大手電子部品メーカーの日本ケミコン(内山郁夫社長)は、受注状況や在庫を可視化するシステムを導入した。国内外に点在する事業所の負荷分散や在庫圧縮に威力を発揮するものだ。世に出たばかりのジャストシステムのXMLアプリケーション基盤「xfy(エクスファイ)」を先駆けて活用。わずか半年足らずで可視化システムを稼働させた。基幹業務システムに手を加えず、かつプログラムをほとんど書かずに済んだことが、投資コストの抑制や開発期間の短縮に結びついた。(安藤章司●取材/文)
xfy使い半年足らずで稼働 プログラムせずに実現
■いきなり暗礁に乗り上げる
マレーシアやインドネシア、中国、台湾、米国、そして国内では岩手県、宮城県、福島県、山形県…。国内外に多数の生産工場を展開する日本ケミコンは、どの事業所で何をどれだけ生産しているのか把握しにくいのが大きな課題だった。
主力のコンデンサなど電子部品のアイテム数はおよそ5万種。国内外のどの工場でも生産できる汎用的なアイテムが多いことから、似たような製品を複数の事業所で製造したり、すでに在庫がある製品を他の事業所で製造するケースもみられた。
こうした課題を解決するため2006年4月、社長直轄の「グローバルオペレーションプロジェクト」を立ち上げた。グローバルでの受注や在庫を可視化するプロジェクトだ。
実は基幹業務システムを分析するデータウェアハウスをすでに導入しており、受注・在庫情報は一応はみえていた。しかし操作が難しく、分かりにくいことから効果はいまひとつ。
プロジェクトは発足直後から暗礁に乗り上げた。5万アイテムの受注残データは1日あたり17万件にも達し、これに関連するトランザクション数も膨大。受注データの流れを迅速に捉え、使い勝手がよく、分かりやすいシステムとは何なのか──。新しいERP(統合基幹業務システム)パッケージで基幹業務システムを根本から作り直すことや、経営分析のビジネスインテリジェンス(BI)パッケージを使う。手作りでゼロからプログラムを組むなどさまざまなアプローチで可視化する方法を模索した。
しかし、システム開発から稼働までの時間がかかりすぎたり、トランザクションの処理時間が長引いたり、費用が桁違いに増えたりと、どれもうまくいかなかった。「あれもダメ、これもダメと、どんどん選択肢が少なくなった。つらい時期が続いた」(鈴木則孝・情報システム部一グループ専門マネージャー)と、解決の糸口が見つからないまま時間が過ぎた。
■「短期間で稼働」目標を明確に 半ば市販パッケージソフトに望みを失いかけたとき、かつてXMLを活用した電子商取引システムの構築を依頼したことのある技術コンサルティング会社のアドスに相談を持ちかけた。4月から始まったプロジェクトはすでに8月に差しかかっていた。答えが見つからないまま時間ばかりが過ぎていた。
直感的な操作ができ、投資対効果が高く、将来の拡張性が高いフロントエンドシステムを求められたアドスは、考え得る選択肢の検討に着手した。表現力豊かで入力に応じてリアルタイムに画面が遷移する技術を使ったウェブアプリケーション方式。誰もが使い慣れている表計算ソフトのエクセルをフロントエンドに持ってくる方法などが有力候補にあがった。

ウェブアプリケーションは作り込みが必要で、要件定義から始めなければならない。さほど難しい技術ではないが、拡張性や柔軟性が欠け、開発には時間もかかる。当初想定した処理速度や使い勝手を改善できなければ、多大なコストをかけて作り直さなければならないリスクもある。そうであるならば、エクセルをベースにカスタマイズしたほうが無難だ。議論を続けていくうちに、アドスのプロフェッショナルサービス部・伊藤満取締役部長は「ジャストシステムのxfyってどうだろう?」と、ふと考えた。
2005年半ば、xfyの開発途中のモジュールをアドスの技術陣がダウンロードして研究していた。過去にXMLを視覚的に表現する“XMLブラウザ”のモジュールを開発した経験があるアドスは、xfyの狙いがすぐに理解できた。XMLを編集するオーサリング機能とXMLブラウザ、XMLアプリケーションの実行環境を一体化したxfyは、XMLアプリケーションの基盤となるフロントエンドシステムである。
折しも06年9月にIBMの最新DB「DB2 9」に対応したxfyの製品の発売を控えていた。すでにβ版は入手していたことから試しにxfyを提案することにした。日本ケミコン側もXMLの可能性は十分認識していた。「どうせやるならオープンな世界標準であるXMLで、将来の拡張性を見越したシステムに仕上げたい」(鈴木マネージャー)と考え、アドスの提案を受け入れた。
■XML技術をフルに生かして
xfyの最大の特徴はXMLの記述のみでアプリケーションを開発できる点にある。プログラミングをする必要はない。アドスではコンサルティングを始めて約1週間でサンプル画面を制作して見せた。いくら手直しが入ってもプログラムを組み直す手間がかからないため、より使いやすく、分かりやすい画面を日本ケミコンと一緒になって作った。プロジェクトの見通しすら立っていなかった状態から、一気に前へ進みだしたのだ。
xfyと同じく9月に出荷を始めた最新のDB2 9との相性もよく、受注残データもわずか2分半で処理できた。基幹業務システムには手を加えずに、必要なデータのみをDB2 9へ写し取り、このデータをxfyで可視化した。グラフを多用し、誰でも直感的に使えるインターフェースに仕上げた。作り直しが容易にできるので、納得がいくまで手直しした。処理能力が低いクライアントパソコンでも、軽々と動作する点も評価された。
昨年末には受注状況や在庫を可視化する当初の目的をほぼ達成。次は可視化した情報を生かして実際に工場の負荷を分散したり、在庫を圧縮する第2フェーズにプロジェクトは進んでいる。動きの早い電子部品は、1か月も倉庫に滞留すると、そのまま不良在庫化する確率が高い。「生鮮食品ほどではないにしろ“賞味期限”が短い」(鈴木マネージャー)と、シビアな状況を語る。
国内外の事業所の全体像がxfyの画面に映し出せるようになった。この情報を会社全体で共有し、行動に移していくことで生産効率や在庫回転率の向上に結びつける。これをどうシステム面で支援していくかが今後の重要テーマになる。
事例のポイント
●行き詰まったときに頼れる専門家に普段からコンタクトしておく。
●XML技術を重視。カネと時間のかかるプログラミングを排除。
●実績がない製品でも技術的に優れていれば試す価値あり。