プリンタやMFPをマルチベンダー接続
新規需要創出のチャンス到来に
OA機器メーカーで組織するビジネス機械・情報システム産業協会(JBMIA、会長=桜井正光・リコー社長)は、メーカーが異なるプリンタやデジタル複合機(MFP)でも相互接続できる標準規格「BMLinkS(ビーエムリンクス)」の普及を加速させる。現在、同規格に基づくプリンタ用ドライバを搭載しているモデルはプリンタとMFP合わせて149機種が登場している。5月にはスキャナとストレージのドライバ仕様を固める。これまで、OA機器を販売する事務機ディーラーなどは、機種別のドライバ設定や操作上の互換性のなさ、煩雑さを理由に、異なるメーカーの機種を混在させることにためらう傾向があった。「BMLinkS」を利用することで、マルチベンダー環境で新たなオフィス環境を提案できるため、新規需要が創出できそうだ。しかし、同規格に対応したソリューション展開など、業界内の取り組みはまだら模様で、本格的に普及させるための課題は少なくない。(谷畑良胤●取材/文)
■5月にはスキャナ、ストレージに対応 「BMLinkS」の開発は、「ネットワーク上でのOA機器間の接続性やデータ交換性を向上させる統合化インターフェース仕様」を構築することを目的に1998年から始まった。03年5月には、「プリンタドライバV1.1」を公開し、OA機器メーカーが対応製品の生産を開始している。現在、キヤノン、シャープ、リコー、富士ゼロックスの4社が、同ドライバ対応のプリンタとMFPを149機種発売。昨年出荷されたMFPの約30%、プリンタの約60%が同規格に対応しているという。
昨年10月には、機密印刷機能付きの「プリンタドライバV2.0.0」を公開したのに続き、5月をめどにスキャナとストレージをマルチベンダー環境で利用できるドライバも提供する。JBMIAでは、これを機に普及活動に拍車をかける意向で、ユーザー事例の紹介やPR活動を積極的に推進するほか、デモ環境を整備し利便性を訴えていく方針だ。
「BMLinkS」の「プリンタドライバ」に対応したプリンタやMFPを利用すれば、パソコンで出力する際の細かいドライバ設定が不要になるほか、社員個別のディレクトリ管理も容易になる。また、機種が異なってもパソコンと接続して出力できることから、モバイルパソコンを介して出先でプレゼン資料などを修正、出力する時に簡単に利用できるようになる。
5月に提供を予定しているスキャナ用ドライバを利用すると、手書きの会議メモをスキャナして、その電子ファイルをMFPから参加者へメール配信できる。さらに、ストレージ用ドライバを使えば、こうした電子ファイルを対応機器からドキュメントマネジメントシステム(DMS)に集中保存できるなど、OA機器をネットワーク上の高度情報処理機器として利用する際の利便性が増すことになる。
これによりOA機器を販売する事務機ディーラーやSIerは、ネットワーク接続の手間が省けるだけでなく、マルチベンダーで機器を推奨できるなど、新たなシステム提案につながりそうだ。「BMLinkS」の開発を担当するJBMIAの「OAシステム機器プロジェクト委員会」委員である富士ゼロックスの貴家和保・執行役員サービス技術開発本部本部長は「ユーザー企業では、OA機器を1社に固定せず、最新の機器を導入したいというニーズが高まっている。ユーザー側の利便性を考慮すれば、マルチベンダー機器を利用できる環境を整えるのは業界として当然だ」と、マルチベンダー化が普及すればOA機器需要も拡大すると指摘している。
■OA機器のマルチベンダー化が加速  | | 需要開拓の打開策に | | | 「BMLinkS」の検討を開始した当初から、業界はこの標準規格を世界へ発信することを目的としてきた。世界の企業に導入されているプリンタとMFPは、約70%が日本製。ドキュメント管理のあり方も日本主導で提案したいという国産OA機器メーカーの思惑があった。 欧米では、企業内のオフィス機器は依然としてパソコンを介し単機能プリンタで出力する使われ方が中心で、プリンタやMFPをネットワーク環境で利用するニーズはまだ顕在化していないという。こうした利用環境を見直し、OA機器を世界的に普及させようと「BMLinkS」が構想された経緯がある。 プリンタやMFPは、リプレース需要が中心で販売が“頭打ち”にある。「BMLinkS」は新たな需要を開拓するための業界の打開策といえる。 | | |
最近は、ネットワーク上でプリント、スキャン、ストレージを接続するサービスが拡大する一方で、パソコンを介さずOA機器間(デバイスtoデバイス)のサービスへと進化している。OA機器メーカー各社は、データ情報とドキュメント情報をシームレスに繋ぐことをコンセプトとして、「Apeos」(富士ゼロックス)や「MEAP」(キヤノン)などを打ち出している。貴家本部長は「こうしたコンセプト自体が『BMLinkS』の登場で変わることも予想される」という。
これまでOA機器メーカー各社は、傘下の販社を含め「1社丸抱え」で、企業に提案してきた。「BMLinkS」の普及により、こうした現状を打破して、OA機器のマルチベンダー化が加速する可能性は高い。キヤノンの工藤暁・映像事務機システム第四設計部主席研究員は「(丸抱えが難しくなることに)ジレンマはあるが、ユーザーニーズの進化に業界が対応していく必要がある」と、「BMLinkS」の存在意義を強調する。
現在、「BMLinkS」に対応したソリューション展開を明確に打ち出しているOA機器メーカーはない。事務機ディーラーやSIerの大多数は、その存在すら知らないのが実態だ。JBMIAの真野弘司・技術部担当部長によれば、「一部のOA機器メーカーで、『BMLinkS』を利用した新たな販売展開に向けて検討が始まっているようだ」という。また、「業界内では、今後、『BMLinkS』を導入企業に説明せざるを得ない状況にあると認識している」(同)と、本格的な普及が迫っていることを示唆する。
「BMLinkS」を利用したソリューション事例はまだ少ない。今年後半から、先行事例が多数登場すれば、プリンタやMFPの販社は、対応を迫られることになりそうだ。