「プロコン」というイベントをご存じだろうか。全国62校の全国高等専門学校(高専)の生徒たちが、年に一度各地から集まって開催しているプログラムコンテストのことだ。予選を勝ち抜いて、本戦に出品できるのは、課題部門が20チーム、自由部門が20チーム。最優秀賞には、文部科学大臣賞が与えられる。だから、生徒たちは誇りをこめてプロコンを、「ソフトウェアの甲子園」と呼ぶ。豪腕の快速投手あり、好プレーありの、ソフトウェアの甲子園をのぞいてみた。(田中繁廣●取材/文)
“ソフトウェアの甲子園”で熱い闘い
■「街に活きているコンピュータ」
16年目を迎えた「プロコン」の会場は、鳥取県の米子コンベンションセンター。10月9-10日の2日間、予選を勝ち抜いた59校99チーム、約300人が集まった。初日は、課題と自由部門の40チームがブースを並べたデモや、プレゼンテーション審査などが行われる。
高専は中学でもトップクラスの生徒を集めて、5年間の一貫教育で実践的な技術者の養成を目指す専門学校。それだけに、1年近い時間をかけて磨きに磨き抜いた作品の技術レベルは高い。
プログラムコンテストといえば、素人にはわかりにくい難解なアルゴリズムや処理速度の速さを競うイメージを抱きがちだが、高専の「プロコン」はちょっと違う。
「プログラムの優劣そのものよりも、生活や社会との関わり合いのなかで、コンピュータをどう生かせるのかという独創的なアイデアや提案力を備えていることが基本的な条件」(山崎誠・第16回プロコン副委員長=長岡工業高専教授)という。ちなみに今年の課題部門の統一テーマは、「街に活きているコンピュータ」。
■君を感じるインターネット?
会場の中で終始人混みが絶えなかったのが、「Antwave-超次元コラボレーションブラウザ-」(自由部門最優秀賞)。津山高専の作品で、リーダーの井上恭輔君は昨年の文部科学大臣賞受賞者でもある。
この作品は、ハイブリッドP2P(ピア・ツー・ピア)技術を活用した「グリッドブラウジング」というコンセプトを提唱している。ブラウザ同士を相互に接続し、他の利用者の検索の経路やさまざまな情報を交換しながら、ネットサーフィンを楽しもうという新しい世界だ。
これを使えば、あるサイトのページを検索した人たちが次にどんなページに移動しているかという「道筋(経路)」を図式化して、「人だかり」のあるページを知ったり、自分が気づかない人気サイトに容易にたどり着くこともできる。

また、知りたいことがあるのに、適切な検索キーワードが思い当たらないという時にも便利だ。とりあえず思いついたキーワードを入れてみれば、他の人たちがそれに関連したどんなキーワードを入力したかという一覧が表示される。「先人の知恵」を頼りに自分が知りたい情報に行き着くことができる。
「Antwave」は、「プロコン」という枠を超えて、明日のネットの世界を変革させる可能性を秘めた作品という印象を受けた。審査の結果、見事に自由部門の最優秀賞と文部科学大臣賞を受賞した。
■「こんなものがあれば便利だね」 課題部門での文部科学大臣賞を受賞したのは、鳥羽商船の「お洗濯とりこMail」。「街に活きるコンピュータ」という課題に対して、社会や環境という視点からさまざまな作品が出品されたが、身近な生活に即した提案が高く評価された。内容はタイトルを見ただけでも分かる。そう、そう、洗濯物を干したまま出かけた時などに、こんなのあれば便利だよね、と誰もが納得するアイデアを形にした。
システムは、USBカメラ2台、温湿計、風力計、雨感知器に、メールシステムで構成されている。センサーの情報から雨が降ってきたと判断すれば、洗濯物を吊したロープをモーターでたぐり寄せ、ビニールシートで覆われた囲いの中に取り込んでくれる。また、風が強い、カメラに不審者が写ったなどの情報が得られた場合は、利用者の携帯電話に電子メールで警告も送ってくれる。
日常生活のなかに自分の技術をどう生かせるのかという「プロコン」の精神を具現化したという意味では、最もふさわしい作品が最優秀賞に選ばれたといえるかもしれない。
■ハートを捜せ
「プロコン」のなかで、唯一の勝ち抜き競技が「ハートを捜せ!」と題されたネットワーク対戦ゲーム。簡単にいえば、高度な電子ジグソーパズルみたいなものだ。
参加校は、まず最初に原画像を競技用のサーバーからダウンロードする。つぎに、原画像からハート型に切り出された100種類の断片画像が、サーバーから与えられる。それが原画像のどの座標から切り出されたものかを解析せよというのが問題だ。舞台のうえに各校の代表が並び、出題されたテーマに対して、プログラムの精度と時間と最適解を競う。
今年は海外から招待されたモンゴル科学技術大学と、ハノイ工科大学が予想外の健闘をみせたが、オープン参加であったため、審査対象外となった。優勝と文部科学大臣賞は久留米高専が獲得。準優勝は詫間電波高専、3位は金沢高専という結果となった。
来年の「プロコン」は、10月7日、8日、茨城県に舞台を移して開催される。
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Part2 まだまだあるぞ、こんな面白作品
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