ホテル大手のホテルオークラ(東京都港区、松井幹雄社長)は、ソフト開発のアイテックス(関敏夫社長)の人事給与システムパッケージソフト「ePro─St@ff(イープロスタッフ)」を導入した。これまでオークラが独自に開発したシステムを使っていたが維持費の削減や将来の機能拡張を見据えて刷新を決めた。採用の決め手となったのが短期間で稼働させる完成度の高さだった。作業着手から3か月で本稼働させることを計画していたが、実質2か月で導入を終わらせた。(安藤章司●取材/文)
パッケージ活用し短期間で稼働 実質2か月で導入を終わらせる
■Y2K問題がシステム刷新の転機 ホテルオークラは今年4月、人事給与システムを刷新した。日本IBMのPCサーバー「xシリーズ」に、同じく日本IBMのデータベース(DB)ソフトの「DB2」、アプリケーションサーバーの「ウェブスフィア」をインストール。この上にアイテックスのイープロスタッフを導入した。
1973年からIBMメインフレームで基幹業務システムを稼働させ、88年からは統合アプリケーションサーバー「AS/400(現iシリーズ)」を中心にシステムを構築。ホテルオークラは古くからのIBMユーザーとして知られている。iシリーズ上で独自に開発したシステム資産も多く、人事給与システムについても3月末まで自社専用のものを使っていた。
同社の人事給与システムに転機が訪れたのは西暦2000年問題(Y2K問題)のときだった。
プログラムを修正する必要に迫られたため、外部のITベンダーにシステムの手直しと運用をアウトソーシングした。だが、ホテルオークラが独自に開発したシステムを外部ベンダーが維持・運用しつづけることは難しく、「サポートしきれない」と断りの相談を持ちかけられることになる。
これを受けて02年頃から人事給与システムの刷新に関する情報収集を始めた。給与の受託計算を行うベンダーに改めてアウトソーシングし直す方法や、従来通り自社でシステムを開発する手法、パッケージソフトの導入などあらゆる可能性を模索した。
だが、自社に給与計算のノウハウを残すべきとの考えからアウトソーシングを検討対象から外し、短期間・低コストで稼働可能なパッケージソフトに絞り込んだ。有力ベンダーの人事給与パッケージソフト6種類をピックアップして、カスタマイズの有無や稼働までの期間、使いやすさ、既存システムとの親和性、価格などの項目で精査した。
■「短期間で稼働」目標を明確に
ホテルオークラグループの社員数は約2500人。まずは東京と神戸の事業所を中心に約2000人の給与計算をするシステムを想定し、この規模でカスタマイズを伴う開発を行えば、「通常でおよそ8か月かかる」(事業部グループITセンターの織田進・課長)ことが分かってきた。
開発期間が長くなれば導入コストにも跳ね返ることから、人事給与システム本体はカスタマイズを一切行わなくても稼働可能なパッケージソフトに絞り込む方針を固めた。カスタマイズするとすれば、「既存システムとの接続の部分だけに限定し、作業着手から最短日数で稼働させる」(事業部グループITセンターの米谷悦男・担当課長)ことを重視した。
検討を経て残ったのは人事給与システムをベースに急成長したワークスアプリケーションズの「カンパニー」とアイテックスの「イープロスタッフ」の2つだった。両社ともカスタマイズなしで導入でき、稼働までに要する期間も満足のいく水準の短さだった。甲乙つけがたいところもあり、最終的には人事給与の担当者がデモ環境で実際に操作し、使いやすいほうを選択することにした。

使いやすさには個人差があり、一概にどちらが優れているとは言えないものの、今回のケースではイープロスタッフに軍配があがった。費用はハード・ソフトサービス込みで数千万円規模になった。人事給与システム本体の導入はほぼスムースに進行した。個別の設定はイープロスタッフの標準機能として備わっているパラメーターの変更で対応できた。
しかし、既存システムの接続部分で課題が浮上した。人事給与システムに勤務データを送り込む就労管理システム、給与計算の結果を送り出す財務会計システムとのつなぎ込みは必要不可欠で、手直しが必要になったのだ。
就労管理システムは独自に開発したもので、財務会計システムはJDエドワーズ(現日本オラクルグループ)製を使っていた。ともにiシリーズ上で稼働しており、人事給与のxシリーズと直接的なデータ連携はできなかった。ただ、データの受け渡しを行うのは原則月1回の給与計算のときのみ。リアルタイムに同期をとる必要はなく、バッチ処理的な手法で十分だ。
■パッケージをフルに生かして
アイテックスは、安価で確実にデータ連携させる仕組みとして、表計算ソフト「エクセル」やDBソフト「アクセス」、他社製のデータ連携ツールなど既存のパッケージソフトを活用する方法を提案した。
異機種間の接続ノウハウが豊富なアイテックスならではの手法で、ホテルオークラも了承した。「マスター登録の際、使い慣れたエクセルならホテルオークラの給与計算担当者による数字の確認も容易」(アイテックスソリューション推進本部の木下亮一・本部長)と、いったんエクセルに落とすことでデータ移行時のチェックを容易にし、なおかつデータ連携ツールを活用することで課題をクリアした。
スケジュールでは2月に導入作業を始めて3月末までに完了。4月は従来の人事給与システムとイープロスタッフを並行運用させ、5月から新システム単独での稼働を目指した。
しかし、実際には3月末締めのデータを処理する4月初めの段階で、ほぼ完璧に作動させることができた。「念のため旧システムとの並行運用はしたものの、実質的な新システムの本稼働だった」(ホテルオークラの織田課長)と、導入作業が実質2か月で済んだことを高く評価した。

プロジェクトマネジメントを担当したアイテックスソリューション開発本部第四ソリューション開発部の笠川大介・マネージャーは、「給与計算本来の機能を重視し、カスタマイズをしないというホテルオークラの方針と、イープロスタッフの柔軟なパラメーター設定機能が奏功した」と、短期導入を目指した双方の姿勢がプラスに働いたと話す。
イープロスタッフは給与計算のみならず職務経歴など人事情報を管理する能力にも長けており、ホテルオークラは今後、グループ社員の人事戦略にも役立てていく方針だ。
【事例のポイント】●ユーザー自身による事前の情報収集が綿密に行われた
●ユーザーとSIerの双方が「短期間での稼働」という意思を共有した
●パッケージソフトをシステムにうまく組み合わせた