電子申請システムからスタート
地元IT企業の活力を生かす
北海道庁が中心になって進める北海道電子自治体プラットフォーム(HARP)が、来年4月1日から実用フェーズに突入する。SOA(サービス指向アーキテクチャ)を全面的に採用し、システム開発の中核となる株式会社HARPを設立するなど先進的な取り組みを行っており、道内市町村全体の8割を超える約150団体が参加する予定だ。まずは電子申請システムが稼働し、その後、地元IT企業の活力をフルに生かしながら、施設予約や文書管理システムなど参加自治体が共同で使える業務アプリケーションの種類を順次増やしていく。(安藤章司●取材/文)
■150を超える自治体が参加を表明「コストメリットは大きい」 2004年度に基盤設計に着手したHARPは、今年度、詳細設計と共通システム基盤や電子申請システムなどの開発段階に進み、来年4月1日から実用フェーズに入る。電子申請システムからサービスを始め、順次業務アプリケーションの種類を増やしていく。北海道は市町村合併により今年度末までに自治体数が約180市町村に減る見込みだが、このうち150を超える自治体がHARPへの参加を表明している。
HARPは04年度から08年度までの5年間で初期投資や運用経費などすべて含め約25億円の当初計画予算を予定しており、参加団体などで費用を分担していく。仮に、HARPで提供予定の業務アプリケーションを道内の市町村がすべて個別に開発したとすれば総額で400億円かかるという試算もあることから、「HARPに参加するコストメリットは大きい」(石川修・北海道企画振興部IT推進室情報政策課主幹)と胸を張る。
北海道最大の人口を誇る札幌市もHARPに参加しているが、HARPに先立つ01年から独自の総合行政情報システムの構想を進めており、当面は一部の利用のみにとどまる見通し。だが、「HARPで良いアプリケーションが出てくれば、随時、利用を検討する」(見上雄一・札幌市市民まちづくり局情報化推進部IT推進課企画調整係長)と、搭載される業務アプリケーションの出来次第でどこまで利用するかを決める意向だ。
北海道庁などが出資し、HARPシステム開発の中核となる株式会社HARP(山本邦彦社長=北海道副知事)では、すでに新しい業務アプリケーションの開発構想を進めている。来年4月1日にサービスを始める電子申請システムは、HARP参加団体などが組織する北海道電子自治体共同運営協議会(高橋はるみ会長=北海道知事)が正式に議決して発注した業務アプリケーションだが、これ以外にも株式会社HARPが独自に開発するアプリケーションもある。
現在開発を進めている施設予約システムはその典型例で、株式会社HARPが主体となり自治体向けに開発を進める。「使い勝手の良いシステムに仕上げることで、1団体でも多くのユーザーに使ってもらう」(近藤晃司・HARP取締役総務部長)と、ユーザビリティの高いシステムを目指している。
■札幌市、施設予約システムに注目 広域利用で利便性向上も 株式会社HARPが開発する施設予約システムは、札幌市も注目している。現在、札幌市で稼働している施設予約システムは体育館などのスポーツ施設に限られており、システムの老朽化が課題となっている。HARPの施設予約システムは来年度中に提供開始される予定で、「施設予約はHARPを使うことも検討している」(札幌市市民まちづくり局情報化推進部IT推進課企画調整係の北村浩明氏)と、使い勝手次第で前向きに利用を検討する。
これを受けて株式会社HARPでは、札幌市周辺の自治体にも同様の施設予約システムの利用を働きかけ、「広域での施設予約の利用」(近藤HARP取締役)につなげていきたい考え。
 | | HARP | | | HARPは、電子申請システムなどの業務アプリケーションを“サービス”と捉え、これらサービスを共通システム基盤の上に搭載し、XMLウェブサービスなどで互換性を保つSOAを全面的に採用している。 個々のサービスは「コントローラー」と呼ばれるXMLウェブサービスをベースにしたデータ変換システムで結ばれているため、どのOS上で開発されたアプリケーションでも互換性が保たれ、「特定のOSやベンダーに依存しない」(黒田哲司・北海道企画振興部IT推進室情報政策課主査)のが最大の特徴だ。 HARPアーキテクチャの中核であるコントローラーは、地元企業や大手ITベンダー、北海道大学の教授などが出資する地元ソフト開発企業のテクノフェイス(栗田好和社長)が手がけた。 | | |
たとえば、札幌市周辺部の住民は、隣接する自治体の体育館や文化施設の方が距離的に近いケースがある。このため施設予約の広域利用が実現すれば、市民の利便性が高まる。さらに広域対応の範囲を広げれば、「北海道内2泊3日、野球、テニス、温泉…」といったキーワードで道内旅行の計画が立てられる施設予約システムに仕上げることも可能だ。「旅行先のレストランで食事をして、民宿などに泊まれば、観光産業の振興にも役立つ」(同)と、広域施設予約の経済効果を目論む。
仮に、施設を持つ市町村以外からの利用者と同じ料金設定であることに不公平感が生じれば、外来者の利用料金を若干高めに設定するなどして解消を図ることもできる。
北海道庁では、施設予約以外にも、文書管理、財務会計、人事給与など自治体が共同して使えるバックオフィス系の業務アプリケーションを「HARP上に搭載する」(小林誠・北海道企画振興部IT推進室情報政策課地域情報化グループ主幹)ことを検討している。
株式会社HARPでは、こうしたシステムの開発にできるだけ多くの地元IT企業に参加してもらうよう働きかけている。一連のHARPの開発に参加するIT企業は、地元企業を中心に数十社に達する勢いで推移しており、今後はさらに多くのベンダーに参加してもらうことで、より安価で使いやすい業務アプリケーションの開発を進める。
HARP上の業務アプリケーションの利用について、道外の自治体からの問い合わせが相次いでおり、こうした自治体には自治体専用のネットワークであるLGWAN(総合行政ネットワーク)を使ったASP(アプリケーションの期間貸し)サービスの方式での提供を予定している。
業務アプリケーションを使う自治体が1つでも増えれば、その分だけ1団体あたりのシステム開発費や運用費を低く抑えられる。また、道外の自治体の利用が増えれば、株式会社HARPにとって道外からの収益を稼ぐことになり、道内の利用料金の低減や新規の開発案件などを通じて道内の自治体やITベンダーに収益を還元できる。
SOAの全面採用によりOSやベンダー依存から脱却を果たしたHARPは、来年4月以降、いよいよ実用フェーズへと突入する。参加する自治体の電子化コストを大幅に削減できるばかりか、地元IT産業や観光産業などへの経済的な波及効果の期待も高まる。すでに基盤はほぼ完成していることから、今後、どれだけ魅力的なアプリケーションを揃えられるかがカギとなりそうだ。