PCサーバーでデルと激しい2位争いを展開する日本ヒューレット・パッカード(日本HP、小田晋吾社長)が“競争で優位に立つ切り札”として位置づけているのがパソコンやサーバー、ストレージなどの組立工場である昭島事業所(東京都昭島市)だ。国内最大の市場である首都圏に工場を構え、納期や納品形態など顧客の要望にきめ細かく対応することで、競合との差別化に結びつける。(安藤章司●取材/文)
要望に応じ工場出荷前に設定を完了
■「デルのシェアを上回る」
デルは射程距離に入った──。昨年度(2004年10月期)までPCサーバーの国内出荷台数シェアでNEC、デルに次ぐ第3位に甘んじていた日本HPだが、今年度(05年10月期)は通期でデルのシェアを上回る目標を掲げて、猛烈な営業攻勢をかけている。IT調査会社のノーク・リサーチによれば、04年10月-05年3月の6か月の出荷台数シェアでは、日本HPが20.2%と初めてデルを抜いた。このままの勢いが続けば、年間を通じてデルのシェアに迫る可能性も出てきた。
日本HPが競争で優位に立つ切り札と位置づけているのが昭島事業所だ。PCサーバーそのものの性能や品質で優位に立つのは必須条件だが、これに加えて納期や納品形態など顧客の要望にきめ細かく対応することで日本HPの付加価値を高める。国内最大の需要地である首都圏に立地している好条件を生かして、「競合他社にはない、工場発の付加価値サービスを提供していく」(牧野益巳・TSGサプライチェーン本部本部長)と、昭島事業所をシェア拡大の要としてフル活用する。
■7月1日から新サービス
昭島事業所では、販売パートナーやウェブサイトなどから受注したサーバーやパソコンを、顧客の要望に従って生産している。メモリやハードディスクの容量や個数、基本ソフト(OS)やアプリケーションの種類など、顧客の要望に沿って1台ずつ組み上げられる。
今年7月1日からは、こうした受注生産の利便性をさらに高める新サービスとして、「HPファクトリー・エクスプレス」を始めた。納品したその日にすぐ使えるよう、あらかじめ工場出荷前に顧客の要望に沿った設定を完了させるサービスだ。
サーバーなどでは周辺機器やケーブル類などが膨大な量になる。客先に届けた後で梱包材から本体や周辺機器を取り出し、ケーブルで接続し、実際に電源を入れるまでの作業が大きな負担となる。HPファクトリー・エクスプレスは、客先で電源を入れればすぐに稼働できるよう、工場出荷前にほぼすべての設定を完了させてしまうサービス。02年に旧コンパックコンピュータと合併する前も、部分的に工場出荷前の設定サービスは行っていたが、合併後、体系立ててサービスを開始するのは今回が初めてだ。

梱包材の多くは国際環境認証のISO14000シリーズの認定事業所である昭島事業所内で取り外す。最低限の梱包材で客先に納入するため、環境への負荷を軽減できる。
HPファクトリー・エクスプレスでは、設定の度合いに応じてレベル1-5までの5段階のサービスメニューを用意した。日本HPによれば、国内に組立工場を持つ他のサーバーメーカーでも工場出荷前の設定サービスは行っているが、「(他社は)個別対応が多く、当社のようにサービスメニューを分かりやすく体系化したのは先進的な取り組み」(上原宏・エンタープライズストレージ・サーバ統括本部インダストリースタンダードサーバ製品本部本部長)と自負している。
■レベル1-5、5段階のサービス まず、レベル1ではサーバー本体単位でハードウェアの組み込みやRAID(複数のハードディスクを1台の記憶装置として管理する技術)の構成、ソフトウェアのインストールなど比較的簡単な設定を出荷前に行う。価格は税抜き1万2600円からと手頃で、客先には5営業日で届け、その場で電源を入れてすぐに使えるようにする。レベル2では、複数のサーバーやストレージを格納するラック単位での設定を行い、6営業日で客先に届ける。価格はサーバー5台をラックに組み込むケースで税抜き15万7000円から。
ラックに複数のサーバーやストレージを組み込むと、機器を接続するケーブルの取り回しが複雑になり、専門的な知識が必要となる。万が一、ケーブルの取り回しを間違うと、冷却風に干渉して熱がこもりやすくなったり、機器の状態を示す表示ランプがケーブルで隠れてしまったりと、将来の故障の遠因を作ってしまう可能性がある。
レベル3では、顧客の要望に沿った工場出荷前の事前設定を行った上で、客先での現地設置作業を行う。ハードウェアやソフトウェアの組み込みやケーブルの取り回し、パラメータの設定作業は工場出荷前に行っているため、客先での現地作業は主に設置作業と最終チェックが中心となる。
ここでポイントとなるのは、客先で設定作業などを行うカスタマーエンジニア(CE)の運用効率の高さ。これまで、サーバーの出荷が集中した時はCEの現地への派遣が追いつかないことがあった。HPファクトリー・エクスプレスを活用する顧客が増えれば、手間がかかる設定作業の大半を工場出荷前に行うので、CEが客先に滞在する時間が減り、より多くの客先での設定作業をこなせるようになる。
また、レベル4では、外付け記憶装置やネットワーク機器など、より高度な設定を行い、レベル5では構成設定値の設計支援などのコンサルティングサービスを行う。
日本HPでは、HPファクトリー・エクスプレスのサービス開始から1年間で、サーバー出荷台数の約10%に同サービスを適用し、約6億円の売り上げを見込んでいる。昭島事業所の機能をフルに活用したきめ細かなサービスを拡充させることでシェア拡大に結びつけ、「最終的にはトップを狙う」(上原本部長)と意気込む。
デルを追い抜いた次のターゲットとして、PCサーバー市場でトップシェアを誇り、国内各地に多数の事業所を持つNECに迫る考えだ。
