ITの競争力強化に戦略会議を開設
世界最強のユビキタス基盤実現へ
国会議員165人で組織する情報産業振興議員連盟(情議連)がこのほど、「情報産業国際競争力強化戦略会議」を立ち上げた。議長には同議連会長である額賀福志郎氏を当て、これに産官学の専門家を加えて「“オール・ジャパン”の横断的なIT先端技術開発を目指す」という。その狙いと具体的なテーマを探った。(佃 均(ジャーナリスト)●取材/文)
■165人の議員が戦略会議立ち上げ 07年度からのスタートが決まる 「情報産業国際競争力強化戦略会議」の出発点となったのは、昨年12月13日に同議連の情報産業国際競争力強化小委員会(茂木敏充委員長)が1年間をかけてまとめた報告書「ユビキタス情報化時代における世界最強の『安心・安全・快適』プラットフォームの創造~ユビキタス・コンピューティング・プラットフォーム(UOP)戦略の提案」。小委員会は「5年計画で総額4兆円を投入する研究開発プロジェクトを起こすべきである」と提唱した。
自民党は「165人の議員が賛同した提案を無視することはできない」(逢澤一郎幹事長代理)として、2006年度からスタートするIT新改革戦略における先端技術開発の重要施策と位置づけた。その結果、06年度はフィジビリティスタディや政策調整に当てる準備期間、スタートは07年度からというスケジュールが固まった。今回の戦略会議は、プロジェクトの具体化に向けた最初の一歩となる。
小委員会タスクフォースチームのリーダーである伊東千秋富士通専務は、その基本的なコンセプトとして(1)日本が世界最先端のIT市場となる(2)日本の情報産業企業が世界のトップグループに位置づけられる(3)「もの作り」が日本の生命である──の3点をあげ、「情報家電に代表されるユビキタス市場が増大すると、社会インフラ基盤の安心・安全・快適さの要求が飛躍的に重要性を増す」と指摘している。
■処理速度は現在の100倍以上 世界で25%のシェア獲得を 報告書に示された先端技術の具体的な数値目標は、(1)従来の1000倍─10万倍のアクセス処理性能(2)現在の100倍─1000倍の通信処理性能と膨大なエンドユーザーや端末・デバイスに瞬時に応答できる超高速のネットワーク性能(3)膨大な数値、画像、音声などのデータを瞬時に蓄積、処理、送出できる現在の100倍─1000倍の処理性能/高速処理能力で、世界のプラットフォーム市場で2015年に25%、総額28兆円のシェアを目指すとしている。
最終的に狙っているのは2010年度以後に実用化されるユビキタス・ネットワークにかかる社会基盤としてのインフラ系アーキテクチャであることが分かる。現行のパソコンや携帯電話を代替する利用者端末、電子タグを識別する認識システムや情報セキュリティなど、個々の技術・製品でなく、全体が整合の取れた社会システムとして連動する仕組みづくりと言い換えてよい。
また情議連はIT新改革戦略が掲げる「安全・安心・信頼の高度IT社会の実現」「IT基盤の整備、世界への発信」の一環として実施される可能性を視野に入れ、高度な情報検索技術、タグ技術などアプリケーションの研究テーマも追加するとしている。
同議連の仙田勤事務局長は、「e─Japanで様々な分野の電子化が進んだのは事実だが、必ずしもIT産業の体力強化につながったとはいえない」と指摘する。
気がつくとエンタープライズ系システムはミドルウェアやアプリケーションまで外国製品で占められ、オフィスには“Wintel”が並んでいる。「プロセッサもOSもミドルウェアの多くを海外製品に依存している現状で、日本の産業が国際競争力を回復できるだろうか」と懸念を表明する。
■5年間の投資総額は4兆円 1兆円を国が負担して支援  | | 情報産業振興議員連盟 | | | | 1968年の衆院選で初当選した中山太郎氏が関西電力の葦原義重氏から受けたアドバイスを、当時、自民党幹事長だった橋本登美三郎氏に伝えたところ、桜内義雄、倉成正、竹下登、亀岡高夫、小渕恵三といった議員たちが集まった。これが翌年1月、情報産業振興議員連盟の発足につながった。通産省に新設されたばかりの電子政策課初代課長・平松守彦、行政管理庁の清正清といった論客に、NEC、富士通、日立、東芝など国産電子メーカーの代表が結集して、コンピュータのガリバー、IBM社対抗策を練ったとされる。会長に就任した橋本氏ははじめ「超党派」での運営を考え、社会党や共産党にも参加を呼びかけたが、労組との兼ね合いから実現しなかった。 | | |
とはいえ、国際化が急速に進む事業環境のなかで、日本が果たすべき役割はアジア諸国の社会・経済への貢献にある。1980年代、米政府から非関税障壁として非難された日の丸アーキテクチャにとどめない体制づくりが大きなポイントになってくる。
仙田氏も「日本だけ繁栄すればいいという発想は通用しない」と認めつつ、「日本が世界最高水準のIT市場になることが、アジア諸国に恩恵をもたらすはず。それが日本の国際競争力につながっていく」という。
注目されるのは5年間で4兆円の4分の1にあたる1兆円を国が支援するという点だ。情議連によると、国内の主要な電子・情報機器メーカー5社(NEC、東芝、日立製作所、富士通、沖電気工業)が直近2年間に投入した関連投資から推定した向こう5年間の予想投資額は約3兆円。これにより体系的かつ効率的に配分し、基礎技術の開発と実装を加速するため、その差額である1兆円を国が支援しようというわけだ。
ただし、これを政策に組み入れて実際のプロジェクトにするにはいくつかの課題がある。第1にIT戦略本部が策定したIT改革戦略とどのように連携し、どの部分を折り合うかだ。第2は推進母体をどのように設定し組織化するか、第3はテーマごとの研究開発組織などだ。この点について経済産業省は、「情議連小委員会の報告書と既存の施策との調整が必要」との見方を示している。まずはグーグル並みの高度な情報検索技術やICタグ技術が具体的な開発テーマになりそうだ。