SOA(サービス指向アーキテクチャ)は普及するのか──。概念やコンセプトが先行し実際に導入されているケースはまだ少ないが、注目度は依然高い。ユーザー企業にとってはアプリケーション統合や複雑化した情報システムの整備を進めるための手段として関心は高く、徐々に導入実績も出始めている。しかし、SIerなどのソフト開発を手がける企業が利用しようとする機運は高まっていないという。使いたいユーザー企業と使わないソフト開発企業。ユーザーとベンダーとの間に、この温度差は何故発生するのか。SOAの現状を追った。
ユーザーの評価高いがSIerは鈍い反応

2002年にいち早く、SOAを実現するためのツールである「ESB(エンタープライズサービスバス)」を製品化し、「SonicESB」として販売するソニックソフトウェア(大坂稔代表取締役)。約40社に導入した実績を持つ。同社の久保田弘・執行役員マーケティング兼ビジネス開発担当は、「啓蒙時期から本格導入の時期を迎えている」と市場を読む。
ソニックは今月上旬、ユーザー企業がSOA化するために、現状はどのレベルにあるか、何をしなければならないのかを示す指針「SOA成熟度モデル」の提供を開始した。啓蒙や販促活動の一環としてこの指針を無償提供する。
04年にアイルランドのESBベンダーが開発した「Polar Lake(ポーラーレイク)」の日本市場における独占販売契約を結んだ日立システムアンドサービス(中村博行社長)では、ユーザー企業からの引き合いは着実に増えており、同ツールの来年度(07年3月期)の販売目標を今年度見通しの2倍に設定した。
日立システムアンドサービスの笠松哲也・プロダクトソリューション事業部PolarLakeソリューション推進センタセンタ長は、「アプリケーション統合、SOA化を安価に行えるESBに対する関心は着実に高まっている。高価で構築に時間がかかるEAI(エンタープライズアプリケーション統合)に代わるソリューションとしてSOAを顧客は意識している」と期待を寄せる。SOA化を進めるツールであるESBベンダーの鼻息は荒い。
複雑化したシステムの整備やアプリケーションの統合、柔軟性を持つ情報システムは、どのユーザー企業にとっても欲しい要件。この要望を満たすことが可能なSOAに対する関心は高まっている。SOAの概念が示されてからかなりの期間が経過しても、SOAに興味を持つユーザー企業が多いのはそのため。実現するためのツールであるESBが登場したことにより、さらに拍車がかかっているわけだ。
SOA 立ち後れる日本の取り組み
SIerは「開発効率」よりも「不採算化の防止」を優先
ただ、ユーザー企業の関心とは裏腹に、ソフト開発企業やSIerがSOAを自社利用しようとする機運はそれほど高まってはいない。
あるSIerは、「新しいコンセプトを導入するにはかなりの勇気が必要。既存の開発手法を壊して新しいコンセプトを取り入れることよりも、不採算化や案件の長期化を防ぐことを優先している」と、SOA導入に及び腰になる理由を説明する。SOAはソフトウェアの機能を部品化する考えを持ち、開発したソフトを再利用する。そのため、開発効率を向上させることができる。ユーザー企業には、アプリケーション統合や開発コストの削減というメリットがある一方で、ITベンダーにとっては開発効率の向上という利点もある。
それにもかかわらず、「ITベンダーが採用しようとする動きは驚くほど小さい」(ESBベンダー幹部)と嘆く。日立システムアンドサービスでも、「ITベンダーの利用も見込んでいたが、実際は導入企業の大半がユーザー企業」(笠松センタ長)という。
あるESBベンダー幹部は、その理由をこう分析する。「顧客の低価格要求やシステムの短納期化が進んでいるとはいえ、まだまだ人月単価のビジネスモデルが一般的。SOA化することで、開発効率は格段に向上するため、これまでの人月単価での料金設定のやり方では、売り上げが伸びないことを懸念している」。 SOAの調査・研究を進めるSRA(鹿島亨社長)の石原千秋・事業創造プロジェクト室部長は、「IT業界内外ともにSOAのニーズが増えることは、間違いない。今はまだ先進企業が導入するケースが大半だが、再来年度には一般的なコンセプトになっているだろう」と分析する。
笠松センタ長は、「SOAに対する日本の取り組みは、米国に比べ2-3年は遅れている」と見ている 顧客の低価格要求や短納期化が進んでいる状況で、SOA導入による開発力強化は大きなメリットだろう。SOAをどう捉えていくか。ソフト開発企業にとっては重要な課題だ。
「SOA」「ESB」とは
「SOA(Service Oriented Architecture)」とは、情報システムを構成するソフトウェアや機能を部品化し、その部品を組み合わせてシステムを構築する設計手法。区分した部品を「サービス」と位置付ける。
ハードウェアは基本的に複数の部品を組み合わせて成り立つ。修理時には故障した部品だけを代えれば済み、また、製品開発では共通部品は再利用することなどで、コストを削減したり開発効率を上げる。この考え方をソフトの世界でも実現するのがSOAである。
サービスの定義は、それぞれのシステムによってバラバラで、たとえば、生産管理システムを1つのサービスとして定義する場合もあれば、そのなかの一部のプログラムを定める場合もある。
1度開発したサービスが、もし他の開発案件でも必要な場合は、たとえプラットフォームや開発環境が違ってもそのサービスを再利用できるため、ソフト開発企業やSIerにとっては、開発効率が高まるというメリットがある。
1つの部品としてソフトを再利用するためには、さまざまな開発環境やプラットフォームで生み出されたソフトをつなぐ必要がある。そのための変換機能、つまり“つなぎ役”を果たすツールが「ESB(Enterprise Service Bus)」である。
ESBは世界では20種類ほどあるという。アプリケーション統合では、EAI(エンタープライズアプリケーション統合)ツールがあるが、ESBはEAIに比べ安価で導入期間も短いことなどが特徴だ。
ESBを使ったシステムを構築すれば、ユーザー企業は基本的にプラットフォームや開発環境に依存せずに、各ソフトやデータを結びつけることができるため、システム統合が容易で、また、柔軟にシステムを増強しやすいなどの利点がある。