利幅薄い受託依存に危機感
販路開拓や営業力が課題に
受託開発がメインの中小ソフト開発会社で、パッケージソフトの開発に乗り出す動きが目立っている。IT投資が復調傾向にあるとはいえ、顧客からの低価格要求と、オフショア開発の浸透は、利益率低下と案件数の減少という問題を生んでいる。重層構造で成り立つソフト産業は、下にいけばいくほど利幅が薄い。3次下請け、4次下請けで案件を受注するソフト会社にとっては、存亡の危機とさえいえる。その打開策のひとつが、従来の受託開発依存から脱け出し、利益率の高いパッケージソフトに活路を見いだそうという動きだ。パッケージメーカーに変わろうとするソフト会社の戦略転換の内情を追った。(木村剛士●取材/文)
■わずか2年で軸足を移す パッケージ売り上げ5割に 新潟県新潟市に本社を置くソフト開発企業のウイング。わずか2年でパッケージソフトメーカーへと姿を変えた企業の1社だ。
受託ソフト開発と付随するSI(システムインテグレーション)事業が、約2年前までは売り上げの大半を占めていた。それが一転。今年度売上高11億6000万円(見込み)のうち、自社開発のパッケージソフトで稼ぐ売り上げが半分を占める見通しとなった。経常利益率は20%に達する。
初めての自社開発パッケージソフトであるログ収集・管理ソフト「オールウォッチャー」のヒットが、ウイングをパッケージソフトメーカーへと変身させた。
同社の樋山証一社長は、今後「パッケージソフトにリソースを集中させる」考えで、3年後には売上高を約2.5倍に増やし、パッケージ事業の比率を70%まで高める計画を打ち出した。受託開発に比べて利益率の高いパッケージビジネスへと軸足を移す。
■社内利用のツールが発端 東京に拠点設け営業開始 ウイングだけでなく、受託ソフト開発からの脱皮を目論む中小のソフト開発会社は最近増えている。
約500社のソフトベンダーを会員に持つ日本パーソナルコンピュータソフトウェア協会(JPSA)で、中小ソフト開発企業の実情に詳しい鈴木啓紹業務課マーケティング支援担当は、「中小規模の会員に話を聞くなかで、パッケージソフトをつくりたいと考えている企業が多いのは確か」と説明する。 IT投資が回復基調にあるとはいえ、顧客の低価格要求は相変わらず続き、中国やインドの技術者を活用したオフショア開発は、日本に本格的に根付いてきた。重層構造のなかで、下請けとして案件を獲得せざるを得ないソフト開発企業にとっては、利幅の減少という深刻な問題を突きつけられている。こうした環境から、「従来の下請けによる受託開発ビジネスでは、利益が取れないという危機感を持ち、パッケージに活路を見出そうとする」(鈴木氏)動きが高まっているわけだ。
沖縄県うるま市に本社を置くソフト開発企業のジャスミンソフトは、01年に創業して以来、ITベンダーからの下請けによる受託開発に特化してきた。だが、昨年春に方針転換。パッケージソフト事業へのシフトを試みる。
「生産性が10倍に向上する」(贄良則代表取締役)というソフト開発ツールをパッケージ化し、「ジャスミンハーベスト」として昨年5月から販売を開始。
今年4月には東京都内に営業所を開設し、販売パートナー獲得に向けた営業活動を本格的に開始した。背景にはやはり、「案件数の減少と開発単価の下落」がある。
ジャスミンハーベストはもともと社内利用のために作られた製品で、「低価格要求が強まり、そのなかで利益を確保するためには開発の生産性を高めなければならないという悩みから生まれた」という。
パッケージのラインアップ拡充にも乗り出しており、パッケージビジネスを売上高の半分にすることを狙っている。
■利益率の高さは魅力だが、特色なければ淘汰の波に  | | パッケージ市場は5-10%で成長 | | | 調査会社の富士キメラ総研では、日本の企業向けパッケージソフトウェアの市場は、今後緩やかに成長するとみている。2004年度のパッケージソフトの市場規模が9347億円だったのに対し、05年以降は年率5-10%のプラス成長が見込め、10年には1兆4218億円にまで拡大すると予測する。 ただ、日本のパッケージソフトの市場規模はまだまだ小さいのが現状だ。経済産業省がまとめた「特定サービス産業実態調査」によれば、情報サービス産業のうち、ソフト開発は全体の57.0%を占める。そのなかで、受注ソフトウェアは46.8%。ソフトウェアプロダクト(パッケージソフト)は10.2%に過ぎない。 情報サービス産業協会(JISA)のレポートによると、欧米は自社技術を核にパッケージを開発し世界に向けて拡販するのに対して、日本は各顧客の要望に合わせて個別にソフトをつくるビジネスが中心になっていると分析している。受託ソフト開発中心である日本の産業体質が、輸出を困難にしていることを示唆している。 | | |
ビズ・ロジックも受託ソフト開発専業会社から、パッケージソフトメーカーへと転身した。01年までの約20年間、顧客の要望にあわせたソフトを作り続けてきた。しかし、ITバブルが崩壊した00年前後に案件が激減。そのため、パッケージソフト開発に転換を余儀なくされた。04年3月にグループウェアのパッケージソフトを投入。今ではパッケージソフトが全体の半分を占めるまでに成長した。今年度内には代理店ビジネスも始めるなど、舵を切る。
ビズ・ロジックは、他の中小ソフト開発会社とは違い、すべて元請けとして事業展開してきた。売り上げも利益も下請けよりも大きいにも関わらず、戦略転換を迫られているのだ。顧客の要望に合わせて一からつくる受託開発が、いかに利益捻出が難しいかを物語っている。
利幅の薄い受託開発よりも利益率の高いパッケージソフト。そう考える企業は増えている。だが、販路もなく、エンドユーザーに接する機会も少ない下請け企業が、市場のニーズをつかみ、差別化ポイントを見つけ、販路を構築するのは決してたやすいことではない。JPSAの鈴木氏は、「パッケージソフトは、数も増え淘汰が始まっているように思う。特徴や強みのないソフトは生き残っていけないだろう」と分析する。
前出のウイングは、今でこそパッケージ事業は軌道にのったが、発売時期は00年。売れるまでに3年かかっている。間接販売をはじめ、丸紅ソリューションなどのITベンダーを販社として勝ち取ったことで伸びた。販路構築が大きな転機になったのだ。
ソリューションビジネスの営業支援コンサルティングサービスを手がけるネットコマースの斎藤昌義代表取締役は、「技術力に自信がある会社ほど、良い製品であれば何でも売れると勘違いし、営業や販路構築を軽視しがち」と指摘する。
パッケージソフトメーカーへと変わるためには、受託ソフト開発で培った技術力をいかにパッケージにのせて差別化を図り、販社の心をつかめるかが重要になる。