スイッチやルータなどネットワーク機器を販売するネットワークベンダーにとって、2007年はハードウェアの価格下落で「曇り」であるものの、新しいビジネス領域の拡大で「晴れ」への好転も期待できる。各社とも、新規事業の着手や他社が扱っていない製品の販売で業績拡大に力を注ぐ。IP化の進展にともなって、ネットワークシステムはアプリケーションサービスの配信インフラとして重要性を増している。ネットワークとアプリケーションの連動を視野に入れたシステム構築や製品・サービスの提供が生き残りのカギといえそうだ。(佐相彰彦●取材/文)
ハード価格の下落が悩み
アプリ絡めた構築が業績増のカギ
国内のネットワーク機器市場は、まさに転換期を迎えている。大手NIer(ネットワークインテグレータ)の2006年度中間期連結決算をみても、スイッチやルータなどネットワーク機器の販売は厳しい。同分野の売上高はネットワンシステムズが315億900万円(前年同期比4.1%減)、ネクストコムが102億8300万円(同15.4%減)と縮小傾向に陥っている。
ネットワーク機器の販売が不振なのは、低価格化が進んでいるためだ。なかでも、L2/3など基幹スイッチは台数が増えても金額の伸びが鈍いとの調査結果もある。IDC Japanは06-10年の5年間、L4-7を除いたスイッチ市場の年間平均成長率を1.0%増と予測。指標となる出荷ポート数は堅調に増加するものの、ポート単価の下落で売上金額は低い伸びにとどまると指摘する。ネットワーク系販社にとっては、先行きの不透明感が払拭できない状況だ。
ネットワンシステムズの澤田脩社長は、「コモディティ製品の占める割合が高ければ、売り上げが伸びないことに加えて機器の粗利率がますます低くなる。そのため、新技術を搭載して機能性に優れた製品の販売が重要になる。市場から求められる新しい製品を見極められないベンダーは、生き残れない」と口元を引き締める。ネットマークスは、「基幹スイッチ市場は大手の有力メーカーによる寡占化が続く。そのため、ネットワークインフラ市場は価格競争の激化で厳しい状況から抜け出せそうにない」(大橋純社長)と見通す。
ネットワーク系ディストリビュータも、「ネットワーク機器のコモディティ化による価格下落は市場縮小の懸念材料」(ネットワールドの中村康彦社長)と警戒する。ネットワークバリューコンポネンツ(NVC)は、「ネットワーク機器はコモディティ化が進む。いつまでも従来のネットワーク構築しか手がけられないのであれば、間違いなく“どしゃ降りの雨”で、ビジネスは悪影響を受ける」(渡部進社長)と認識する。
シーティーシー・エスピー(CTCエスピー)は、「ネットワーク機器に限らず、製品のコモディティ化は市場では当然の流れ。販売代理店が当社から購入しやすい環境をつくることが重要」(岩本康人社長)と指摘する。同社は、販売代理店とのSCM(サプライチェーンマネジメント)を踏まえたウェブEDI化を進めている。「定期的に受注がある製品に関しては、ウェブで自由に注文できるシステム化が販売会社の煩雑な事務処理の効率化につながる。一方、パートナーシップを深める策として、付加価値が高い製品をどのように売っていくかについて販売代理店各社と一緒に模索していく」とウェブEDIに活路を求める。
基幹スイッチの価格下落が今後も進むため、業績を伸ばすためには新規事業に着手するなどビジネス領域の拡大が重要になってくるだろう。
ひとつは、ネットワークとアプリケーションとの連動だ。ネットワンシステムズでは、「データを単に流すだけというネットワーク構築の考え方を捨て、アプリケーションサービスと連動できるようなネットワークを構築しなければならない」(澤田社長)とする。この分野に力を注ぐことで、ADC(アプリケーション・デリバリ・コントローラ)など値崩れしていないL4-7スイッチの拡販にもつながる。L4-7スイッチは、今後も需要が増大する見通しだ。IDC Japanによれば、同スイッチ市場は05年の売上金額が178億円(前年比38%増)と大幅に増加。年間平均成長率が11.9%増で推移し、10年には310億円にまで市場は拡大すると予測する。
また、音声をIP化する「IPテレフォニー」の分野に力を入れるベンダーも出ている。ネットマークスでは、「IPテレフォニーは成長事業の1つに位置づける」(大橋社長)として、事業拡大に力を注ぐ。IPテレフォニー分野では、NVCが法人向けFMCサービスを07年から開始する。「モバイルベースで一般オフィス向けVoIP需要を促す。FMCサービスは事業の柱になる」(渡部社長)と、この分野での成長を目論む。
「仮想化」をベースに事業拡大を図るベンダーもある。ネットワールドでは、「当面はサーバーの仮想化に焦点をあてていくが、ネットワークの仮想化も視野に入れていきたい」(中村社長)考え。エス・アンド・アイ(S&I)は、「他社がまねできないビジネスに着手すれば活路がみえる。仮想化をベースにネットワークを構築できる強みを生かす」(松本充司社長)としている。
ネットワーク機器市場の成熟で、ベンダー各社はビジネスモデルの見直しを迫られている。変革を遂げれば、「晴れ」の市場で事業を手がけられるということだ。

ネットワークとアプリケーションの連動で、ビジネス領域が広がるようになる。メーカー各社が、新技術搭載の製品を市場投入する可能性もある。IPテレフォニーとモバイルを絡めた新しいネットワーク構築を行うことで、ユーザー企業が増えるのが確実だ。
ネットワークのリプレース需要はあるため、ユーザー企業の囲い込みが重要となる。コモディティ製品は、ウェブEDIなどコスト削減で利益確保が必要となる。
L2/L3スイッチの販売は、価格下落の影響で厳しい状況となる。大手の有力メーカーによる寡占化が続くため。ユーザー企業が求める製品を見極められないベンダーは生き残れない。

●WAN高速化やADCなどL4-7スイッチ市場で米国を中心に新興ベンダーの参入が相次ぐ。
●大手NIerが06年度中間期の連結決算で大幅減になった。
●通信事業者がNGN(次世代ネットワーク)構築を掲げた。06年12月末には、NTTがフィールドトライアルを開始した。これにともない、NECや富士通、日立製作所、沖電気工業などPBX(構内交換機)メーカーがNGN事業を拡大しようと躍起になり、こぞって組織再編などを実施した。
●NTT東西2社の光サービス「ひかり電話」でシステムトラブルが発生。一部の呼制御サーバーにアクセスが集中したことが原因。音声のIP化が普及しつつあるなか、需要抑制の危険性がある手痛い事象だった。