企業でITシステムの運用状況を的確に把握するニーズが高まるなか、運用管理ソフトの販売競争が激しさを増している。「個人情報保護法」の本格施行や日本版SOX法の制度化を控え、需要が加速しているのが主因で、国内では日立製作所、富士通、NECの上位3社が首位を争う。長年、3位に甘んじてきたNECが、新パートナー制度を立ち上げ猛追していることも影響している。運用管理ソフト単体の販売に加え、パートナーと協業した新たな法制度に対応する製品ラインアップやソリューション提案で各社がしのぎを削るなかで、運用管理ソフト市場はさらに拡大しそうである。(谷畑良胤●取材/文)
日本版SOX法でさらに需要拡大の期待
■上位3社が激しいトップ争い 新制度対応でサービス強化 運用管理ソフト市場の国内シェアは、各種調査機関によると、日立製作所の「JP1」と富士通の「Systemwalker(システムウォーカー)」が上位拮抗し、NECの「WebSAM(ウェブサム)」が3位に位置している。上位3社は昨年、4月の「個人情報保護法」が本格施行された影響で需要が伸び、いずれも導入社数が前年比2ケタ成長するなど、市場は大幅に拡大している。
NECは昨年、ソフト事業を根本的に改革。11月には新パートナー制度を設け、販売支援策を拡充した。「シェア1位の自社ソフトを複数つくる」ことを短期的な目標に掲げている。
NEC製ソフトのうち、シェア調査でトップなのはクラスタ製品だけ。しかし、「ウェブサムは上位2社に比べ伸び率が高く、近いうちに逆転できる」(池田秀一・システムソフトウェア事業本部ブランドマーケティング・マネージャー)と、虎視眈々と上位を狙う。
日立製作所と富士通は一昨年末、自律運用やITIL(ITインフラストラクチャ・ライブラリ)対応、個人情報漏えい防止対策強化などと銘打った運用管理ソフトの新版を出荷した。NECは昨年11月、日本版SOX法で関心が高まる内部統制に必要な機能を盛り込んだ新バージョンを発売。新規需要の喚起に向けて、3社による攻防が続いている。
富士通の「システムウォーカー」新版は、「マルチベンダーに対応したのが特徴で、複雑化するシステムを保有する企業に浸透した」(恒屋明・運用管理ソフトウェア事業部プロダクトコンサルティング部プロジェクト課長)と話す。
一方、日立製作所は、「JP1の新版は、自律運用機能の強化により、企業の情報システム担当者の負担を軽減できた」(石井武夫・システム管理ソフト設計部部長)ことで、管理コストの軽減を見込む企業に導入が進んだと分析している。
■パソコン周辺から運用を最適化、パートナーとの連携強化も課題に 運用管理ソフト市場が昨年、成長したのは、各社が中堅中小企業のボリュームゾーンに新製品を投入したことも起因している。
これまで、運用管理ソフトは「大規模企業向け」で需要を伸ばしたが、「個人情報保護法」の影響で中堅中小企業や部門別、事業所別にシステムの運用・管理を強化する機運が急速に高まっているためだ。
日立製作所は中堅中小企業向けの運用管理ソフト「JP1スマートシリーズ」を出し、「パートナーの業務パッケージにこれを組み込み、販売が伸びた」(石井部長)という。富士通はパソコンから内部情報漏えい防止対策などセキュリティ対策に焦点を当てた「システムウォーカー・デスクトップシリーズ」を発売した。まずはパソコン周辺から運用管理を部分最適することを狙う中堅中小企業への導入が進んだ。富士通は、「サーバーやストレージの部分最適を目指す中小企業向けの運用管理ソフトを出す」(恒屋課長)ことも検討している。
NECの「ウェブサム」新版でも、中堅中小企業に導入しやい商品構成にした。運用管理に必須とされる業務運用管理、ジョブ管理、IT資産管理の各ソフトを10万円で提供し、部分的な導入を促すことを打ち出している。
各社とも、市場拡大を受けて、運用管理ソフトのパートナーが増えている。
JP1にパッケージを組み込むことを技術的に支援する日立製作所の「ビジネスパートナー」は、昨年1年間で20社増え、計200社弱までになった。これにより、「JP1の間接販売比率が拡大した」(石井部長)という。
■パソコン周辺から運用を最適化 パートナーとの連携強化も課題に また、富士通が02年に開始した「システムウォーカー」の連携製品認定制度「システムウォーカー・イネイブル」は、05年10月現在で認定製品が218個、認定パートナーが108社に上り、「連携製品は、急速に増えている」(恒屋課長)。
NECは、同社製ソフトを組み合わせた製品/ソリューションの拡販方法に関する「ビジネスプラン」を個別に作成する中核パートナーが、来年度(07年3月期)中に100社程度へ拡大する見込みだ。中核パートナーでは、NEC製ソフトの中で「ウェブサム」を組み込む率が高い。
3社は今年、08年に制度化が予定されている日本版SOX法が運用管理ソフトの需要を伸ばすと期待を大きくしている。同法は、企業の財務報告に関する内部統制の評価や監査の基準だが、ITシステムに関する統制も明文化される見通し。業務プロセスを見直し、会計や販売管理などを含むITシステムを確実に運用管理する必要性が高まることに関心が集まっている。
この影響で今年も、「2ケタ成長は確実」というのが3社の見方だ。新たに登場する国内の法制度に対応するなど、企業の要求を満たす製品を出すことで、運用管理ソフト市場はさらに成長軌道を描きそうである。
 | ITIL関連の管理ソフトに注目 | | | | | | 運用管理ソフトのベンダー別国内シェアは、日立製作所、富士通、NECの上位3社で70%以上を占めている。日立製作所は、中国や東南アジアを中心に「JP1」の海外展開を強化。「JP1」の技術者認定制度を中国で開始したほか、東南アジアでの広告活動を積極的に行っている。NECも今年に入り、子会社を通じた中国国内に「ウェブサム」の拡販を開始している。 |  | 国内では、「今年は日本版SOX法の影響で、ITILに関連した運用管理ソフトの商談も増えそう」(富士通の恒屋課長)である。ITILはシステムの運用管理を継続的に改善することを目指している。3社は現在、ITILに関する導入コンサルティングなどを拡充しているが、この際に「ITIL準拠」をうたう3社の運用管理ソフトを同時提案する割り合いが増えると予想している。 | | |