キヤノンは商業印刷、リコーは基幹を狙う
新たなチャネル網構築がカギ握る
富士ゼロックスの“牙城”である「国内高速プリンタ市場」に国内大手プリンタメーカーの参入が相次いでいる。リコーが日立製作所のプリンタ事業会社を買収して基幹プリンタの売り込みを本格化したほか、キヤノンマーケティングジャパン(キヤノンMJ)がデジタル商業プリンタの出荷を開始した。国内の同市場は、機器だけで6000億円ほど。このうち、直販中心の富士ゼロックスがシェア60%程度を握る「寡占状態」とされる。プリンタのカラー化が進み、デジタル複合機(MFP)事業は消耗品の単価アップに助けられ各社とも業績の伸長が続いている。だが、機器自体の販売は“飽和状態”にあるとされ、新規市場開拓の必要に迫られている。リコーやキヤノンMJは、直販と基幹システムを提供するSIerなど、新たなチャネル網を構築するといった異なる戦略で富士ゼロックスの“聖域”に挑む。(谷畑良胤●取材/文)
■「汎用性」で差別化図る キヤノンはPOD、リコーは分散印刷で キヤノンMJは7月、印刷会社や大企業内でカタログやポスターを製作するデジタル商業印刷機「imagePRESS」シリーズを新ブランドとして出荷開始。構想から10年が経った今年、得意の電子写真方式を応用した「静電転写方式」のプリンタで、刷版によるオフセット機が主流を占める市場に「プリントオンデマンド(POD)」として参入した。
オフセット機が大半を占める商業印刷業界は、「PODに懐疑的で、導入が遅れていた」(キヤノンMJの宮崎進・プロダクション商品企画課チーフ)と状況を語る。だが、新製品の出荷サイクルが早まり、スペック記述を迅速に変更できるように社内で製品カタログを製作するメーカーが増えている。このため、商業印刷業界の合従連衡や事業撤退が進み、生き残りをかけて拡張性の高いPODを選択する機運が高まっている。
キヤノンMJの「imagePRESS」がターゲットとする商業印刷と企業内ハイエンド印刷、デザイン印刷の市場は、「MFPに比べ、伸び率が高い」(宮崎チーフ)と分析。全体では、機器本体や消耗品、コピーチャージを含め、2009年に現在の3倍の約3000億円市場に成長し、このうちキヤノンMJで、3割弱のシェアになる800億円の獲得を目指す。「均一な光沢感があり、富士ゼロックスに十分対抗できる」(同)という。
一方、リコーは昨年12月、日立製作所のエンジンを利用した初の自社ブランドとして「IPSiOシリーズ」の基幹プリンタを複数機投入した。大手企業には、汎用大型機に物理回線(チャネル)を直結させ集中処理する基幹プリンタがまだ多く存在する。帳票類を出力する基幹プリンタは、大半がこの方式だが、「最近では、カラー化の進展やコスト削減、拡張性などを目的にダウンサイジングが進展している」(リコーの村田巳晋・HE事業推進室副室長)と、これを機に、オープン化して「分散印刷」への移行を提案していく戦略を打ち出した。
リコーは、MFPを軸に帳票ソフトウェア、SAPのERP(基幹業務ソフト)などを連携させたトータルな提案が奏功し、例年以上に好調に推移している。「内部統制を強化するうえで、文書の出力ログなどを管理する必要性が高まっている」(村田副室長)と、同社が強みとする社内ドキュメントの遠隔監視などを支援する独自の製品群「Ridoc」とソリューション提案、全国のサポート網を売りに基幹プリンタ市場を切り開く考えだ。
■リコーの参入を警戒するキヤノン 富士ゼロックスは静観の構え 基幹プリンタ市場は、富士ゼロックスに加え、キヤノンが独自のページ記述言語「LIPS」を搭載した高速プリンタで金融機関を中心に高いシェアを確保。この2社で市場をほぼ独占している。キヤノンMJの宮崎チーフは、「リコーは、キヤノンと同じ形態で、同じ市場を攻めるのではないか」と、警戒感を募らせている。
リコーは、基幹プリンタ市場で、目標とする売上規模を公表していない。ただ、分散印刷の中核プリンタである基幹プリンタを押さえることが、業績を大きく伸ばす原動力になると見ている。このため、基幹システムを提供する新たなSIerとの連携を模索している。村田副室長は「富士ゼロックスを追随するまでに至っていないが、5年後は勢力図が様変わりしている」と、自信を示す。
キヤノンMJも、印刷業やグラフィック業に強みをもつ地域のSIerやディーラーなど販社を中心にチャネル販売網を順次構築していくことを計画。リコーとキヤノンMJは、直販中心の富士ゼロックスに対抗し、チャネル販売網をつくり、新市場でシェア獲得を目指そうとしている。ただ、これまで協業したことのない相手だけに、自社網に引き込むためには、いかにメリットを訴えることができるかが課題となる。
これに対し、迎え撃つ富士ゼロックスは「基幹プリンタも商業印刷業向けプリンタも、競合参入による危機感はあまりもっていない」(伊藤彰一郎・販売本部営業推進部部長)と余裕を見せる。この理由は「出力の後工程など、当社ならではの突出した技術がある」からだという。むしろ、「MFP市場での追随を心配している」と、直販だけでなく、大手SIベンダーと協業する戦略などを試行的に進めている。各社は、MFP市場が“飽和状態”にあるなか、新規市場を開拓しているが、チャネルの獲得合戦など、さらに競争が激化しそうだ。
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| 「MFPは頭打ち」が共通認識 | 印刷業向けのデジタル商業印刷(POD)市場では、コニカミノルタホールディングスも、9月から、2機種の高速デジタルカラー複合機を出荷開始する。同社の資料によると、08年度までに世界シェア30%(台数ベース)を目標にしている。年間販売台数は、7000台を計画。国内市場での目標値や販売戦略は公表していない。 同社は今年に入り、カメラ事業から撤退し、一部資産をソニーに譲渡した。これにより、独自の画像技術を |  | 利用したプリンタ事業は中核事業のひとつに位置づけられ、チャネル網などを新たに構築する必要に迫られているはずだ。 キヤノンMJを除く大手プリンタメーカー各社の第1四半期(4-6月)決算は、カラーMFPの販売台数がモノクロを上回るなどで、単価の高い消耗品が増え、業績を伸ばした。 だが、各社とも、「MFP機器自体の大幅な伸びは期待できない」というのが共通認識になっている。 | | | |