やす。市場への供給量が増えれば、現在はコンピュータ分野で“無名”に近いNECのブランド力が高まり、サーバーやノートパソコンをベースとしたソリューションを、中国で展開しやすい環境をつくることができる。
現在の中国IT関連市場は、ハードウェアへの依存度が高く、価格競争が激しいという状況にある。中国IT関連市場のうち、ハードウェアの比率は7割強を占めており、日本の4割弱と比べ突出してハードウェアへの依存度が高い。さらに、コスト競争力のある米国企業や中国の地場企業が「激しい価格競争」(現地関係者)を展開している。こうした激烈な消耗戦から抜け出すには、ソフト・サービスへの早期移行が欠かせない。
今回、デジタルチャイナがNECと手を組んだのは、NECのソリューション力を高く評価したという背景がある。ハードウェアに依存したままでは、利益率の低下は避けられないからだ。NECは中国でのブランド力はないものの、マーケティングや製品開発などのノウハウは豊富。さらに、デジタルチャイナへの全面的な協力が期待できることから今回の提携が実現した。ソリューション力の向上を狙うデジタルチャイナと、シェア拡大を目指すNECの思惑がうまく噛み合った格好だ。
■ターゲットを明確化 
中国市場に向けた販売力強化では、富士通も本格的に取り組んでいる。中国国内の営業部門に権限を与え、顧客企業の要望に柔軟に対応できる体制を築くと同時に、有力企業や政府機関、金融業などターゲットを明確にすることで営業の効率化を図る。富士通(中国)の武田春仁・副董事長総経理は、「中国の上位10%の富裕層をターゲットとしても、人口で見れば軽く1億人を超える」と、全方位で投資するのではなく、ターゲットを明確に選別することで事業拡大を目指す。
規模の論理からすれば、世界で高いシェアを誇る米系ITベンダーや、低コストで高い生産力を持つ中国地場企業に優位性がある。これに対して、NECや富士通といった日系ベンダーは、ノートパソコンやブレードサーバー、無停止型サーバーなどの高付加価値分野や、ソリューション力、ソフト・サービス分野への移行ノウハウなど、さまざまな強みがある。
こうした強みを中国のパートナー企業に提供しつつ、どこまでシェアやブランド力を確立できるかが中国ビジネスを成功させるための重要なポイントとなっている。