有力チャネルへ変貌
パソコン、周辺機器のコモディティ化が後押し
パソコンや周辺機器などIT機器のコモディティ(日用品)化が急速に進むとともに、オフィス通販が有力販売チャネルへと変貌しつつある。従来のオフィス通販では、コピー用紙、コピー機やプリンタのトナー、フロッピーディスクなどのメディアが“3大消耗品”としてOA関連商材の中心を占めていたが、最近ではプロジェクターやデジタルカメラ、LAN関連などIT機器の販売量が急速に増加している。IT機器が通販に適した商材に変わりつつあることを受けて、オフィス通販各社はIT機器の拡販に力を入れている。IT機器のベンダー側も「有力な販売チャネル」(IT機器ベンダー幹部)としてオフィス通販ルートの活用に意欲を示している。(安藤章司●取材/文)
■メモリやLAN関連機器が拡大、プロジェクターなどの高額商品も オフィス通販大手のアスクルでは、HDD(ハードディスクドライブ)、メモリ、LAN関連機器などIT機器の販売が拡大している。昨年度中間期(2004年5月21日-11月20日)の連結売上高のうちOA・PC用品の構成比は45.3%を占め、前年同期比で8.5%増えた。OA・PC用品の売上高うち、コピー用紙など消耗品とIT機器の比率は約8対2で、依然として消耗品の比率が高いものの「IT機器は伸びる潜在力が大きい」(アスクルの岩津徹・オフィスライフ・クリエーションOA&PCビジネスリーダー)と、OA・PC用品の拡充に取り組む。
オフィス通販が台頭する以前、オフィス向けIT機器の販売は、システムインテグレータ(SI)など訪問販売事業者が納品しているケースが多かった。ところがIT機器の低価格化が進み、オフィス通販会社に比べてコスト高の訪販ビジネスの形態では採算が合わなくなってきた。顧客企業も、低価格のハードウェアを訪販業者に発注して渋い顔で納品されるよりは、コピー用紙やトナーと一緒にまとめてオフィス通販に発注する方がいいと考える動きが加速。「IT機器の商流を変えつつあるのは事実」(岩津リーダー)と、IT機器の販売量拡大に手応えを感じている。
この動きを敏感に感じ取ったのが大塚商会だ。00年頃、コピー用紙やトナーなど消耗品の発注がアスクルなど新興オフィス通販へ移行し始めたのに危機感を覚え、独自のオフィス通販ビジネス「たのめーる」を立ち上げた。この結果、昨年度(04年12月期)のたのめーる事業の売上高は460億円を突破するまでに急成長。自社が納品したコピーやプリンタなどの消耗品の販売をアスクルに奪われるのを防いだ。もともとOAに強い大塚商会だけに、たのめーる事業の売上高の内訳はOA・PC用品が約半分を占め、このうちIT機器やソフトウェアは約3割に上る。
IT機器ではUSBメモリやマウス、LAN関連機器などの商品に加えて、最近ではプロジェクターやデジタルカメラなど高額商品も売れ始めた。デジカメは業務用途が多いためか、防塵・防水タイプがよく売れ、プロジェクターは本体に加えて取り替え用のランプも多く売れる。昨年度のたのめーる事業は前年度比40.4%増と大きく伸びたが、IT機器に限って見れば「たのめーる事業全体の伸びよりも高い伸び率を示している」(大塚商会の松尾高史・MRO事業部商品企画部部長)と、コモディティ化が進むIT商材の販売拡大が続いていると話す。
カウネットは、販売価格が2万円を下回る“お手頃価格”のデジカメをカタログに掲載したところ、予想を上回る勢いで売れた。液晶モニタなども好調に売れており、「コモディティ化したIT機器は、コピー用紙やトナーと同じような消耗品として認識している」(カウネットの坂本喜章・需要創出部部長)と、IT機器がオフィス通販に完全に定着しつつあると分析する。
■在庫切れや価格変更がネック、IT機器専用のウェブで対応も  | | オフィス通販 | | | | アスクルの昨年度(2005年5月期)の連結売上高の実績予想は前年度比約11%増の1420億円。大塚商会が運営するたのめーる事業の昨年度(04年12月期)の売上高は同40.4%増の463億円に達しており、今年度(05年12月期)は、たのめーるを含む事務用品販売MRO事業全体で前年度比24.1%増を見込んでいる。カウネットも今年度(06年3月期)の単体売上高で前年度比16.4%増の370億円を見込むなど、軒並み高い成長を続けている。 | | |
オフィス通販におけるIT機器の販売増を受けて、IT機器ベンダーも「有力な販売チャネル」(IT機器ベンダー幹部)としてオフィス通販をとらえ始めている。パソコン・家電量販店向けにIT機器商材を供給してきたパソコン周辺機器メーカーやネットワーク機器メーカーの中には、コンシューマ市場だけでなく、オフィス市場も開拓したいとする意向が強い。ところが、SIなど訪販系販社の多くは、こうしたベンダーが供給する単価の安いハードウェアは積極的に取り扱わない傾向があることから、オフィス通販チャネルの拡大に期待を寄せるベンダーが増えている。
もちろん、オフィス通販側にも悩みはある。オフィス通販が出版するカタログの発行は基本的に半年に1回。しかしIT機器の商品サイクルは数か月単位でめまぐるしく変わる。オフィス通販は、約半年というカタログの有効期限内に商品の在庫が切れたり価格が変わったりすることを極力避けたいが、IT機器に関しては「なかなか通用しない」(オフィス通販関係者)のが現実だ。この解決策として、オフィス通販会社の中には、カタログ以外にIT機器販売用のウェブを強化することで、拡販を加速させる動きが出ている。
アスクルは、昨年12月にOA・PC関連商材の専門ウェブショップ「OAステーション」を開設し、新商品や価格変動への素早い対応を実現した。「インクジェットプリンタなど季節商材にもタイムリーに対応できる」(アスクルの岩津リーダー)とIT機器の商材特性に自ら歩み寄った。商品サイクルが短いIT機器の特性を熟知する大塚商会では、取り扱っているIT機器のうちカタログに掲載しているのは約2割にとどめており、その他8割はウェブ上で掲載することで商材の変化に柔軟に対応できる体制をつくっている。
IT機器の低価格化、コモディティ化は今後も進展すると見られており、レーザープリンタやプロジェクター、パソコン本体など、より大型の商材でもオフィス通販チャネルで販売される割合が増えることが期待されている。 アスクルでは、全国約1500社のエージェントと呼ばれる販売パートナーを組織しており、通販の適正梱包サイズを超えるような大型商材に関してはパートナーとの協力体制を進めることで販売を強化する可能性も模索している。
伸び続けるオフィス通販チャネルは、IT業界の販売形態により大きな影響を与えることは間違いなさそうだ。