パソコンおよび関連機器を巡り、PCサプライとメモリの両市場が業界を賑わせている。まずは、メモリでトップシェアのバッファローが7月1日にマウスを発売し、サプライ市場に参入。一方、7月15日には、マウスで首位につけるエレコムが増設メモリを発売した。トップメーカー同士の相互参入で市場にはかつてない激しい火花が散るとの観測もあるが、角度を変えれば違った見方も浮かび上がってくる。というのも、両社ともホームネットワークやAV(音響・映像)関連機器など新しい領域のビジネス拡大を視野に入れており、今後はこうした領域で開発を中心に多大な投資が必要となってくる。そうした資金需要に備えるため、高利益が期待できる分野へそれぞれが参入したとも言える。(佐相彰彦●取材/文)
新しいビジネス領域を視野に
■サプライ市場に参入したバッファロー、エレコムはメモリ市場へ サプライ市場に参入したバッファローは、利益を維持しているメモリ事業に加え、粗利率の高いサプライ事業を手がけることで、家庭内を無線LANでつなぐ「デジタルホーム」を視野に入れたネットワークビジネスを拡大していく狙いがある。
斉木邦明社長は、「無線LAN環境を薄型テレビを中心としたデジタル家電でも実現したいというニーズが高まってくるだろう」と見ており、無線LAN接続の設定が簡単にできる同社の独自技術「AOSS」搭載製品のラインアップを広げていく方針。
「マウスを中心としたサプライ品はパソコン初心者層も購入する。無線LAN関連機器を拡販していくには、こうした層にバッファローブランドを広めていくことが重要」(斉木社長)と話す。しかも、粗利率の高いサプライで拡販が図れれば、その利益を無線LAN機器関連の開発投資に回すことができる。
エレコムがメモリ・メディア事業に参入したのは、AV関連機器市場で本格的にビジネスを展開しようという意図の表れでもある。
柴田幸生・取締役営業部長は、「メモリの発売は、AV関連分野でビジネス領域を広げていくための手段」と強調する。AV関連の品揃えは、現段階ではケーブルやイヤホンなどが中心だが、「今後はAV機器本体に近い製品も開発していく」(柴田取締役)と語る。そのために、企画・開発要員を従来の2倍以上に増強した。
同社は、スピーカーとしても使える携帯オーディオプレイヤー用イヤホン「イヤホルン」を7月下旬に発売する。さらに、今年度中には同社にとって新規領域となる戦略製品を複数機種、市場に投入する。具体的な製品カテゴリーは明らかにしていないが、メモリを扱うようになったことで、携帯オーディオプレイヤーなど、ストレージ機能を搭載した機器を開発する可能性が出てきたことになる。
最近では、携帯オーディオプレイヤーが家電売り場でも販売されている。まずは、AV関連のアクセサリーを充実させ、携帯オーディオなど本体の販売を手がけることも考えられる。
同社は1990年代半ばにメモリ製品の販売を手がけ、年商50億円規模まで成長させた経緯がある。このため、メモリビジネスは市況の変動に大きく左右されるものの、当たれば大きな収益につながるという“旨味”を経験している。
だが、柴田取締役は、「もちろんメモリでもシェアの獲得に力を入れていくが、それよりむしろ確実に利益を確保することを重視したい」と、メモリ事業を安定した収益事業に育て上げることを重視している。
「確固たるシェアを獲得するにしても、6か月から1年はかかるといえる」(柴田取締役)と冷静に受け止めており、スタート時点からシェア獲得を最優先とする無理なビジネスを行うことは避ける意向だ。
■SCM強化で利益を確保、課題は物流コストの削減  | | 新規参入で市場は活性化 | | | 2004年7月5-11日のメーカー別販売台数シェアは、メモリでバッファローが39.0%、マウスでエレコムが25.0%。両社とも、それぞれの市場でトップシェアに君臨し続けている。 しかし、マウスとメモリ双方とも市場が成熟傾向にあり、前年割れが続く。そうしたなか、東京・秋葉原のあるパソコン専門店では、「新しいメーカーの参入は、ユーザーにとって選択肢が増えることになるため、喜ばしいこと。しかも、新しく参入したメーカーの商品がヒットすれば、売り上げ増にもつながる」と歓迎の意向を示す。 新規参入メーカーのシェアが上がってくれば、競合メーカーも対抗策を打ってくることになり、市場の活性化を促すことにもつながる。 | |
パソコン関連機器のなかで、比較的粗利率が高いといわれるPCサプライに加え、“土地勘”のあるメモリ事業で得た利益をAV関連に投資するというのがエレコムの戦略。しかも、過去の経験を踏まえ、「できるだけリスクを回避する」ことを視野に入れている。
リスク回避に向けた具体策の1つが、物流を含めたSCM(サプライチェーンマネジメント)だという。「これまでにも、PCサプライやアクセサリー品など、パソコン関連機器のなかでは比較的売価が安い製品にも関わらず、利益がとれる体制を敷いてきた。コスト面を考えれば、PCサプライやアクセサリー品よりも高額な増設メモリでは、さらに利益が確保できることになる」(柴田取締役)と期待を寄せる。メモリ事業の売上高は、初年度に3億円と控えめだが、「採算が合う」(同)と見込みだ。
一方、PCサプライの物流は、新製品の初回出荷時にどれだけ大量の製品を出荷できるかにかかってくるといわれている。そのため、新製品の発売時までに、パソコン専門店や家電量販店でどれだけ多くの“棚”を確保できるかが勝負の分かれ目となる。
メモリ市場でトップシェアを誇るバッファローでは、物流で在庫(滞留)期間をいかに短くするかに力を注いでいる。「メモリの物流は市況の変化が激しいため、回転率を良くしなければならない」(斉木社長)と指摘する。同社がサプライ事業に参入したのは、メモリで培った高回転率の物流ノウハウが、PCサプライでも生かせると判断したためだという。
高回転率の出荷が必要とされるメモリと、大量の初回出荷がカギのPCサプライ。この両極端な市場に、それぞれのトップメーカーが参入した。両社とも、利益が出せる事業として成長させるためには、物流コストをいかに削減できるかも重要な要素になってくる。