12社共同で事業組織を設立
ソウルローカルリーグとも連携
「地域から世界へ」を合言葉に、民間中小企業が主体となって提唱しているローカルリーグ(LL)運動が新しい局面に入った。地域コミュニティに根ざした複数企業による協業が、全国や世界各国の地域に広がりつつある。こうしたなか、北九州市のIT関連企業12社で構成する北九州市LL「KLIC」(北九州国際IT推進会:Kitakyusyu League of International IT Companies)が新年早々に事業組織を立ち上げた。「東シナ海をはさんだ対岸」として、日本、韓国、台湾、中国、さらにロシアまで視野に入れた「アジアリーグ」の実現を目指す。(佃均●取材/文)
■保有技術、ソフト、サービスを 有機的に連携し提案型ビジネス目指す KLICの庄司裕一会長(ランテックソフトウェア社長)は、「全国各地のほか、韓国や台湾などでLLを設立する動きがある。中央一極集中の産業構造を変革し、地域の自立を実現するには、この方法しかないと考えている。北九州市はその先行モデルとなる」と意欲を見せている。
また日本貿易振興機構(JETRO)北九州貿易情報センターの宮崎裕所長は、「国と国ではなく、地域と地域の交流をベースとするLL運動を支援していきたい」と語った。
新しい事業組織は有限責任事業組合(LLP)として登記し、本部をアジア太平洋インポートマート(AIM:小倉北区)内に置く。KLIC代表の庄司氏が理事長を兼務、北九州市やJETRO北九州貿易情報センターおよび、北九州市産業貿易振興機構(KITA)などと連携して、IT分野での人材育成や協業を展開する考え。
参加各社が保有する技術やソフト製品、サービスなどを有機的に組み合わせて、新しい提案型ビジネスや商品開発を行うとともに、地域の情報システム構築を受託する。またインターネットのWebサイトを使った「サイバー展示会」などを通じて、各地のLLと協業関係を構築していく。
KLICは北九州市の地域産業部とJETRO北九州貿易情報センターが支援し、同市商工会議所の呼びかけで04年秋にロシアのチェリアビンスクで行われたビジネス交流会をきっかけに発足。「まずは最も近い外国から」という意味で韓国ソウル市のIT関連企業と交流を重ねてきた。昨年春にソウル市で韓日ITビジネス交流会が開かれ、このときハン・ソフト社やSJナモ社などが中心となって、ソウルLL「SICAM(Seoul International Companies for Asian Market、旧:SLIC)」が発足した。
以後、KLICとSICAMの間でエンジニアの相互交流や韓国IT製品の日本での販売、人材を含めた相互技術協力などに取り組み、多くの成果をあげてきた。昨年12月1、2の両日、AIMでKLIC主催の「日韓ITビジネス交流会」が開かれたのもその一環だった。
韓国IT企業が開発・販売するソフトウェア・プロダクトの紹介や地元企業約30社との商談会が行われた。その席上、庄司会長がソウルLL加盟の韓国IT企業に構想を説明、基本的な合意が成立した。ソウルLLも近い将来に同様の事業体を設立する方針。「参加企業の個別対応とは別に、事業組織の間で協業する体制が整う」(庄司氏)としている。
■LL、地産地消運動でスタート 地域を越えた交流へと進展 LLは地域の中小企業がお互いに情報を共有、技術や製品、サービスを補完し合って地域の他の産業や商業、行政機関や教育機関に地域密着型の製品・サービスを提供していく「産業の地産地消」運動としてスタート、これが発展して地域を越えた交流が始まっている。同様の動きは大分、東京などばかりでなく、韓国のソウル、デジュン(大田)、プサン(釜山)、台湾の台北、中国の上海、天津、大連などに広がっている。
IT業界はソフトウェアの受託開発業務の大都市集中傾向がますます強まっており、大手SIerが地域の中小IT関連企業を下請けとして使う構造となっている。また日中、日韓、日台の関係は、開発コストの低減を目的に日本の企業からシステム開発業務を発注するオフショア開発が中心。韓国などで開発されたユニークなソフトウェア製品を輸入しようという動きはごく一部に過ぎない。
こうしたなかでLLは「地域と地域では立場は平等」をコンセプトに、中央―地域、大手―中小の上下関係でなく、等身大の視線で意見を交換するなかから、国境を越えてビジネスを展開していこうという狙いがある。「第1に海外、特にアジアとの関係、第2は企業間の連携、第3は協業グループ化。大手だろうがベンチャーだろうが、この3つは避けて通れない」(庄司氏)という。
LL運動でIT系企業が先行したのは、インターネットでプログラムや技術情報が交換でき、製品の移動や生産設備の新設を伴わないためだが、北九州市には鉄鋼業を核とする環境システムやエネルギー関連システムにかかわる地元企業が多数存在しており、KLICの活動が他業種に刺激を与えている。
 | 北東アジアのハブ目指す | | | | | 北九州市が全力で取り組んでいるのは、環境に優しい知識集約都市の実現だ。「国際化、IT化を見据えた100万人都市にふさわしい産業政策」(同市地域産業部の小林正己部長)。来年3月には国際線も離発着する新北九州空港がオープンする。「北東アジアのビジネス・ハブに」が抱負という。AIM内にはJETRO北九州貿易情報センター、北九州市貿易振興課および北九州貿易協会が組織の壁を取り払い、共同オフィスとして「北九州貿易・投資ワンストップサービスセンター(KTIセンター)」を開設している。このような試みは全国にも例がない。 今回のKLICによる事業組合設立の原動力となったのは、2003年にロシアの |  | 鉄鋼の町・チェリアビンスクがJETROを通じて工場排煙に含まれる有害物質除去技術の提供を申し入れてきたことだった。「鉄鋼の町・北九州市ならではの製品や技術がロシア側に高く評価されただけでなく、そうした製品や技術に付随するITが注目を集めました。自分たちが積み上げてきたITが、世界に通用することが確認できた。これがきっかけとなって、北九州市の地元企業が世界に目を向けたとき、身近な存在として韓国があったことに気がついた」と宮崎裕・JETRO北九州貿易情報センター所長はいう。また「このような施策は行政機関のトップダウンでなく、民間主導の動きを行政側が支援するかたちでなければ長く継続しないことも分かった」と語っている。 | | |