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<検証 SOX法は米IT業界をどう変えたか>伸び悩むIT投資 特需の期待は肩すかし
2006/01/09 14:53
週刊BCN 2006年01月09日vol.1120掲載
【米・ニューヨーク発】アナリストからは「Y2Kと同様の特需」とされ、IT産業界から大きな期待が寄せられた、サーベンス・オクスリー(SOX)法関連でのIT関連投資。しかしその売り上げは現在に至っても伸び悩んだままだ。IT分野の専門家や関係者が、この法案とIT産業の密接な関連を指摘したのに反して、企業経営者の判断は必ずしも期待通りではなかった。政府、企業、そしてIT業界のそれぞれが、異なる視点から向き合うこととなったこの新法の状況をIT業界の視点から分析する。(田中秀憲(ジャーナリスト)●取材/文)
初年度費用は1社平均436万ドル
■制定2年後のほろ苦い現実
「我が家の子供達はまだ『Xbox360』を手にしていないんだ。私が自社製品を入手することに対してはサーベンス氏とオクスリー氏が良い顔をしないからね」
このコメントは2005年のクリスマス商戦前に満を持して市場に投入されたマイクロソフトの新型ゲーム機「Xbox360」の人気について、同社CEOのスティーブ・バルマー氏が述べたものだ。このコメントに出てくる名前が、ポール・サーベンス上院議員とマイケル・G・オクスリー下院議員の2人を指しているのはいうまでもない。この2人は02年7月に大統領の署名により正式に制定されたサーベンス・オクスリー法、いわゆるSOX法の法案を連名で提出したことで一躍有名となった。
SOX法とは11章69項目の条文から構成されている。企業会計の監査の独立性、報告された内容に関しての企業の責任、報告に関しての情報公開(ディスクロージャー)のより一層の強化などを目的としたものであり、米国の証券取引所において上場している企業が対象となっている。同法の制定のきっかけになったのがエンロンやワールドコムなど、大企業による不祥事であることは良く知られている。注目すべきは会計処理等に虚偽があった場合に、企業の経営者個人が責任を問われる点で、罰金または長期の禁固刑という厳しい刑事罰が設けられているのは過去の大企業による不正事件からの教訓だ。
もちろんバルマー氏は、大人気の「Xbox360」はたとえ幹部社員であっても容易には入手できないほど品薄が続いているとPRしたに過ぎない。しかし、もし同氏が「Xbox360」を“役得”として入手するなら、SOX法の資産公開規則ではこれも彼の年収に含めなければならないとされているのも事実である。
同氏はコメント内に個人的見解を含ませ、無用なまでに綿密で、経営者個人に重い罰則を課すSOX法を批判したというわけだ。SOX法の内容について大手法律事務所が05年1月に行った調査でも、回答した企業の8割以上が「厳しすぎる」と返答しており、一般的な米国企業の幹部達にとっては、つい皮肉が口をついて出てしまうほど、SOX法に対しての嫌悪感が強いということがうかがいしれる。
■経営トップにITへの認識薄く
厳しい罰則は企業の法令遵守(コンプライアンス)を強いることとなる。しかし同法が要求する内容は非常に厳しく、かつきめ細かなものであり、そのため同法の対象となる規模の企業にとっては、求められる財務報告の明朗性実現のために、IT技術のサポートは不可欠なものと考えられていた。さらにセキュリティ分野やERPなど全面的にITが関わらざるを得ない同法の制定は、IT産業大手にとってY2K以来のビジネスチャンスと捉えられ、大きな期待が寄せられていた。
しかしSOX法制定後2年を経た今でも、同法関連でのIT投資は伸び悩んだままだ。かつてのITバブル期の過剰投資のツケを払い終わっていなかった各企業は、新たなIT投資には慎重だった。さらにSOX法が企業の内部監査分野が中心と見なされたことから、各企業のCEOはこの問題がIT分野と大きく関わることを理解できなかった。
一方、ITバブル期の投資のツケを現在も払い続け、社内で肩身の狭い思いをしている各企業のIT担当責任者たちも、SOX法がIT関連に深く関係することを大きな声では主張できずにいたため、結果としてIT分野への投資は後回しにされることとなってしまった。
米国企業の経営トップが、SOX法とITの重要な関連性を理解できなかったという事実は、日本版SOX法の制定に大きな教訓を残すこととなる。
05年3月にFEI(企業の財務担当役員などで構成される機関)が行った調査では、SOX法対策関連の経費は、初年度だけで1社あたり平均436万ドル。これは当初予測の194万ドルを2倍以上も上回るものだ。
IT関連は経費の過半数を占めるのではないかと予測されていたが、実際に優先されたのは人件費やコンサルタント関係。IT関連は後回しにされ、IT産業の期待は裏切られる結果となってしまった。先に述べたようにSOX法の施行時は、各企業がITへの過剰投資に慎重になっていた時期であった。そこに、さらなる出資が新たな負担になることへの嫌悪感が働いたことで、IT分野への出費が抑えられたと推測されている。
また米国企業の多くは、会計監査やIT部門をアウトソーシングするのが一般的であり、自社内の資産をSOX法のために割くケースは少なかった。実際にはSOX法への社内対策は、文書作成やフォーマットの変更が、その作業の大半となっていたという報告もある。 もちろんSOX法の基本は監査会計の明朗化を目的とした内部統制なので、大手会計事務所もビジネスチャンスと捉えていたのはいうまでもない。実際に多くの企業が大手会計事務所に莫大なコンサルタントフィーを支払ったとされている。
米国クレジットカード大手のマスターカード社の場合、コンサルタントを請け負ったデロイト&トーシュー社と、外部会計監査を担当した大手会計事務所のプライス・ウオーター&クーパース社の作業時間は4万5000時間以上。さらに新たなデータベースシステムを構築し運用を始めたところ、従来システムの不備や矛盾が露呈し、さらなる出費を強いられたという。
後手に回るSOX法対応システム
■人件費へのコスト割り当て重く
IT分野の関与が遅れた背景には、政府が提唱するガイドラインが不十分であり、事実上機能しなかったことも要因とする声が一部に上がっている。IT投資が抑えられたことにより、SOX法対策の業界標準(デファクト・スタンダード)となる製品も登場していない。本格的なIT投資はSOX法に対応する製品が安定稼働してからということで、大規模な出費は見合わせられたままである。
このようにSOX法施行初年度は、経費の大半が人件費であり、その作業内容から考えると次年度以降もコストの軽減はあまり見込めそうにない。これはIT投資の特徴である「イニシャルコストは高いが運用は安価」とは相反するものだ。このためIT産業界がSOX法絡みで大幅に業績を伸ばすのはしばらくは困難なのではないかと見られている。
SOX法コンプライアンスのためのシステム構築と付随するIT分野の作業、例えばセキュリティ分野やERPシステムとの融合などは、本来であればそれぞれがお互いに関連しながらも個別の対処が必要とされる。ひとくくりに「SOX法絡みのIT関連経費」として扱うのは、まさにSOX法の見地から見てもいささか問題がある。しかし米国の大企業の経営者といえども、IT分野に明るい人材ばかりではない。政府がCOBITやCOSOといった各種のガイドラインを制定したにもかかわらず、やはりSOX法への対処はIT分野が中心となることを理解できなかったということは、先に述べたとおりである。
もちろんIT業界もじっと待っているだけではない。オラクルやHP、サンなど複数のIT大手が協力し合い、SOX法コンプライアンスのためのシステム構築を目指す動きも表面化している。しかし、やはりSOX法に対応する有効なパッケージソフトが市場で信頼を勝ち取り、高い評価を得るまでは、大幅な売上拡大は難しいだろうという意見が現在の主流だ。
冒頭にあげたマイクロソフト社のバルマーCEOのぼやきも、SOX法の制定で自社にかかってきた大きな人的/金銭的負担のせいもあるのだろう。だが、実は期待ほどにはこの分野に業績向上をもたらさなかったことへの不満も込められていたかもしれない。
ITへの大型出費は見通しつかず
■超過勤務などの問題浮き彫りに
SOX法が成立した当時、ほとんどの企業は自社内の会計監査担当部署と外部の監査法人の管轄になると考えていた。しかし実際にはIT分野の担当部署が大きく関わらなければならず、IT分野の担当責任者にも多岐にわたる膨大な業務が発生することが判明してきた。また企業内の各部署同士の連携に綿密な整合性が必要となってきたため、これまでの紙文書の作業では見過ごされてきた各種の問題が、目に見える形で浮かび上がってくることも分かってきた。
例えば、従業員の権利などが厳しく制定されている米国においては、従業員の超過勤務の実態などが各部署で同時に明らかになると、労働法や各種の税制面での矛盾、さらには福利厚生面や医療保険の処理などにおいて多数の問題が一度に露呈することとなる。経営者自身が、自分に課せられる重大な罰則規定にも憂慮しなければならないのはいうまでもない。サービス残業などが多い日本企業では、これらは懸念すべき問題となることは間違いない。企業経営者の頭痛の種となることは必至だ。
また米国での経験を生かし、特にITとの関わりを追記することになりそうな日本版SOX法は、上記のような問題点がより一層鮮明になってくるはずである。日本に多い中規模クラスの企業の負担は、SOX法コンプライアンスのための経費とともに、重くのしかかってくることになるだろう。
実際に米国では、財務資源に余裕がない企業は、株式公開を取りやめ企業規模を縮小するところも出てきている。経済活動の停滞化を招きかねないとして懸念する声も多い。
米国のIT大手は、市場規模や売上単価が小さい中小企業向けには、これまで積極的な営業活動を行ってこなかった。現在でもクライアント側/ベンダー側ともに対応が遅れたままだ。
この傾向を逆手にとれば、米国ではあまり需要が見込めなかったSOX法対策済みの中小企業向け統合システムを、日本のベンダーが米国で展開できる可能性も開けてくる。先に述べたように米国企業の多くは、いまだにSOX法絡みでのIT投資に関しては及び腰だ。そこに日本発の中小企業向けシステムが登場し、有効に活用できることが市場で認知されれば、国産ソフトベンダーがなし得なかった、『日本製ビジネス・ソフトウェアの米国市場への進出』という夢も現実味を帯びてくる。
文書管理という視点からは、日本製のプリンタやコピー機の多くが、既に米国でのSOX法に対処しており、ハードウエアの面でも日系IT企業がリードしていくことになるかもしれない。日本版SOX法の施行は、日系IT産業隆盛のきっかけとなる可能性も秘めているのである。
初年度費用は1社平均436万ドル
ITバブルのツケ重く投資に腰が引ける
■制定2年後のほろ苦い現実「我が家の子供達はまだ『Xbox360』を手にしていないんだ。私が自社製品を入手することに対してはサーベンス氏とオクスリー氏が良い顔をしないからね」
このコメントは2005年のクリスマス商戦前に満を持して市場に投入されたマイクロソフトの新型ゲーム機「Xbox360」の人気について、同社CEOのスティーブ・バルマー氏が述べたものだ。このコメントに出てくる名前が、ポール・サーベンス上院議員とマイケル・G・オクスリー下院議員の2人を指しているのはいうまでもない。この2人は02年7月に大統領の署名により正式に制定されたサーベンス・オクスリー法、いわゆるSOX法の法案を連名で提出したことで一躍有名となった。
SOX法とは11章69項目の条文から構成されている。企業会計の監査の独立性、報告された内容に関しての企業の責任、報告に関しての情報公開(ディスクロージャー)のより一層の強化などを目的としたものであり、米国の証券取引所において上場している企業が対象となっている。同法の制定のきっかけになったのがエンロンやワールドコムなど、大企業による不祥事であることは良く知られている。注目すべきは会計処理等に虚偽があった場合に、企業の経営者個人が責任を問われる点で、罰金または長期の禁固刑という厳しい刑事罰が設けられているのは過去の大企業による不正事件からの教訓だ。
もちろんバルマー氏は、大人気の「Xbox360」はたとえ幹部社員であっても容易には入手できないほど品薄が続いているとPRしたに過ぎない。しかし、もし同氏が「Xbox360」を“役得”として入手するなら、SOX法の資産公開規則ではこれも彼の年収に含めなければならないとされているのも事実である。
同氏はコメント内に個人的見解を含ませ、無用なまでに綿密で、経営者個人に重い罰則を課すSOX法を批判したというわけだ。SOX法の内容について大手法律事務所が05年1月に行った調査でも、回答した企業の8割以上が「厳しすぎる」と返答しており、一般的な米国企業の幹部達にとっては、つい皮肉が口をついて出てしまうほど、SOX法に対しての嫌悪感が強いということがうかがいしれる。
■経営トップにITへの認識薄く
厳しい罰則は企業の法令遵守(コンプライアンス)を強いることとなる。しかし同法が要求する内容は非常に厳しく、かつきめ細かなものであり、そのため同法の対象となる規模の企業にとっては、求められる財務報告の明朗性実現のために、IT技術のサポートは不可欠なものと考えられていた。さらにセキュリティ分野やERPなど全面的にITが関わらざるを得ない同法の制定は、IT産業大手にとってY2K以来のビジネスチャンスと捉えられ、大きな期待が寄せられていた。
しかしSOX法制定後2年を経た今でも、同法関連でのIT投資は伸び悩んだままだ。かつてのITバブル期の過剰投資のツケを払い終わっていなかった各企業は、新たなIT投資には慎重だった。さらにSOX法が企業の内部監査分野が中心と見なされたことから、各企業のCEOはこの問題がIT分野と大きく関わることを理解できなかった。
一方、ITバブル期の投資のツケを現在も払い続け、社内で肩身の狭い思いをしている各企業のIT担当責任者たちも、SOX法がIT関連に深く関係することを大きな声では主張できずにいたため、結果としてIT分野への投資は後回しにされることとなってしまった。
米国企業の経営トップが、SOX法とITの重要な関連性を理解できなかったという事実は、日本版SOX法の制定に大きな教訓を残すこととなる。
05年3月にFEI(企業の財務担当役員などで構成される機関)が行った調査では、SOX法対策関連の経費は、初年度だけで1社あたり平均436万ドル。これは当初予測の194万ドルを2倍以上も上回るものだ。
IT関連は経費の過半数を占めるのではないかと予測されていたが、実際に優先されたのは人件費やコンサルタント関係。IT関連は後回しにされ、IT産業の期待は裏切られる結果となってしまった。先に述べたようにSOX法の施行時は、各企業がITへの過剰投資に慎重になっていた時期であった。そこに、さらなる出資が新たな負担になることへの嫌悪感が働いたことで、IT分野への出費が抑えられたと推測されている。
また米国企業の多くは、会計監査やIT部門をアウトソーシングするのが一般的であり、自社内の資産をSOX法のために割くケースは少なかった。実際にはSOX法への社内対策は、文書作成やフォーマットの変更が、その作業の大半となっていたという報告もある。 もちろんSOX法の基本は監査会計の明朗化を目的とした内部統制なので、大手会計事務所もビジネスチャンスと捉えていたのはいうまでもない。実際に多くの企業が大手会計事務所に莫大なコンサルタントフィーを支払ったとされている。
米国クレジットカード大手のマスターカード社の場合、コンサルタントを請け負ったデロイト&トーシュー社と、外部会計監査を担当した大手会計事務所のプライス・ウオーター&クーパース社の作業時間は4万5000時間以上。さらに新たなデータベースシステムを構築し運用を始めたところ、従来システムの不備や矛盾が露呈し、さらなる出費を強いられたという。
後手に回るSOX法対応システム
投資の大半は会計会社のコンサル料に
■人件費へのコスト割り当て重くIT分野の関与が遅れた背景には、政府が提唱するガイドラインが不十分であり、事実上機能しなかったことも要因とする声が一部に上がっている。IT投資が抑えられたことにより、SOX法対策の業界標準(デファクト・スタンダード)となる製品も登場していない。本格的なIT投資はSOX法に対応する製品が安定稼働してからということで、大規模な出費は見合わせられたままである。
このようにSOX法施行初年度は、経費の大半が人件費であり、その作業内容から考えると次年度以降もコストの軽減はあまり見込めそうにない。これはIT投資の特徴である「イニシャルコストは高いが運用は安価」とは相反するものだ。このためIT産業界がSOX法絡みで大幅に業績を伸ばすのはしばらくは困難なのではないかと見られている。
SOX法コンプライアンスのためのシステム構築と付随するIT分野の作業、例えばセキュリティ分野やERPシステムとの融合などは、本来であればそれぞれがお互いに関連しながらも個別の対処が必要とされる。ひとくくりに「SOX法絡みのIT関連経費」として扱うのは、まさにSOX法の見地から見てもいささか問題がある。しかし米国の大企業の経営者といえども、IT分野に明るい人材ばかりではない。政府がCOBITやCOSOといった各種のガイドラインを制定したにもかかわらず、やはりSOX法への対処はIT分野が中心となることを理解できなかったということは、先に述べたとおりである。
もちろんIT業界もじっと待っているだけではない。オラクルやHP、サンなど複数のIT大手が協力し合い、SOX法コンプライアンスのためのシステム構築を目指す動きも表面化している。しかし、やはりSOX法に対応する有効なパッケージソフトが市場で信頼を勝ち取り、高い評価を得るまでは、大幅な売上拡大は難しいだろうという意見が現在の主流だ。
冒頭にあげたマイクロソフト社のバルマーCEOのぼやきも、SOX法の制定で自社にかかってきた大きな人的/金銭的負担のせいもあるのだろう。だが、実は期待ほどにはこの分野に業績向上をもたらさなかったことへの不満も込められていたかもしれない。
ITへの大型出費は見通しつかず
国産ベンダーには進出の好機か
■超過勤務などの問題浮き彫りにSOX法が成立した当時、ほとんどの企業は自社内の会計監査担当部署と外部の監査法人の管轄になると考えていた。しかし実際にはIT分野の担当部署が大きく関わらなければならず、IT分野の担当責任者にも多岐にわたる膨大な業務が発生することが判明してきた。また企業内の各部署同士の連携に綿密な整合性が必要となってきたため、これまでの紙文書の作業では見過ごされてきた各種の問題が、目に見える形で浮かび上がってくることも分かってきた。
例えば、従業員の権利などが厳しく制定されている米国においては、従業員の超過勤務の実態などが各部署で同時に明らかになると、労働法や各種の税制面での矛盾、さらには福利厚生面や医療保険の処理などにおいて多数の問題が一度に露呈することとなる。経営者自身が、自分に課せられる重大な罰則規定にも憂慮しなければならないのはいうまでもない。サービス残業などが多い日本企業では、これらは懸念すべき問題となることは間違いない。企業経営者の頭痛の種となることは必至だ。
また米国での経験を生かし、特にITとの関わりを追記することになりそうな日本版SOX法は、上記のような問題点がより一層鮮明になってくるはずである。日本に多い中規模クラスの企業の負担は、SOX法コンプライアンスのための経費とともに、重くのしかかってくることになるだろう。
実際に米国では、財務資源に余裕がない企業は、株式公開を取りやめ企業規模を縮小するところも出てきている。経済活動の停滞化を招きかねないとして懸念する声も多い。
米国のIT大手は、市場規模や売上単価が小さい中小企業向けには、これまで積極的な営業活動を行ってこなかった。現在でもクライアント側/ベンダー側ともに対応が遅れたままだ。
この傾向を逆手にとれば、米国ではあまり需要が見込めなかったSOX法対策済みの中小企業向け統合システムを、日本のベンダーが米国で展開できる可能性も開けてくる。先に述べたように米国企業の多くは、いまだにSOX法絡みでのIT投資に関しては及び腰だ。そこに日本発の中小企業向けシステムが登場し、有効に活用できることが市場で認知されれば、国産ソフトベンダーがなし得なかった、『日本製ビジネス・ソフトウェアの米国市場への進出』という夢も現実味を帯びてくる。
文書管理という視点からは、日本製のプリンタやコピー機の多くが、既に米国でのSOX法に対処しており、ハードウエアの面でも日系IT企業がリードしていくことになるかもしれない。日本版SOX法の施行は、日系IT産業隆盛のきっかけとなる可能性も秘めているのである。
【米・ニューヨーク発】アナリストからは「Y2Kと同様の特需」とされ、IT産業界から大きな期待が寄せられた、サーベンス・オクスリー(SOX)法関連でのIT関連投資。しかしその売り上げは現在に至っても伸び悩んだままだ。IT分野の専門家や関係者が、この法案とIT産業の密接な関連を指摘したのに反して、企業経営者の判断は必ずしも期待通りではなかった。政府、企業、そしてIT業界のそれぞれが、異なる視点から向き合うこととなったこの新法の状況をIT業界の視点から分析する。(田中秀憲(ジャーナリスト)●取材/文)
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