開発力と営業力を併せ持つ販売系SIerは、好天に恵まれそうだ。主要なSIerは、単価下落で利益確保が難しいハードの販売事業から独自性を打ち出した高収益事業のソフトウェアとサービス分野へのシフトを進めている。ソフトとサービスを組み合わせたソリューションに力があれば、利益は順調に伸びるはず。SIerのなかには、中期経営計画を2007年度から進めるところもある。ビジネス環境が良好なうちに、従来のビジネスモデルにとらわれない新規ビジネスの立ち上げや、新技術修得に向けて研究開発に取り組む動きも出てきそうだ。(木村剛士●取材/文)
サービスへのシフト進む
先行投資を活発化させるベンダーも
オープン化の影響を受けて単価下落が続くサーバーは、販売台数は伸びても利益確保が難しい。この状況は、07年も続くだろう。ハードの単価下落は、付随する保守サービス単価の下落を招き、保守サービスも手がけるSIerにとっては二重の悪影響を受ける。調査会社IDC Japanが昨年11月に発表したサーバーの国内市場規模予測の最新データによると、06年の市場規模は前年比3.7%減の6667億円で、昨年3月発表時に比べ2.0ポイント下方修正。05年から10年までの年平均成長率はマイナス2.2%。x86系サーバーを中心に台数は伸びるが、価格下落の影響で金額は下がるとみる。
ハードの販売で収益を稼いでいた販売系のSIerは、価格下落が顕著になった00年頃から事業構造の改革を進めていたこともあり、ハードの価格が下がってもソフトウェアとサービス事業で利益を稼げる体制が整いつつある。市場環境の好転も要因となるが、ハードに依存しない事業体質を築けたことが「晴れ」と予測する一番の好材料かもしれない。ある中堅SIerは4年前、サービス事業のうち60%がハード保守だったが、現在は40%まで減少。ハード保守事業の売上高は減ったが、サービス事業全体の売上高は横ばいを維持する。システム運用の請け負いサービスなど他のサービスビジネスを伸ばしているためだ。「ハードと保守サービス単価の下落が止まるとは考えにくい」と強調し、サービスメニューの増強や保守サービス体制の効率化を急ぐ方針を示している。
07年、各社が力を入れて販売するのは主に自社パッケージソフトと運用サービスだ。主要なSIerは各社基幹系パッケージソフトを自社開発している。中堅企業は利益率も高く、内部統制の仕組み構築のために「ERP導入検討率が高い」とみており、拡販に本腰を入れて取り組むとみられる。また、運用サービスではホスティングやハウジングなどのアウトソーシングや、遠隔地から顧客の情報システムを監視するリモート運用、SEを顧客企業に駐在させる常駐型運用事業の伸びに期待している。
各社とも伸ばす分野と扱う製品・サービスはほぼ共通しており、勝敗を分けるのは営業力になりそうだ。情報システムに求める要望は、顧客の業種によって異なる。しかも、その違いは従来よりも大きくなっている。「どの業種にも受け入れられるような浅い提案はもはや通用しなくなっている」(富士通系SIer)状況だ。攻める業種を明確にし、顧客の業務知識や専門性を熟知しているベンダーが強さを発揮するのは間違いない。
不安材料は、やはり不採算案件の発生。各社とも過去に少なからず経験した赤字プロジェクトを反省材料にして、プロジェクト管理の徹底と受注段階での見積もり精査などを専門部署を立ち上げるなどで強化している。ただ、「今後全く発生しないとは言い切れない」のが各社共通の見解。実際、日立情報システムズはプロジェクト管理体制を整備していたものの、今年度(07年3月期)上期に企業と自治体案件で大幅な原価増が発生し、不採算化した。通期の営業利益について15億円の下方修正を余儀なくされた。
先進的なシステムになると、過去の経験を生かせる部分が少なく、不採算化する可能性は高くなる。しかし、ノウハウ蓄積と開発案件の幅を広げるためには必要でもある。チャレンジ案件で利益を確保できるかが、今後の成長を約束するうえでカギになりそうだ。
07年は、JBCCホールディングスや日立情報システムズ、NECネクサソリューションズ、大興電子通信など主要なSIerが中期経営計画をスタートさせる年になる。既存ビジネスを着実に成長させる一方で、「SaaS」など新たなビジネスモデルの確立や自動化技術など先進テクノロジーの研究、データセンターの拡充などにも取り組む姿勢を示している。
好転する市場環境のなかで既存ビジネスで業績を伸ばしながら、次の成長に向けた一手を打つ年にもなる。

自社パッケージソフトの販売増加や、情報システムのマネジメント(運用)サービスの伸長が各社とも著しい。顧客のIT投資は依然積極的でニーズも強い分野だけに、成長が期待できる。ハードと保守サービスの価格下落を吸収できる力を持っている。
不採算案件の発生を経験し、各社とも開発体制を強化した。ただ、発生件数ゼロとは言い難い状況という。万一、大型案件で発生すれば業績に対する悪影響は必至。見積もり、受注、開発それぞれの工程で、徹底したプロジェクト管理体制がより一層求められる。
ソフトウェアやサービス事業を伸ばしているとはいえ、開発系SIerよりもハードの販売額はまだ大きい。ハードの価格下落による販売金額の減少と、付随する保守サービスの売上減の克服策は依然課題だ。場合によっては拠点の統廃合の必要性も出てくる。

●日本ビジネスコンピューター(JBCC)が4月、純粋持ち株会社「JBCCホールディングス」を設立。持ち株会社体制に移行した。JBCCやディストリビューションのイグアスなどでグループを構成した。
●NECネクサソリューションズの社長に6月、NECの取締役執行役員専務を務めていた渕上岩雄氏が就任。NECの執行役員専務を兼務しながら指揮を執ることに。渕上社長のもと、来年度(08年3月期)から始まる3か年の中期経営計画の策定に着手した。
●富士通ビジネスシステム(FJB)が3月、今年度(07年3月期)からの3か年中期経営計画を発表。営業利益率3%の確保に向けて本格始動した。中間期決算では利益で2ケタ成長を果たし、順調に滑り出した。
●大興電子通信の社長兼COOに取締役常務執行役員を務めていた高橋正道氏が就任した。