メインフレームからオープンシステムへ
年間システム運用経費を4億円削減
自治体の電子化が着々と進められている。その課程でクローズアップされてきた問題が、既存のメインフレームを中心としたバックオフィス系と電子申請などのフロント系システムの連携。東京都葛飾区は、メインフレームのサポート期限が切れるのに対応し、共通データベースを備えたオープンシステムに移行した。さらに「メタフレーム」を使ったシンクライアントサーバーシステムも採用した。(川井直樹(本紙副編集長)●取材/文)
■基幹システムを再構築 カスタマイズ率は10%以下に 自治体にとって、電子自治体構築のためには既存の住民記録、税、財務会計などを搭載したメインフレームと、介護保険などの業務系サーバー、さらに電子申請や施設予約といったフロント系システムとの連携が必要となっている。しかし、メインフレームで構築した堅牢なシステムからなかなか脱皮できない業務体系や、これまで営々として開発してきた基幹システムに対する信頼感から、バックオフィスシステムの改革にまで手をつけられないのが実情だ。
財政難に対応して、オープンシステムに移行することで運用コストの削減が可能と分かっていても、初期投資額に対する懸念なども基幹システムの刷新をためらわせる要因になっている。
葛飾区は、2006年に基幹システムの中枢にあるユニシス製メインフレームのサポート期間が終了するのを受け、02年から基幹システムの再構築計画作りに着手、この年の12月には業者選定のための準備にとりかかり、03年2月に5社のプロポーザルの中からNECが新システム構築プロジェクトを獲得、今年4月から稼動開始した。
この過程でクリアしなければならない点も少なくなかった。新システムはオープンシステムで構築することは決めたが、問題となりそうだったのが旧来の業務系システム。新システムに移行しても、これまでの業務スタイルを変えたくない、という職員からの抵抗は根強い。これは何も葛飾区に限ったことではなく、各地の自治体で頭を痛めている問題である。
1つひとつ原課や職員の要望を聞いていたら、パッケージ導入でコスト削減を図ろうとしてもカスタマイズで余計な、それも膨大なコストが発生する。葛飾区では、余計なコストや時間をかけないために「カスタマイズ率を10%に抑える」(土肥直人・葛飾区政策経営部IT推進課長)ことを決め、これを断行した。それとともに、メタフレームを導入し、シンクライアントシステムに移行した。
業務系システムにシンクライアントシステムを導入するメリットとして小林孝・葛飾区政策経営部IT推進課IT調整係長は、「クライアントの性能に依存しないことや、セキュリティパッチもサーバー側で対応するだけで済む。出先機関のクライアントまでパッチをあてに回るのは結構大変」と、運用管理の容易さを挙げている。業務系と情報系は切り分けられており、庁内LANにつながるパソコンは、全庁で約1800台ある。
運用コスト面では、葛飾区の場合これまではメインフレームを中心としたシステムに例年5億2000万-5億3000万円程度の維持管理費用を予算計上していた。これをオープンシステムに移行したことで、「4億円程度削減でき、年間1億2000万-1億3000万円程度で済む」(土肥IT推進課長)と大幅な経費削減につながるという。
削減できた予算を住民サービス向上を目指した新しいフロントシステムに投入することもできるようになるが、「それには4億円もかからないだろう」(同)と見ている。予算を他の分野に振り向けることができるようになった。
新基幹システムでは、住民記録、税、国民保険、障害者手帳情報など多くの情報を格納した共通データベースを構築した。そのデータベース情報を各業務系システムで活用する。
最初に住民記録から運用開始したが、年度末など転入・転出や住民登録などの集中する時期でも、「多くの手続きを1回で済まそうとすると、夕方に来庁してもらって完了するのが夜の7時半とか、長い時間待ってもらうのが普通だった。しかし、新システム移行後は混雑時でも待ち時間が大幅に短縮でき、区民にも職員にも好評」(小林IT調整係長)という。混雑する時期には臨時の窓口まで設けて職員を充てていた。その必要もなくなり、住民サービスも向上したわけだ。
■業務は共通データベースと連携 システムの拡張性高まる 葛飾区の新しいオープンシステム構築を担当したNECは、「今回の新システム移行で重要なのは、オープンシステムとパッケージ利用のほかに共通データベースの構築」(青木英司・公共ソリューション事業部事業推進部長)をポイントに挙げる。NECの自治体向けシステム「COKAS-X」をベースに、各業務システムと共通データベース間の共通インタフェースを作り新システムに対応した。このため、「今後、法律の改正や業務の拡大で新しい業務サーバーを導入しても、この共通インタフェースを使えば新システムと連携できるようになる」(同)ということで、システムとしての拡張性を高めた。
また、オープンパッケージを導入したことに加え、葛飾区IT推進課の方針としてカスタマイズを10%以内に抑えたことで、開発費用を抑え、受注したベンダー側も無理な作業を強いられなかった。どこの自治体でも、業務形態の変化に対しては敏感に反応する。青木事業推進部長も多くの自治体案件を手がけた経験から、「ニーズとしては変えて欲しくない、というのが多い」としながらも、今回の葛飾区の新システムプロジェクトでも、カスタマイズの範囲が10%に制限されたことで、「この程度のカスタマイズは想定の範囲だった」とし、余裕があったと語る。
現在、葛飾区の共通データベースと連携している業務システムは、例えば介護保険システム(日立製作所)、老人医療システム(日立情報システムズ)、国民健康保険システム(アイネス)、戸籍システム(富士ゼロックス)など他社製が多い。衛生管理や学務管理、子育て支援などNECのシステムもあり、ビジネスとしてはNEC製への移行を提案したいところ。しかし、今回のプロジェクトで共通データベースを構築し、業務システムとの共通インタフェースを開発した意味は大きい。自治体のオープンシステム移行の事例として、他社連携を容易にするシステムを実現したのだから。
 | シンクライアントシステム | | | | 自治体がシンクライアントサーバーシステムを導入するケースが増えてきた。端末となるパソコンが多少古くてもレスポンスに遜色がないことや、端末にデータを記憶させないことでセキュリティ対策に役立つという面もある。 さらに、多くの情報システム担当者が挙げるのが、「人材が限られている役所で、情報システムのメンテナンスにかけられる職員数が限られている」という点だ。システムエンジニア(SE) |  | を抱え、レガシーシステムでアプリケーション開発までやっているような大きな情報セクションはいざ知らず、多くの自治体は限られた人数で情報システムの維持管理を行っている。 法律や制度改正、セキュリティパッチへの対応など、クライアント1台ごとに対応していては、多くの時間を必要とする。「サーバー側で対応すれば済む」というシンクライアントシステムのメリットが重視されている。 | | |