SIerのシステム提案も本格化
中堅中小企業にも早期波及か?
相次ぐ大型地震の発生を受けて、大企業を中心に災害時のシステム復旧を迅速に行う「事業継続」の取り組みが始まった。システム構築を手がけるSIerでは、こうした動きに応じて、企業に対し災害に強いシステム提案を活発化している。昨年8月に内閣府から「事業継続計画策定ガイドライン」が公表されたことも影響しているが、「いずれはこれが制度化される」と大企業を中心に導入に向けた検討が進んでいる。事業継続の取り組みが大企業に浸透すれば、取引先や子会社など、中堅中小企業へも早期に波及する可能性がありそうだ。(谷畑良胤●取材/文)
■国内企業も対応を前提に準備 スモールスタート製品揃える ヒューレット・パッカード(HP)は、2001年9月に米国で起きた「同時多発テロ事件」を受け、世界各地の社内システムで「事業継続」を迅速に行う仕組みにした。この経験をもとに、日本HPでは、新潟中越地震が発生した04年以前から、企業システムをインターネットデータセンター(IDC)で2重化するなど、社内組織を横断して「事業継続・災害対策」に関する取り組みを開始。04年当時までは「経営者やシステム担当者向けに災害対策に関する一般的な手法や実装技術を聞く程度だった」(庄野雅司・シニアコンサルタント)が、最近では災害対策システムの構築を前提に「企画・計画」をする企業が増えているという。
日本HPでは昨年後半から、企業に対し、システムが稼働しない場合の影響を分析し、必要な対策要件を提示したうえで、最適な災害対策システムを策定することが多くなった。実際に実装した例も増えている。「災害対策の必要性が国内でも認知された」と判断している。
昨年10月に発生した千葉県北西部を震源とする地震では、NECソフトが自社内で利用する安否確認サービス「3rdWATCH」が威力を発揮した。レスキューナウが開発した地震発生時に安否メールを担当者に自動配信するASP(アプリケーションの期間貸し)サービスだが、この時NECソフトは、同サービスを利用して、顧客企業のシステムダウンに備えSE(システム・エンジニア)の人員数を把握した。幸い緊急出動に至らなかったが、「事業継続対策の第一段階として簡単に導入できる“スモールスタート”製品」(佐藤由美・第二事業企画本部アウトソーシンググループリーダー)として、拡販に力を入れている。
NECソフトはこのほか、BC(事業継続)サービス大手の米サンガードのノウハウと自社のソリューションを融合させた事業継続のコンサルティングやサービス、遠隔バックアップに必要なディスク管理、ファイルサーバーの自動バックアップ対策など、事業継続するうえで即座に対応すべきシステム再構築の支援をしている。
「人のリソース確保、データの維持、即時業務継続に必要なアプリケーションのバックアップなど、投資バランスやビジネスへの影響を判断して、順次導入できるようにした」(経営企画部の吉澤誠也氏)と、事業継続に関するプロダクトをさらに増やす方針だ。
■事業継続の評価ビジネスも 21項目で対応状況を診断 大塚商会は1月から、事業継続に関する企業の取り組みを診断・評価する「事業継続評価・診断サービス」を開始した。ハードウェアやデータバックアップなどシステムに限らず、従業員の安否確認方法や震災に備えた設備の配置、食料、トイレの確保など、人員配置やファシリティに関する診断を行うのが特徴。21項目のチェックリストに○×△で診断した結果に応じ、同社のOSM(大塚セキュリティ・マネジメント)などに準じた対応策を進言する。「事業継続を確保するには、システムの可用性を高めるだけでなく、人員配置を含めた危機管理が必要」(鈴木英樹・ITコンサルタント課課長)という。
システムに関連して大塚商会は、IDCを利用した「事業継続対策ソリューション」も開始。これまで、関東圏に自社が設置したIDCと、KDDIのIDCを間借りして企業のサーバーを預かる施策を展開してきた。しかし、震災が広域化することを想定して、リスクの地域分散を図るため、KDDIの協力を受け関西圏にもIDCを設置した。「企業データを所在地により分散して持つことで、ディザスタ・リカバリ(災害復旧)を迅速に行えるようにした」(小泉博・Eビジネスプロモーション部専任課長)と、堅牢なIDCを利用した対策を強化している。
■運用基準策定は2割弱だが、取引先の意向で中小にも広がる  | | 事業継続は「制度化」必至 | | | 内閣府が公開した「事業継続策定ガイドライン」は、災害時に継続する重要業務を絞り込むことや、復旧時間目標を設定することの重要性を指摘。業務を継続するうえで、情報システムのバックアップなどの体制を確立することを求めている。 欧米では、01年に起きた「同時多発テロ事件」を受け、事業継続の計画策定をBCP(Business Continuity Plan)と呼び、企業の財務面や信用面でダメージを最小限に抑えるため、業務を絞り事業継続する取り組みが進む。 日本では、03-04年にかけ広域の大地震が発生し、企業のシステムダウンが相次いだことから、欧米並みの取り組みがようやく始まった。省庁が同ガイドラインのような指針を示した場合、経過措置を経て制度化される確率が高く、多くの企業で対応が迫られそうだ。 | | |
エヌ・ティ・ティ建築総合研究所と三菱総合研究所が大手企業1865社を対象とした調査(昨年8月)によると、事業継続管理を進めるため「自社の運用基準を定め(アウトソーシング企業に)指示した」と回答した企業は2割弱。事業継続に関するシステムの再構築を検討する企業は、まだ少ないのが現状である。
認識は依然低いようだが、昨年8月に内閣府から「事業継続計画策定ガイドライン」が公表されたことで、大塚商会は「企業側でも、いずれは制度化されるという危機感をもち始め、問い合わせが増えている」(小泉専任課長)と、取り組みを開始する企業は、今後確実に増えると予測する。
事業継続に対する関心は、大企業だけに限らず、中堅・中小企業でも現実の問題となってきた。NECソフトは「ある大手製造業のサプライチェーンに組み込まれている中堅企業の部品メーカーの依頼を受け、事業継続に関するコンサルティングをした」(経営企画部・吉澤誠也氏)という。日本HPも、「パートナーと協力して、中堅中小企業に対する支援を検討している」(庄野シニアコンサルタント)と、新たなサービスを開始する計画だ。
ただ、バックアップ製品を扱うネットジャパンの山﨑純二副社長は「中堅中小企業に適したバックアップ製品は、国内にまだ少ない」と、事業継続に必要な製品確保の必要性を指摘する。事業継続に関するシステムやファシリティなど設備投資は、企業にとって負担が大きい。業務上の重要度の高いシステムを見極め、段階的に増強する提案活動が広がりそうだ。