ユーザー企業団体の日本情報システム・ユーザー協会(JUAS、河野俊二会長)は5月中にも、透明性の高い「要求仕様書」を作成するうえで必要な記述項目などの標準化を策定するプロジェクトを開始する。ユーザー企業とSIベンダー間で情報システム開発の初期に取り交わす仕様書の曖昧さを解消し、設計・開発段階での「手戻り」発生や工期遅延、運用後のトラブル発生--などの問題を防ぐのが狙い。4月には、国内大手SIベンダー6社がユーザー企業に分かりやすく記述する「要求仕様書」の検討を開始。JUASは、これと一定の距離を置きつつも、必要に応じて成果物をSIベンダーに提示する。両者が共通認識をもつことで、最終的には「契約モデル」の標準が生まれそうだ。
発注要件を分かりやすく
標準化でベンダーとのズレを防ぐ
JUASは、2003年度(04年3月期)からユーザー企業の立場でシステムの開発や保守・運用などに関する約20の専門分科会を順次発足させてきた。今回のプロジェクトでは、この研究成果をまとめた参照資料「システム・リファレンス・マニュアル(SRM)」に示したメジャメント(測定基準)をもとに、標準的な「要求仕様書」のモデルを作成する。
プロジェクトには、「システム開発生産性評価プロジェクト」の分科会に参加した住友電工や東京電力などの情報システム担当者と、国内で初めてCMM5(ソフトウェア開発能力指標)を取得したSIベンダーのジャステックの関係者ら10人程度が参加する。
具体的には、まず、ユーザー企業が情報システム開発に当たり提示する要求仕様書(見積照会仕様書)をSIベンダーに分かりやすい表現とするためのJUAS版仕様「Requirements Specification Transfer(RST)」を策定する。また、この仕様書をもとにSIベンダーが作成する「要求確認仕様書」の様式や注意事項などを整理して、SIベンダーとの協調関係を結ぶための「User Vendor Collaboration(UVC)」に関するルールを決める。
ユーザー企業側では、「見積照会仕様書に記述した項目が、SIベンダーが作成する仕様書や設計書、プログラムなどにどう反映されているかを知りたいという希望が多い」(細川泰秀・専務理事)。しかし、これを明確に示した仕様書はほとんどない。このため、要求仕様書→設計→設計変更を通じて仕様の変化を一貫管理できる様式を開発し、両者の認識のズレを解消することを目指す。
一方、SIベンダー側は「必ずしも発注者(ユーザー企業)の要件を十分に理解して開発に着手しているとは言い難い」(NTTデータの山下徹・執行役員副社長)と、ユーザー側の見積照会仕様書を理解する難しさを指摘する。
これに対し、JUASは、「ユーザー企業の4割は、自分たちの要求定義が不十分と認識している」のが現状として、IT知識が乏しい担当者でも、経営戦略に即して要件を正確に伝達できるRSTを作成することにした。これにより、「情報システム担当者が不在の企業でも、分かりやすい仕様書が作成できる。要求仕様書が正確に合意できれば、赤字プロジェクトなどの問題を解消できる」(細川専務理事)と、SIベンダー側と正しい尺度で交渉できるようになると指摘する。
JUASの調査によると、大企業の3割は「いい提案があれば、資金を上乗せしてもいい」と回答している。客観的な指標で透明性を高め、リスク予測を発注者と受注者が共有できる積算が可能になれば、人月単価に照準を当てた開発コスト抑制の傾向に歯止めがかかりそうだ。JUASは、今年度中に「要求仕様書」に関する指標をまとめるほか来年度以降、「保守・運用」で両者間の取り決めに関する標準策定に着手する計画だ。