ソフトバンクグループでオンラインゲーム運営会社のイレブンアップ(片山崇社長)は日立製作所のブレードサーバーを採用した。年内に本格サービスを始める予定のゴルフゲーム「ゴルフだいすき!~I LOVE GOLF!~」に使う。想定ユーザー数は500万人。オンラインゲームはヒットするとユーザーが急激に増える特性があるため拡張性の高さを重視した。(安藤章司●取材/文)
拡張性重視し日立のブレード採用 ユーザー数は500万人を想定
■ブレードの採用はもはや常識
「ゴルフだいすき!~I LOVE GOLF!~」は国民的にヒットした「みんなのGOLF」や「マリオテニス」など数々のスポーツゲームを手がけてきたゲーム制作会社キャメロット(高橋宏之社長)のパソコン用最新オンラインゲームである。
システム面では、統合されたコンピュータシステムでゲーム世界をつくりだす「ワンワールド」方式とした。オンラインゲームは急増するユーザーにシステムの拡張が追随できず、従来は複数のシステムを並行して稼働させることが多かった。ワンワールド方式は業界に先駆けて実現したものだ。
複数のシステムに分かれている従来型では、ゲームを始めるときに、例えば「第1サーバー」「第2サーバー」…と並ぶサーバー群の中からユーザー自身が登録したサーバーを選ばなければならない。「第1サーバー」に登録したユーザーは「第2サーバー」に登録したユーザーと対戦できないことになる。
システムの選定に当たっては“ゲームがヒットするとユーザー数が急増し、どこまで伸びるか予測が困難”というオンラインゲームの特性を考慮。最初から拡張性が高いブレードサーバーを軸に据えた。これまでのラック型のサーバーでは増設や配線をする手間がかかり、台数が増えてくるとデータセンターの床にかかる重量や電力消費の制限を受けやすくなる。
「瑣末な話のような印象があるかもしれないが、ゲームシステムを運用する側にしてみればサーバー増設や配線の手間は作業効率を低下させる深刻な問題。オンラインゲーム業界ではブレードサーバーの採用はもはや常識化している」(システム運用を担うモビーダ・ソリューションズの植草学・サービス企画部長)と状況を説明する。
■1システムで500万人がプレー 「ゴルフだいすき!」のユーザー獲得目標は500万人。国内のゴルフ人口が約1000万人といわれているが、簡単な操作で分かりやすいゲーム特性であることから普段はゴルフをしない客層の取り込みも見込める。国内最大のポータルサイト「ヤフー」との連携も予定しており「実現可能性は十分」(イレブンアップの西村亨・取締役)と自信を示す。
ブレードサーバーを開発する主要ベンダーを比較した結果、日立製作所のブレードサーバーで小型高集積モデル「BS320」とハイエンドモデル「BS1000」の採用を決めた。
とくに「BS320」はCPUを2つ内蔵したインテルの最新デュアルコアプロセッサを搭載している。イレブンアップが第1号ユーザーであることもあり、日立からの技術支援を受けながら実装を行った。日立の運用管理ソフト「JP1」が添付され、サーバー増設などシステム拡張が容易に行える点も評価した。
500万人のユーザーを想定したシステムを“ワンワールド方式”で実現するに当たっては日立側も戸惑いを見せたという。システムを複数に分ければ1システムあたりのユーザー収容人数は少なくなる。だがワンワールドでは1つのシステムに最大500万人のユーザーを収容しなければならない。「両者ともに悩んで、もめた」(イレブンアップの渡辺庄一・プロダクトマネジメント部ディレクターグループシニアディレクター)と明かす。
日立では過去のオンラインゲーム用のシステム構築の経験から「フロントエンドを強くする必要」があることを熟知していた。システム構成ではフロントエンドに相当する「ゲームサーバー」と「セッションサーバー」に新製品の「BS320」を割り当てた。ゲームサーバーはアプリケーションを動作させるもので、セッションサーバーは“ユーザーが今ブレードのどこにいるのか”を管理するものだ。複数のブレードがあたかも1つのサーバーのように連携するため、セッション管理にかかる負荷は予想以上に増大した。
■ロボットツールで負荷を予測 ゲームソフトはビジネスソフトに比べてユニークな動きをすることが多く、「経験や机上の計算だけでは予測しがたい部分がある」(日立の野上治・産業・流通システム事業部ニュービジネス推進センタ長)という。
このためゲーム開発元のキャメロットの協力を得ながら、日立とイレブンアップはユーザーと似た動きをするロボットツールを使って負荷テストを繰り返した。
検証を通じてセッションサーバーのほうがゲームサーバーより多くブレードの台数が必要になることや、ゲームサーバーは台数よりも多くのメモリ容量を必要とすることなどが判明。システム構成の最適化を効率よく進めることができた。
データセンターへの設置では「BS320」の軽さと電力消費の少なさが大いに役立った。BS320サーバーモジュールを10枚実装したサーバーシャーシ(枠組み)全体の重さは98キログラムと従来製品の3分の2に軽減。「業界同等クラスの製品と比べてトップクラスの軽さ」(日立の安田芳博・中部システム本部ニュービジネス推進センター技師)だという。電力消費も従来比で最大4割低減させた。

さらにデュアルコアによってブレードの必要枚数は「従来の約半分で済む」(モビーダ・ソリューションズの植草部長)ことなどもプラスに働いた。一般的なデータセンターの1平方メートルあたりの床の耐荷重は500キログラムとされる。サーバーの数が多く、かつ重ければ専有する床面積が大きくなりコストがかさむ。軽量化や高性能化、省電力による発熱の抑制は専有面積を減少させた。
こうしてデータセンターの制約も考慮しながらフロントエンドを重点的に強化することで500万人のユーザーの収容を想定するワンワールド方式の基盤を構築。ユーザー数の増加とともに随時システムを拡張させる予定だ。技術的には「想定よりさらに多くのユーザーも収容可能」と自信を示す。
イレブンアップでは今回の「ゴルフだいすき!」だけでなく、他のオンラインゲームの提供も視野に入れており、ブレードサーバーをベースとするシステムの拡張はさらに続く見通しだ。
