米マイクロソフト(スティーブ・バルマーCEO)は7月12日から3日間、カナダのトロント市でパートナー向け年次イベント「ワールドワイド・パートナー・カンファレンス(WPC)2004」を開催した。1997年に開始して以来、今年で8回目。従来の「認定パートナープログラム」を4月に改定して初めての重要なイベントで、同社は、パートナー戦略が大きな転換期に差しかかっている理由や新たな支援策を数多く提示した。パートナー支援策が強化されるとあり、参加者は過去最高の約5500人を記録。同社の成長がパートナーによるところが大きかっただけに、「今後も2ケタ成長を続ける」と公約するバルマーCEOの目論みは、新パートナー戦略の成否にかかっている。(谷畑良胤●取材/文)
年次カンファレンスで新プログラムを発表
■「協調ビジネス」を強化、ISVの成功事例を増やす「まずは、皆さん起立して、隣同士で握手しましょう」──WPCの開幕を告げる初日の「ゼネラル・セッション」の冒頭、今回のイベントで陣頭指揮を執った米マイクロソフトのアリソン・ワトソン・パートナーセールス&マーケティンググループ担当バイスプレジデントが告げた。会場となったトロント市内のスポーツ競技場「エアーカナダセンター」を埋め尽くした5000人以上のパートナーと約2500人のマイクロソフト関係者は、この合図に応え、ひとしきり握手を交わした。
この「握手」の光景は、米マイクロソフトのパートナープログラムが、同社とパートナーの「タテの関係」から、パートナー同士が協業を進めビジネスを拡大する「ヨコの関係」を強化する戦略へシフトする転換期にあることを印象付ける。
米マイクロソフトは4月、1997年から実施してきた「認定パートナープログラム」を世界的に刷新。新たに「マイクロソフト・パートナー・プログラム」を開始した。パートナー同士が協業して新たなビジネスを展開する上で、必要な技術や情報などの提供を強化することが新たな目的だ。
このため米マイクロソフトは、今年度(05年6月期)は全マーケティング予算の35%(17億ドル)をパートナー支援に充てる。パートナー支援額は、昨年度(04年6月期)に比べ2億ドル増えたため、「パートナーと一緒に顧客を獲得する体制を継続的に整備できる」(ケビン・ジョンソン・ワールドワイドセールスマーケティング&サービスグループ担当バイスプレジデント)ことを強調する。
従来との大きな違いは、各パートナーのビジネスをマイクロソフト側で先導していた手法を改め、マイクロソフト製品や技術をベースにパートナー独自のサービスやアプリケーションを加えた「協調ビジネス」を強化する点。これにより、ISV(独立系ソフトウェアベンダー)などの成功事例を増やし、“マイクロソフト・シンパ”を世界に拡大することを狙う。同社はこの「協調ビジネス」を推進する施策を「スルー・パートナー・マーケティング(TPM)」と呼び、新たなコンセプトとして世界に広める。
このイベントでは、「マイクロソフト・パートナー・プログラム」に新たな機能が数多く追加された。高い業績をコンスタントに出しているパートナーの導入事例などを基に、最適なシステム構築に至る目安(コンピテンシー)をウェブサービスなどで情報発信するツールを近く提供する。そして中堅・中小企業向けに同社が注力し始めたERP(統合基幹業務システム)やCRM(顧客情報管理)、BI(ビジネスインテリジェンス)など「マイクロソフト・ビジネス・ソリューション(MBS)」のコンピテンシーモデルも検討中であることを明らかにした。
■中堅・中小向けにはMBSが主軸に 日本法人は独自の戦略も 今回、特に強化項目が多かったのは「協調ビジネス」の中核を担うISVに対するサービスやツールの強化策。プログラムには、ISVがマイクロソフト技術を自社製品に簡単に組み込む方法を提供する「ISVロイヤリティ・プログラム」やウェブのツール上でISVとマイクロソフト社員を引き合わせて営業、開発、マーケティングなどのプロセスに関するサポートを行う「ISVバディ・プログラム」、ウィンドウズのエラーレポートを使ってユーザー企業がISVのアプリケーションで体験した問題を情報収集できる「ウィンドウズ・エラー・レポーティング」──などがあり、9月までに各プログラムの開始時期が発表されることになっている。
最終日のイベントを締めくくる「ゼネラル・セッション」には、バルマーCEOが登場。壇上に上がるとすぐに、「本当に興奮している」と上気した面持ちで語り始めた。同社は昨年度、オープンソース陣営の攻勢を受けながらも、売上高が20%近く伸びたためで、この功績がパートナーに寄与していることをことさら強調。いつになく声を張り上げる場面が目立った。
バルマーCEOはこの中で、デスクトップ上の旧バージョンのウィンドウズを使用する企業が多いことに対し懸念を表明。「顧客の認識を改めて欲しい」(バルマーCEO)と述べ、ウィンドウズXPとオフィス2003へのアップグレードを促すために、キャンペーンなどを行うパートナーに対し総額5000万ドル分の資金提供も行う。
「マイクロソフト・パートナー・プログラム」の新施策は、世界と日本で同時進行で順次リリースされる予定だ。ところが、マイクロソフト日本法人では、「日本ではMBSのリリースを06年以降に予定しており、販売体制も米国と異なり、日本独自の方法を採用する計画」(宗像淳・業務執行役員ビジネスパートナー営業本部本部長)と、現場ではバルマーCEOの発言と微妙に食い違いを見せる。日本のパートナーは、自社でCRMを持っていたり、他社とアライアンスを組みERPを導入している場合が多い。そのため、「MBS製品が日本で出荷されると、マイクロソフトと競合することになる」(日本から参加したあるISV関係者)とする心配の声に配慮したためだ。
「毎年2ケタ成長を遂げる」(バルマーCEO)という目標を達成するためには、今回の新パートナー戦略をいち早く定着させることが必須となる。パートナーが販売面や他社とのアライアンスで自活していくことで、“マイクロソフト・シンパ”を増殖させ、オープンソース陣営の追随を許さないマイクロソフト製品の囲い込み状態を生み出したいと考えているようだ。
 | テーマは「Velocity」 | | | | 今年の年次イベントのテーマは「Velocity(速度)」だ。お金が巡回するスピードやパートナー同士がアライアンスを進める勢い──などの意味を込めた。とにかく、各パートナーがマイクロソフト製品を担ぎ、急いで成長を遂げて欲しいと願っている。そのための新パートナー戦略を提示したが、参加者に理解が得られたと確信している。 | | 特にオープンソース陣営の攻勢が強い日本のパートナーには、新戦略に基づき、顧客獲得を急いで欲しい。世界的には、.NET開発者の数がJava開発者を上回った。マイクロソフトの.NETフレームワークに対する期待が高まっているので、最高のソリューションを企業などに提供する環境が整いつつある。 | |