その他
自治体システム オープン基盤でレガシー改革が加速
2006/01/09 14:53
週刊BCN 2006年01月09日vol.1120掲載
地方自治体のオープン化に向けた動きが加速している。大手ITベンダーや47都道府県などが参加する産官学の任意団体が推進役となって、複数の自治体や民間の情報システムを連携させるオープン基盤づくりが始まった。自治体では、複雑化したレガシーシステムが電子自治体の推進を妨げていた。この硬直した状況を見直そうと、ウェブサービス技術を活用したオープン基盤を策定する。これを契機に、特定ベンダーによる寡占状態を脱し、地場ベンダーの参入も交えた「自由競争」への期待が大きくなっている。
標準仕様「V1.0」は来年3月までに策定
「寡占」から「自由競争」へ突入
任意団体は昨年10月に設立された全国地域情報化推進協議会。地域情報化施策の全国的な普及・啓発を目指している。このなかの「技術専門委員会」では、地域の情報システムをオープンに連携させる基盤「地域情報プラットフォーム」の構築に向けた作業が本格化している。
同委員会の計画では、07年3月までに同一自治体内に限定したサービス連携を行うプラットフォームの仕様書「V1.0」を策定。08年3月には、異なる自治体間で連携できる仕様書「V2.0」を策定していく計画。この間、暗号化や認証などのセキュリティ技術をはじめ、ネットワーク速度の異なる環境下で利用可能な非同期通信技術などの高度な課題を解決する見通しだ。
「V1.0」は、SOA(サービス指向アーキテクチャ)や、他のコンピュータのデータやサービスを呼び出す通信プロトコル「SOAP」など、国際標準を取り入れたものが想定されている。大手ITベンダーのほか、地場ベンダーでも進捗状況を見ながら、自社で保有する既存の自治体向けシステムを、仕様に準拠させる作業を進めていく。
協議会では、このプラットフォームを普及させることで、レガシー改革が進み、汎用機からのサーバー移行が進むとみる。地域情報化や電子自治体の開発効率が高まるだけでなく、住民が必要な手続きを民間サイトからできるようになるなど、官民連携のシステム需要が拡大すると見込んでいる。
自治体システムで影響力のあるNEC、富士通、日立製作所は、「V1.0」がリリースすると同時に「ある程度の製品を出せる状態にする」との方針で足並みを揃えている。多くの自治体が「V1.0」に準拠したシステムを07年度から順次導入する見込みで、同プラットフォーム上での受注合戦が始まりそうだ。
自治体システムは、度重なる改修で、システムが複雑化。特定ベンダーに依存した発注により、仕様書が形骸化している。「メンテナンスが困難になり、次のステップに進めない」(富士通の西原寛治・自治体ソリューション事業本部営業統括部長)という状況にある。
このため、自治体のIT予算は、7-8割が既存システムの維持管理コストといわれる。自治体が保有するソフトウェア資産が増えるにつれて、データ連携などに際して、手作業でシステムを組み替える費用などが増える一方だ。この状況を同プラットフォームで解決できれば、自治体ビジネス市場は拡大できる。しかも、同プラットフォームが多くの自治体に普及すれば、これに準拠した製品で地場ベンダーが全国展開できる可能性も開けてくる。
同プラットフォームに移行することによる市場規模について、日立では、「調達仕様が明確になり、業務システムの置き換えが進む」(甲斐隆嗣・全国公共システム本部電子自治体ソリューション統括部部長)と、多くの自治体へ進出する機会が増えると期待する。NECは、「従来型の自治体ビジネスは長続きしないと考えていた。この動きにより、自治体市場は広がる」(青木英司・公共ソリューション事業部事業推進部長)と、レガシーシステムを一括受注している現状より、市場規模は格段に大きいとみる。
これを機に、自治体ビジネスは大手ITベンダーの独壇場でなくなる可能性が高いが、富士通は「当社は総合力で勝負できるし、本当の意味での自由競争で勝つ自信がある」(西原部長)と、早速、“牙城”を守る準備を始めた。
同プラットフォームが普及することによる市場規模の試算は、今のところまとまっていない。だが、レガシー改革によって自治体のIT予算が新規IT投資に回る可能性は高まる。大手ITベンダーや自治体に入り込めなかった地場ベンダーなどの参入機会が増えることも間違いなさそうだ。
国主導で自治体システムにメス
全国地域情報化推進協議会は、総務省の「地域における情報化の推進に関する検討会」の最終報告書を受けて設立された。実質的には総務省とは一線を画しているが、双方が連携することは明らかである。このため、国主導で自治体システム改革にようやくメスが入ったといえる。 これまでも、度重なる改修によって“ブラックボックス化”し、特定ベンダーやシステムエンジニア(SE)にしかメンテナンスできないレガシーシステムを改革する動きはあった。
04年11月には、福岡県と宮城県を中心に11自治体が参加して電子自治体の共通基盤を構築する「電子自治体アプリケーション・シェア協議会」が立ち上がった。大義名分は、特定ベンダーに依存する体質を改め、地場ベンダーを育成するという趣旨である。だが、この基盤はオープンソースを主体にしており、特定ベンダーのデータベースを使用するなど、「すべての自治体に適用できるものではない」との指摘がある。
同協議会では、オープン基盤「地域情報プラットフォーム」の策定と並行して、レガシーからオープンシステムへの具体的な移行方法を定めた「移行モデル」を策定するなど、普及促進を目指す。
同プラットフォームの策定では、大手ハードベンダーだけでなく、利害の対立するDB、ミドルウェアベンダーが参加するため、「双方の思惑が交錯する場面も想定される」(事務局)と、策定作業には紆余曲折も予想されている。
だが、同プラットフォームが予定通り普及すれば、メンテナンス費が大半を占める自治体のIT予算を新規IT投資に回せる。しかも、官民連携の「地域ポータル」などにも適用できる。民間システムに同プラットフォーム準拠の製品を供給できることから、現在の自治体ビジネスの市場規模に比べ、数倍は拡大するという意見が大勢を占めている。
地方自治体のオープン化に向けた動きが加速している。大手ITベンダーや47都道府県などが参加する産官学の任意団体が推進役となって、複数の自治体や民間の情報システムを連携させるオープン基盤づくりが始まった。自治体では、複雑化したレガシーシステムが電子自治体の推進を妨げていた。この硬直した状況を見直そうと、ウェブサービス技術を活用したオープン基盤を策定する。これを契機に、特定ベンダーによる寡占状態を脱し、地場ベンダーの参入も交えた「自由競争」への期待が大きくなっている。
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