2005年度に最先端IT国家の実現を目指す「e─Japan戦略」を踏まえ、全国で電子自治体化の動きが進んでいる。各自治体とも行政サービスの向上などに向けたITの導入には積極的だが、予算やマンパワーの問題などもあり、進捗度合いにはばらつきもみられる。摂南大学経営情報学部の島田達巳教授らのグループは、全国の都道府県と市・特別区を対象とした電子自治体進展度調査を実施、このほど、その結果を取りまとめた。それによると、「庁内情報化」と「行政サービス」が進展している一方、遅れていた「情報セキュリティ」への関心が急速に高まってきていることがうかがえる。
■4つの領域で評価 
島田研究室の島田教授および久保貞也助教授らは、これまで電子自治体の進展度を測る指標作りの研究を行ってきており、調査はこの指標を用いて実施した。5月10日から1か月にわたり、全国47都道府県と718市・特別区に対し、電子アンケートを送付、37都道府県と459市・特別区から回答を得た。これを「庁内情報化」、「行政サービス」、「情報セキュリティ」、「総合」の4つの領域で評価し、進捗度をランキングした。ランキングは、アンケートの回答にウェート付けし、その点数を集計、各領域で偏差値を算出し、順位付けしている。その結果、都道府県は上位15位、市・特別区は同50位までを公表した(ランキング表参照)。
それによると、都道府県では三重県が、市・特別区では岡山市がそれぞれ総合トップとなった。三重県の場合、北川正恭・前知事が行政改革と一体的に電子自治体作りを推進した結果とみられる。また岡山市の場合は、岡山県も岡山情報ハイウェイ整備などで上位(5位)にランキングされていることからも判るように、県・市の一体的な整備が進められたことよるものとみられる。
■早い取り組みが奏功 都道府県上位には、小規模地方(島根県2位、鳥取県4位)と大規模都市圏(東京都3位、大阪府7位)の両極がランクインしたのも特徴。島根県と鳥取県は、人口規模の小さいことからIT化が進めやすかった側面もあるとみられるが、両県知事が脱公共工事・積極的IT推進の姿勢を打ち出したことも大きいようだ。一方の東京都と大阪府は、規模が大きいため電子化が進展しにくいと考えられていたが、住民や企業からの突き上げをバネに、知事が自ら旗振り役を果たした結果と考えられる。
総合上位の結果について島田教授は、「取り組みが早かったところが上位に来ており、収まるべきところに収まった」と指摘する。また、詳細な分析は今後の作業となるが、効果を発揮しにくいはずの大都市圏の都道府県や市・特別区が上位にランクされたことに関しては「組織整備を重視した結果」とみる。東京都の場合、部レベルのIT推進室を置き、対外・対内の2人の部長を置いた。市川市や西宮市も従来なら課レベルが担当していたところを部レベルに引き上げ、情報系を重視しつつ、インターネットを活用しやすい体制を整えている。こうした結果がランキングにも表れていると推論している。
■セキュリティの重要性高まる 有名な先進自治体がランクインする一方で、隠れた先進自治体も判明した。「福井県の鯖江市は、アクセシビリティに優れており、茨城県つくば市も庁内情報化がかなり進んでいる」(久保助教授)という。ただし、総合得点では、三重県192.7、岡山市217.9の最高に対し、104.6の県や86.2の市があるのも事実。「後発自治体は、先進事例をウォッチできる面もあるが、ITは設備投資でなく、人間の意識が重要なことも認識すべき」(島田教授)としている。
また、総合順位が高い自治体でも、情報セキュリティのポイントが低いところがあることについては、「庁内情報化と行政サービスが優先された結果」と分析する。1999年に京都府宇治市で住民の個人情報が持ち出されたことが発覚した時点では、各自治体の関心もそれほど高くなかった。しかし、住民基本台帳ネットワークシステム(住基ネット)の問題や民間企業の情報漏えいの問題がクローズアップされるなか、ここ1、2年で急速に注目されるようになっているとみている。「セキュリティポリシー策定の機運が盛り上がっており、来年同じ調査をすれば、結果がかなり変わっている可能性がある」と指摘する。
今回の調査で初めて実施された投資効果については、別途詳細な分析が行われる予定。現時点で大まかに把握しているところでは「BPR(業務改革)の必要性については認められているものの、実際に行われているところは少ない。省力化を含めた投資効果を分析している自治体はごく一部に限られる」とみている。庁内情報化などはかなり進んでいるものの、事後検証が行われておらず、検証を踏まえて見直しの時期に来ている可能性があることも示唆した。
今後の分析について久保助教授は、「行政サービスの進んでいる自治体は、どういうインフラを組んでいるのか、どのように効率化を進めているかの相関を明らかにし、投資とのバランスなど仮説を導き出していきたい」と語っている。