今年もファッション界の一大イベント、ニューヨーク・コレクションが2月4日から11日まで開催された。直前の大雪が残るニューヨークの街は例年以上に厳しい冷え込みとなったが、マンハッタン中心部の公園内に作られた特設会場は例年以上の華やかさと賑わいで、出展社も観客も熱いまなざしを新作のドレスに注いでいた。ショーはオリンパスがメインスポンサーとなっており、取材や写真撮影ではデジタル機器が威力を発揮していた。(米ニューヨーク発)(田中秀憲(ジャーナリスト)●取材/文・写真)
運営から取材までITが不可欠に
■ネット上でスケジュール管理 「オリンパス・ファッション・ウィーク」と名付けられたファッションショーのニューヨーク・コレクションが、今年も開催された。
会場はいつものようにマンハッタン中心部にあるブライアント公園内に作られた特設テント。ショーのスケジュールが異常なまでに過密であることから、主催者側のスケジュール管理はもとより、出展社やモデルの多くもインターネット上でスケジュールを管理し、進行に支障がないよう細心の注意が払われている。会場のあちこちでノートパソコンを挟んで打ち合わせをする関係者を目にした。ショーの予定をPDA(携帯情報端末)で確認するモデルも多い。
近年のニューヨーク・コレクションは、ファッションの専門家から「パリやミラノのショーに比べ独創性がない」、「華やかさに欠ける」などの批判も聞かれる。しかし、あらゆるビジネスの中心地であるマンハッタンという場所柄か、欧州でのショーよりもビジネス面で厳しい目が向けられ、華やかなショーの裏側での競争はどこよりも激しいといわれている。
今年も、ニューヨーク出身のダナ・キャランやラルフ・ローレンなどの有名デザイナーのショーを中心に、スケジュールの一番最後にはジェニファー・ロペスのショーも開催され、大盛況の内に会期を終えた。
■公園全体をホットスポットに ニューヨーク・コレクションは、オリンパスがメインスポンサーとなっている。世界中から取材に来る記者やカメラマンへのアピールとサポートを行い、市場での認知度と好感度アップが目的だ。
しかし、デジタルカメラがプロアマを問わず普及した現在、スポンサードの目的は同じであっても、その方法は徐々に変化してきている。会場内には最新のデジカメやMP3プレイヤーを展示し、ショーを見に来た観客への訴求を行うとともに、特に色合いや画像品質などが重視されるファッション界でデジタル機器の第一人者であることを強く訴えていた。会期中に放送される各種のテレビ番組へのコマーシャル露出も多く、この時期は「デジカメと言えばオリンパス」といった印象すら与えるほどの力の入れようだ。
会場内で一番変化があったものといえば、やはりデジタル機器の普及だ。ほぼ全てのカメラマンがデジタルカメラを使用している。かつてのように会場の片隅でフィルムを入れ替える姿は全く見ることができず、カメラマン同士が機材について語り合う様子は、さながら最新デジタルカメラの品評会のようでもある。

ショーの会場となったブライアント公園は、民間非営利活動(NPO)法人であるニューヨークワイヤレス(
http://www.nycwireless.net/)の手によりホットスポット化されており、多くのカメラマンはノートパソコンを持参。撮影したばかりの画像データをチェックし修正作業を行い、すぐに世界中のクライアントに納品していた。オリンパスをはじめ、いくつかのスポンサーのブースでは、高速回線に接続されたパソコンが用意され、報道陣に開放されている。
テレビ局の取材にも変化が見られる。これまでは、放送局のクルーはハンディカメラを抱え、照明や音声係など多くのスタッフが一緒になって取材していた。しかし今では、片手で持てるデジタルビデオカメラを使って、少人数のクルーでの取材も珍しくない。
ショーに出演しているモデルたちでも扱える程度にまでコンパクトになった現在のデジタル機器は、編集もデータの送信も全てオンライン上で行える。その結果、これまでとは違い身軽に取材を行うグループが増え、スタッフには女性の姿も目立つようになってきたことがIT化の影響の大きさを物語る。
■秒単位の進行管理
ショーの進行もITなくしては成り立たない。進行は秒単位の精度で構成されており、流される音楽や照明の演出から、モデルが舞台に登場して退場する時間まで、わずかなズレも許さないように管理されている。会場後方には専用のブースがあり、進行スタッフと音楽プロデューサー、照明アーチストたちがパソコンのモニタと目の前のショーを交互に見やりながら完璧な演出を実現しようとしている。全てのスタッフはヘッドセットを使って情報を共有しており、観客には分からないような細かな修正も随時行われている。
ショーとそれを取り巻く環境がITによって大きく様変わりしたのはここ数年のことだ。今日では多くのデザイナーがパソコンを駆使して日常的な作業としているという。他の多くの業種がそうであるように、ファッション業界もITによって大きく様変わりしつつある。しかもその波は主催側、出展側、そして取材側の三方向から押し寄せてきている。旧態依然の職場といわれることの多いファッション業界だが、今後は最新のITを駆使する分野になる可能性は高い。しかもその時期はすぐ目の前にまで来ているのかもしれない。