マイクロソフトが2007年に提供を開始する次世代クライアントOS「Windows Vista(ビスタ)」。そのセキュリティ機能が徐々に明るみになってきている。「Windows史上もっともセキュリティが強固」とマイクロソフトが自負する次世代OSはユーザーにどんなメリットをもたらすのか。ビスタのセキュリティ機能をまとめるとともに、現在販売されているセキュリティソフトへの影響を探る。(木村剛士●取材/文)
セキュリティソフト市場を脅かす存在にも
■マイクロソフトが威信をかけた新OS セキュリティへの意気込みが伝わる 「これまでのウィンドウズで、ユーザーから叩かれ鍛えられた結晶がビスタのセキュリティ機能。ウィンドウズ史上もっともセキュリティが強固なOS」──。
マイクロソフトの中川哲・Windows本部ビジネスWindows製品部マネージャは次世代OS「Windows Vista」についてこう強調する。ビスタは、マイクロソフトがセキュリティの重要性を意識し、「Trustworthy Computing(信頼されるコンピューティング環境)」という概念を提唱して、セキュリティアドバイザを設置するなど「セキュリティ開発サイクル」に基づいて開発した初めてのOS。それだけに、マイクロソフトが新OSをリリースするにあたり、セキュリティ機能に対する意気込みは強い。マイクロソフトが、ビスタの新機能について今後数回に分けて開催する報道機関向けテクニカルセミナーの第一弾にセキュリティを選択していることからも、その意気込みが伝わる。
マイクロソフトが分析する、現在の企業におけるPCのセキュリティ対策ポイントは主に5つという。(1)ローカルPCのセキュリティ対策、(2)認証のセキュリティ対策、(3)ネットワークのセキュリティ対策、(4)PCのセキュリティレベル均一化、(5)監査とバックアップがそれだ。
ビスタでは、そのなかでもローカルPCのセキュリティ対策を大幅に強化している。目を引く大きな新機能としては、暗号化とスパイウェア対策、安全なOSのインストール、ユーザーアカウント管理がある。
まず暗号化では、万一の盗難・紛失に備えてPCのHDDを暗号化するためのツール「Windows Bit Locker(ビットロッカー)」を備えた。暗号を解くためには、鍵が格納されているUSBメモリを差したり、パスワードを入力したりと、ユーザーのセキュリティポリシーに合わせていくつかの解除方法を設定できるようにした。PCの盗難・紛失という物理的なセキュリティ対策という面もカバーしたわけだ。
スパイウェア対策でもツールを用意する。IDやパスワードなどを盗み出すスパイウェアの侵入を、常時監視し駆除する「Windows Defender(ディフェンダー)」を搭載する。また、最新のブラウザ「Internet Explorer 7」では、管理者が許可していないアプリケーションをインストールできないように防止する機能も備えた。これにより、ファイル交換ソフト「Winny(ウィニー)」などからの情報漏えいを防ぐことが可能になる。
■ソフト市場に大きな影響を及ぼすか セキュリティソフトが不要になる? さらに、OSのインストールを容易にするためには、イメージを使ったPCのセットアップも可能になる。リムーバブルディスクへの情報の持ち出し制御や、情報システム管理者の権限でも、操作によっては制御をかける機能を付加するなどアクセス権に関しても機能を強化している。
このほかにも、マイクロソフトはプラットフォーム保護、データ保護、マルウェア(スパイウェアなど不正プログラムの総称)対策という3つの強化ポイントのなかで、さまざまなセキュリティ機能を盛り込んでいる。外部からの攻撃対策に加え、内部からの情報漏えいを防ぐための新機能も備えている。
一般のユーザーがビスタの豊富なセキュリティ機能をすべて理解し、自社のセキュリティ対策に使えるかは多少疑問で、企業のセキュリティ対策がビスタの登場により向上するかどうかはまだ不透明な点はある。だが、それでも現OS「ウィンドウズ XP」に比べ、そのセキュリティ機能は格段に進化している。
ビスタがセキュリティ機能を進化させることは、ユーザーのセキュリティ環境を向上させるだけではない。セキュリティソフト市場への影響も少なからず考えられる。たとえば、暗号化ソフト、スパイウェア対策ソフト、情報持ち出し禁止ソフトの一部の機能は、ビスタのセキュリティ機能と重複しており、ユーザーは投資をせずに情報漏えいやマルウェア対策を行うことができるようになる。つまり、あえてセキュリティソフトを買う必要がないケースも出てくるはずだ。
リリース延期を経て、満を持して投入されるビスタ。約5年ぶりのメジャーバージョンアップOSでユーザーのセキュリティ環境は向上するのか。それとともに、セキュリティソフト市場にどのようなインパクトを及ぼすのか。注目すべき点は多い。
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| マイクロソフトの「One Care」 | マイクロソフトは、セキュリティの向上を図るため、ビスタに新機能を追加するだけでなく、来年にはセキュリティサービス「Windows Live! OneCare(ワンケア)」を日本国内で始める予定もある。コンシューマ向けのサービスであるものの、ビスタ以上にセキュリティソフト市場に与えるインパクトが大きいとしてウイルス対策ソフトメーカーなどから、注目が集まっている。 ワンケアは、ウイルスおよび |  | スパイウェア対策、パーソナルファイアウォール、PCメンテナンスなどの機能をオールインワンで提供するサービス。マイクロソフトがウイルス対策に初めて進出することになる。 ビスタのリリース、そしてワンケアの提供開始と、立て続けにセキュリティ関連で新施策を打つOSメーカーのマイクロソフトは、セキュリティソフト業界で今後もっとも注目しなければならないソフトメーカーへと変化しそうだ。 | | | |