有償サポート契約獲得で年間10億円
「当社の『コールセンター』は、プロフィットセンター(収益部門)だ」--弥生(飼沼健社長)が大阪・南港地区に置く会計ソフトウェア業界最大規模を誇る「コールセンター」が、報道陣に初めて公開された。同社によると、センター単体の昨年度(2005年9月期)業績は、有償サポート契約獲得の電話コールなどによる売上高から販売管理費を差し引いた営業利益が7億5000万円に達する。収益を上げられる要因は、技術支援サポートの顧客満足度(CS)を高めつつ、有償サポート契約獲得を積極化しているためだ。しかし、雇用調整などで課題もあり、これを解消するため、札幌市に「第2カスタマーセンター」を設置する計画。この収益モデルの拡大余地は、まだありそうである。(谷畑良胤●取材/文)
■繁忙期には190席がフル稼働 うち10席ほどで10億円超を稼ぐ 弥生の「コールセンター」は1997年10月、同社前身の日本マイコンとミルキーウェイのサポートセンターを統合し、大阪・南港地区の「WTCビル」に新設された。ブース数は、繁忙期で最大約190席が稼働する。03年9月に「アウトバウンド(契約獲得)部門」で一部委託をやめてからは、操作質問など顧客からの電話受付の「インバウンド部門」を含めて、繁忙期を除きすべてを自社対応とした。
同センターで主に収益を生み出しているのは、「アウトバウンド部門」。会計ソフトなどを新規購入し、ユーザー登録して無償サポート期間(3か月)を過ぎた顧客に対し、有償サポート契約の獲得を徹底している。同部門のブース数は15席あるが、今年度(06年9月期)は、10億3300万円(繁忙期は一部外部委託し、このうち1億8300万円を売り上げた)の売上高を計上している。担当1人当たり、年間1億円弱を稼いでいる計算だ。
有償サポートを契約すると、同センターの「テクニカルサポート部門(操作質問)」に対し、電話による勘定科目の設定など技術的な質問や法制度に関する問い合わせができる。また、旧製品を利用するサポート未契約ユーザーは、有償サポート契約をすれば新バージョンを無償で入手できる特典がある。現在、弥生のソフトを利用するユーザー数は約55万件。これに対し、有償サポート契約をするユーザー数は約12万件で、「アウトバウンド部門」が活躍する場は、まだまだ残されているのだ。
報道陣への公開の日には、「アウトバウンド部門」が、有償会員でないユーザーに対して実際に勧誘する様子を録音したテープを聞いた。「有償サポートに加入していないと、会社法などの質問に答えられません」などと、粘り強く迫り、契約を獲得するシーンを垣間見ることができた。「アウトバウンド部門」を外部委託していた時期に比べ、「内部対応したことで、契約率は2倍に伸びた。今年度は特にその伸長率が高い」(五月女尚・取締役カスタマーセンター長)と、会社法施行など制度改正が相次いだことが好影響したという。
同センターの収益はこのほかに、「インバウンド部門」で、今年度7億6000万円の売上高を計上。有償登録していないユーザーからの操作質問やバージョンアップ時の新規購入、ネット通販「弥生ストア」経由の問い合わせなどを営業活動に結び付けて収益を上げている。弥生の全売上高は、今年度84─85億円に達する見込みで、このうち同センターが20%以上を稼ぎ出していることになる。
■課題は「応対できる人材」の確保 専門知識の教育が欠かせない  |
| CTIは自社開発で | 弥生の「カスタマーセンター」は、当初のサーバーやPBX(構内交換機)、電話などのシステムをNIerのネクストコムなどが担当した。ただ、電話応対の重要システムであるCTIは、「1億円以上を投資」(五月女尚取締役)して、自前で構築した。電話応対は、すべてデータベース化され、ユーザーの声を分析して製品開発や各種研修会、人事労務サービスなど、他の部署にリアルタイムに提供されている。 同センターの一角には、テレビ会議室が設けられている。六本木ヒルズの本社と情報交換したり、IT機器を絡めた質問や法制度に関する問い合わせなど、応対者が即答できない内容を議題に協議している。五月女取締役によると、「この部屋は、日中ほとんど予約で一杯の状況だ」という。さらに、ユーザーの声を全社員が閲覧するポータルサイトの立ち上げも予定している。 | | | |
当然のことだが、有償サポート契約率を高めるには、電話応対率を上げ、操作質問や技術支援などで的確な応答ができることが重要になる。同社によると、電話応対率は、昨年度実績で95%(電話が1回でつながる確率)、応対終了後にアンケートメールを自動送信して調査(回収率約20%)した「テクニカルコール(操作質問)」の顧客満足度(CS)が88%に達している。五月女取締役は「クレームも含め、すべての応対情報はデータベース化し、次期製品の開発に反映したり、案件獲得のマーケティング計画立案に役立てている」と話す。
しかし、「課題も少なくない」という。弥生のソフトは、会計ソフトに加え、販売、給与、青色申告など新プロダクトが続々登場し、多様なスキルを持つ人材の確保が重要になっている。実際に「内容が難し過ぎる」と、職を離れる社員の数も増えている。同社では、契約社員の「スーパーバイザー」が1か月以上つきっ切りで指導するほか、今年に入り「eラーニング」を開始した。簿記や会計、ネットワークなどに関する知識を高める人材教育・研修には、さらなるケアを必要としている。
同センターの繁忙期は、年末調整や確定申告時期の12-3月。閑散期に比べ、業務量は2倍の格差がある。五月女取締役は「年間50人の雇用調整が必要」という。だが、大阪中心街の梅田や難波から30分程度かかる南港地区という立地の悪さの影響で、派遣会社10社と契約しつつも人員確保が厳しい。それでも、南港地区のオフィス賃借料は坪単価1.1万円、弥生の東京本社(六本木ヒルズ)に比べ約4分の1の安さで、移転は当面しない模様。人材確保の課題を解決するため、来年に向け、札幌市に「第2カスタマーセンター」を新設する計画だ。同市には、ライブドアグループ企業のカスタマーセンターが集結しており、「シナジー効果が期待できる」と、将来的にはグループ間で電話応対業務の統一も視野に入れているようだ。