Linuxディストリビュータ、ミラクル・リナックス（佐藤武社長）が、今月から対応アプリケーションソフトの拡充に向けて新施策に着手する。昨夏にISV（独立系ソフトベンダー）向け支援プログラムを刷新したが、今年2－4月にかけて複数の新メニューを新たに追加。トップシェアのレッドハット対抗策も用意するなど、ISV取り込みに攻勢をかける。（木村剛士●取材／文）

レッドハット対抗にあの手この手

■ISV向けに直接販売も

　ミラクル・リナックスは昨年8月、「MIRACLE LINUX」上で動く対応アプリケーションソフトを拡大するため、ISVを対象とした支援プログラム「With MIRACLE」を刷新。技術、販売の両面で支援メニューの充実を図った。

　目標に掲げた対応アプリケーション数は、昨年10月の段階で200種類。だが、その数は現在も90種類程度と目標値を大幅に下回っている。このため2－4月にかけて新施策を実施し、約200種類の達成時期を今年8月に再設定して挽回に乗り出す。

　現在、サーバー向けLinux市場でトップディストリビュータのレッドハットの場合、対応ソフトの数は、「昨年末の段階で200－250」（レッドハットの土屋淑恵・パートナーマーケティングマネージャー）と、ミラクルよりも多い。

　OSを売るためには、ハードメーカーとの提携も重要だが、対応ソフトが少ないのは致命的。OSの上で走るアプリケーションの数がどれほどあるかが勝負の分かれ目となる。ミラクルは、トップディストリビュータと同等の対応アプリケーション数を確保することで、成長著しいLinuxサーバー市場でレッドハットに迫る構えだ。

　ソフトベンダー向け支援プログラム「with MIRACLE」の新メニューとして、ISV各社が販売代理店を通さずに、直接「MIRACLE LINUX」を購入できる仕組みを3月から4月にかけて開始する。これまでミラクルと付き合いのない中小のISVから、「購入の仕方が分からなくて、面倒という指摘があった」（中野正彦・製品マーケティング部マネージャー）ためだ。

　ミラクルとISVが直接取引するようになれば、代理店の反発が予想されるが、「直接取引の場合は、代理店経由に比べ価格を多少引き上げる」（同）ことで対応する。また、5－6月には、対応アプリケーションを持つ各ISVの会社紹介やアプリケーションの特徴、担当者などを明記した小冊子を作成する予定。ISVの営業支援ツールとして同社の代理店やハードウェアパートナーなどに配る計画だ。2－3月には、「レッドハット対抗」を前面に押し出したISV向け施策も始める。

■互換性生かし検証工数を削減

　また、レッドハットに対応しているISVに、「MIRACLE LINUX」用のアプリケーションを開発してもらうため、検証工数を低減できるツールを無償提供する。「レッドハットとミラクルのLinuxには互換性があり、内容も似ている。レッドハットに対応していれば、いちいち最初から動作検証しなくても、検証工数を大幅に削減できる」という。だが、実際には「互換性があることも、レッドハットに対応していれば検証工数を大幅に削減できることも、知っているISVはほとんどいない」のが現状だ。

　そのため、レッドハットとミラクルのLinuxで検証しなければならない部分を自動的に把握できるツールを無償提供することで、レッドハット側のISVを一気に取り込む計画だ。

　調査会社IDCジャパンの調べでは、日本のLinuxサーバー市場は、2009年までの年間平均成長率は台数ベースで9.7％増、金額ベースでは5.4％増で推移すると予測。09年には、Linuxサーバー市場は431億円、出荷台数は8万9000台になるとしており、着実に成長していくとみる。

　Linuxはこれまで、メールサーバーやウェブサーバー、ファイルサーバーに使われることが主流で、業務アプリケーションを動かすためのプラットフォームとして使われるケースは少なかった。だが、「昨年中盤から業務用のプラットフォームとして使われるケースが増えてきた」（中野マネージャー）こともあり、業務分野にも今後着実に浸透していくことが予測される。対応アプリケーションの拡充も、Linuxディストリビュータの協業戦略の重点ポイントになりそうだ。