中小向けERPを全国規模で販売
地方販社含めB-Oneパートナー会
SAPジャパン(ロバート・エンスリン社長)とデル(ジム・メリット社長)は、SAPの中小企業向けERP(統合基幹業務システム)「SAP Business One(B-One)」の販売で協業した。デルの各国法人のなかでも、ERPのパートナー会を設立するのは日本が初めて。初年度は20-30社のSIerを獲得する計画だ。SAPジャパンは、「デルには中小企業のSIを手がけるパートナーが豊富」(神戸利文・バイスプレジデント)と、年間100社以上の受注を期待。今年度(2006年12月期)の実績は400社弱を見込む。デルの地方代理店を活用することで、全国的な販売展開が期待でき、乱立する国産ERPに押されて苦戦する「B-One」の拡販をもくろむ。(谷畑良胤●取材/文)
■中小企業向けに低価格パック カスタマイズでSIerと提携 今回の協業では、デルのIAサーバー「PowerEdge」に「B-One」、マイクロソフトのサーバーOS「Small Business Server(SBS)」などと、エルテックスが提供する「B-One」用の簡易導入マニュアルや帳票テンプレートを含む「Starter Kit Lite」をバンドルした短期導入パッケージとして、従業員500人未満の企業へ導入を図る。
価格は、ベーシック版が「PowerEdge840」対応で98万円(税別)から、「同SC1430」対応で198万円(同)からと、SAPジャパンのパートナーであるSIerなどが提供する同じようなパック版の中で、最も価格が低い。
デルは10月下旬、両パック版を拡販するため、アドオン開発やカスタマイズを担当するパートナーであるエルテックスやロータスビジネスコンサルティングなどによる「Dell SAPパートナー会」を設立。「順次、当社と取引のある既存パートナーに参加を呼びかけ、新規でも募集する」(土屋淳・コンサルティング第3部アライアンス・マネージャー)と、地域特性や業種業態別に得意分野をもつSIerの獲得を目指す。
同パートナー会の加盟社に対しては、システム・サイジングやインフラ構築サービス、デモ・検証環境を貸し出すほか、共同マーケティングやデルの「直販モデル」を利用し、全国へプロモーションする。
■NEC、日立情報も参戦 知名度高めて地方へ展開 独SAPと米デルは、「テクニカル・パートナー」として世界的に協業している。日本市場では、デルの日本法人が検証施設「DELL SAPコンピテンス・センター」を設けるなど、協業関係を強めてきた。こうした施設などを利用して、UNIX機で稼働する中堅・大手企業向けERP「SAP/R3」(現「mySAP ERP」)をIAサーバーに短期間で移行する事例が増えている。大手出版社の小学館や精密機器メーカーのネブテスコなどへの導入実績を残している。
「B-One」に関しては、日立情報システムズとNECネクサソリューションズの2社がSAPジャパン側に要請し、初期コストを抑えた「SAPファースト・ステップ・キット」を300-500万円の価格で、9-12月までの期間限定で販売を開始している。SAPジャパンは「このパック版で、すでに数十社単位で引き合いがある」(神戸バイスプレジデント)と、上々の滑り出しをみせている。また、NEC本体が10月から「B-One」の導入期間を最大80%短縮するパッケージを複数業種向けとして出すなど、同製品に期待を寄せるベンダーは増え続けている。
しかし、以前から「B-One」を販売していたデルは「地方でセミナーを開催したが、同製品やSAPの知名度が低い」(土屋マネージャー)と、集客に苦労するケースがあった。そこで今回のパック版販売に伴うパートナー会やSAPジャパンとの連携、デルのウェブを活用したマーケティング活動の強化で知名度が高まれば、「顧客に密に接するパートナーを獲得でき、地方展開への布石が打てる」(同)と、「B-One」事業の拡大に期待を寄せる。
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| 年間2000社が目標 | 中小企業向け「SAP Business One(B-One)」は、04年6月に日本市場へ投入した。昨年度(05年12月期)の受注は約200社。今年度は前年度比倍の400社に導入できる見通し。 SAPジャパンが公表している導入企業は、家庭用電化製品販売の永山機械交易(導入ベンダー・ロータスビジネスコンサルティング)や素材開発のNECトーキン(同NEC)、電気炉用絶縁物などを販売する山十産業(同エルテックスと日立情報システム)、商事会社の黒崎産業(同九電ビジネスソリューションズ)など、世界にビジネス展開する企業が中心である。 「B-One」は、財務・管理会計や販売・仕入・在庫管理、CRM(顧客情報管理)・SFA(営業支援システム)などを単一のデータシステム上で業務統合できる。株式上場(IPO)を目指し、成長に伴いシステムを将来的に拡張しようという企業や、世界展開して「多言語多通貨」で取引する企業に受けている。SAPジャパンのロバート・エンスリン社長は「近い将来、年間2000社の導入を目指す」と、高い目標を定めている。 | | | |
■中堅企業向けの販社会も、業種のノウハウ蓄積で SAPジャパンでは現在、「mySAP ERP」を導入する大型案件の獲得以上に、「B-One」などの商材を利用し、中堅中小企業市場で「数を追求する」(神戸バイスプレジデント)ことを目標に掲げている。そのため、再販権のある1次店に加え、権利のない2次店の獲得が至上命題となっている。「中堅中小クラスのSIerが動けば、『B-One』の受注は必ず増える。そのための仕掛けが必要で、デルの仕組みには特別の期待をしている。最近では、(オービックビジネスコンサルタントの業務アプリケーション)奉行シリーズと競合する場面もある」(同)と、中小企業への浸透度が高まっていると分析する。
この動きをテコにデルは、「B-One」の案件で業種ソリューションを蓄積し、来春には中堅企業の業種向けERP「mySAP All-in-One(A-One)」の販売を本格化する。同パートナー会のような組織を立ち上げる計画。さらに、SAPの「mySAP ERP」と導入自動化設定ツール「SAP Best Practices」を活用して、新たな中堅企業向けソリューションの展開を拡大する。
デルの土屋マネージャーは「パートナー間で、業種業態に応じたソリューションの情報共有を円滑にし、案件の『紹介制度』などを設けることも検討する」と、パートナー間の連携を加速させる計画。「世界IT企業の2大巨頭」の日本法人が手を組み、きめの細やかさを求める日本の中小企業に応じた地道な活動が広がる可能性がある。こうした展開を得意とする国産業務ソフトベンダーには、脅威になりそうである。