NEC(矢野薫社長)は、4月に断行した大規模な機構改革で、これまで分離していたハードウェアとソフトウェアの事業部を一体化して「ITプラットフォーム・ビジネスユニット(BU)」を新設した。企業内のサーバーやストレージ統合が進展、ITリソースを最適配置する動きが活発化したほか、急速に変化する企業ニーズに応じてIT環境を的確に提供するうえで、「仮想化技術」などを用いてハードとソフトを融合させた技術革新の必要性が高まっている。同BUではこうした企業や有力販社の求めに応じ、これまで以上に新ジャンルの製品やソリューションを迅速に開発するため、ハードとソフトのシナジー効果を目指す。プラットフォーム製品とソフト製品の売上高は、昨年度(2006年3月期)約5000億円。機構改革効果により、年率10%以上の成長を見込む。
シナジー効果で年率10%増狙う
今回の大規模な機構改革は、経営トップが「今後3─5年の継続成長」を目指し、数年前から模索していたもの。金杉明信・前社長(現・取締役副会長)が3月に健康上の理由で急きょ退陣、それを受けて矢野新社長は経営再建に向け「テクノロジー&イノベーション(技術と革新)」の方針を打ち出した。NECのハードとソフトの高度な技術力を生かした製品力の強化を前面に打ち出し、企業や有力販社のニーズに応じ、迅速な商品開発へとつなげる。
ハードとソフトの事業部を一体化したことで、新ジャンルの製品開発に対する戦略投資や開発リソースの確保、製品投入までの時間を大幅に短縮でき、「市場ニーズに俊敏に対応できる」(丸山好一・執行役員常務)と、機構改革の意図を説明する。
製品力の強化では、スーパーコンピュータの「高速化技術」やメインフレームの「高信頼化技術」を、オープン系サーバーやストレージにも応用する。こうしたハードには、運用管理やセキュリティ、ユビキタス基盤など「中核7領域」と呼ぶNECのミドルウェア基盤を融合させる。
昨年10月に提供を開始した同社の統合プラットフォーム「SIGMAGRID」は、「ハードとソフトの融合」を体現した代表例だ。分散化したITリソースを簡単に統合でき、コンピュータの最適配置が可能で、統合管理ミドルウェア「SigmaSystemCenter」を組み込むことによって高度なスキルをもたない運用管理者でも、システム運用状況に応じて自由に構成を変更できる。
最近では、16─32CPUのサーバーを論理的に区切り、別々のアプリケーションを動かす「仮想化技術」が注目を集めているが、「サーバーにOSとミドルウエア基盤を組み合わせる必要がある」(丸山常務)と、こうした技術開発も強化する。また、同社の「Express5800」を複数台ネットワークに接続し、ソフトの「クラスタ技術」で、1つのサーバーのように効率よく運用するケースが増えつつある。「その際に、ハードとソフトを『垂直統合』する必要がある」(同)と、さまざまな融合を具現化する方針だ。
今年度中には、同社のソフト技術を注入したハイエンドサーバー「NX7700i」や「SIGMAGRID」の強化版を投入するほか、ストレージ製品「iStorage」で「非構造型の電子データを格納できる機能を強化するなど、革新的な技術を搭載した新製品を打ち出す」(丸山常務)計画だ。

ストレージ市場では、日立製作所や富士通の「第1グループ」で国内シェアの半分を占め、NECは12.9%(05年)で「第2グループ」とされるが、最重点領域として新製品を投入してシェア拡大を狙う。「NX7700i」の強化版は、インテルの次期プロセッサ「Montecito(開発コード名=デュアルコア)」の市場投入に合わせて搭載、日本IBMや富士通のメインフレームを抱えオープン化を促進する企業をターゲットに市場を開拓するという。
ハードとソフトの事業部を一体化したことで、「Express5800」などエントリーサーバーを大量に販売する有力販社への支援体制も手厚くする。大塚商会や日本事務器などが、サーバーやストレージを提案する際に、NECのソフト部隊が同行し、「中核7領域」のソフトを組み込んだシステムを共同提案する。また、ft(フォールト・トレラント)サーバーやブレードサーバーなど、利益率の高い製品を提案する販社への支援を増やす計画。
NECは昨年度連結決算で、半導体とモバイルターミナル(携帯電話)事業の落ち込みをカバーできず、大幅な減益を余儀なくされた。この状況を打開するため、今回の「ハードとソフトの一体化」をすすめ、本来の技術力を生かすことに回帰。「活力のある新製品を強化」(丸山常務)することで巻き返しを図ろうとしている。
海外展開を強化するため、技術開発では、米ユニシスと次世代ハイエンドサーバーの開発、米ストラタスとftサーバーのOEM供給、米EMCと小型ストレージ製品の開発・製造など、相次いで世界的な企業と戦略提携した。サーバーなどの価格低下が続くなか、ソフトを融合した付加価値製品を投入し、収益率を高めることを狙う。
IDCジャパンによると、国内のサーバー出荷台数シェアでは、05年がシェア21.3%で、何とか10年連続で第1位を確保した。しかし、デルやヒューレットパッカード(HP)の追い上げは激しく、その差が縮まる一方だ。NECは、デルやHPが苦手とするソフトとの融合を強化し、追随を許さない体制を築こうとしているが、そのシナジー効果が浸透するには時間がかかる。将来のロードマップを、どこまで示すことができるかが成否を分けそうだ。