国内の企業では、仮想化技術を利用してシステム全体を最適化する動きが活発化している。「VMware」に代表される仮想化ソフトウェアの性能向上や低価格化、サーバーの高速化、ブレードサーバーやストレージなどを組み合わせ最適化された「仮想化ソリューション」の相次ぐ登場などを受け、システム開発・構築の“トレンド”として仮想化が一躍注目を集めているのだ。仮想化に関連するハードやソフト、システム構築などの技術・製品は昨年までにほぼ出揃ったといわれている。このため、IT業界では2007年が「仮想化・普及元年」になると期待が高まっている。今回の連載では、国内に仮想化の波が訪れた2005年頃から現在までの市場動向をはじめ、大手SIベンダーや、大企業に加え中堅中小企業にシステム開発・提供するSIerの取り組みの変遷、ユーザー事例などを6回にわたり紹介する。(谷畑良胤●取材/文)
2007年は「仮想化・普及の年」
NT4.0のサポート切れがトリガーに! 国内で仮想化に対する注目度が高まったのは、マイクロソフトのサーバーOS「Windows Server NT4.0」がサポート切れとなった05年頃である。同OSを搭載するハードウェアの保守期間が終了して維持が困難になったものの、大量の新規サーバーなどへ移行するにはコスト高になるという問題が発生していた。仮想化技術を利用すれば、異なるOSとアプリケーションを稼働する複数の仮想マシンを同時実行でき、異機種のサーバーを1台に統合できるとあって注目されるようになった。多台数の物理サーバーの運用管理を効率化でき、ハード購入費を削減できるなどメリットが大きく、仮想化技術を利用したシステム再構築に向けたユーザー企業や、それを支えるSIerの仮想化技術を利用した技術革新が始まった。
仮想化技術は、サーバーやストレージ、プロセッサ、アプリケーションなど、システム全般にわたる場面で期待されている。ただ、仮想化技術自体は、それ以前からあった。ネットワーク領域でスイッチの分割をスイッチ内部で仮想的に実現する「VLAN」技術や、複数のCPUが同等の立場で分担処理するマルチプロセッサ技術「SMP(対称型マルチプロセッサ)」など、すでに当たり前の技術として利用されているものがある。
ところが、これら仮想化技術は同一OS、サーバー、ストレージなどにおける局所的な効果にすぎず、各提供ベンダーの技術に限定されて効果を発揮するにすぎなかった。一方で、現在の仮想化技術は、「VMware」など仮想化ソフトを利用して、コンポーネントの枠を越え、複数ベンダーのコンポーネントを束ねて仮想化環境にすることを可能にしているのだ。
特に最近では、レガシーシステムにあるアプリケーションの継承やサーバー統合の用途に加え、ネットワーク環境の統合に向け仮想化技術を応用する動きが出ている。大手SIベンダーでは、サーバーやストレージ、ミドルウェアなど各ハードのプラットフォーム製品群を組み合わせ、リソース配分や全体最適化でTCOを抑制できるベストプラクティスの「仮想化ソリューション」を提供し始めるなど、しのぎを削っている。また、仮想化と相性がいいとされるブレードサーバーを核に統合ハードを製品化したり、基幹スイッチのリプレース需要に向け、ネットワーク構築と保守を含めたサービスが続々登場しているのだ。
システム統合やSOA普及が後押し 従来のシステムは、サーバーやストレージなどコンポーネントの組み合わせが、各ベンダー製品の相互接続性に依存する固定化された環境であった。このため、システム構成を変更する自由度が低く、システム管理上の制約も多く、柔軟性に乏しいものになっていた。運用管理面でも、個別運用を強いられ、バックアップやサーバー監視などの製品を個々に選定して導入する煩雑さがあるため、システム担当者の負担や運用管理のコスト高という問題を抱えていた。
仮想化技術を導入すれば、リソースを個別に確保する必要がなく、全体で1つの論理的なリソースを構成でき、必要な用途に対して必要な量を割り当てるという柔軟な運用を可能にする。
最近では、システムの柔軟性確保や拡張性を高める手法としてSOA(サービス指向アーキテクチャ)の導入を進めるユーザー企業が増えた。システムを設計する際には、仕様に応じてシステムの規模を推計するが、特にSOAの場合、各サービスの負荷の算出を事前に予測することに困難さが伴う。こうした予測の精度を高めることが困難なため、運用を開始してからリソース不足に柔軟に補えるシステム構成にしておいたならば、無用な作業は省ける。システム環境にあらかじめ仮想化技術を利用したものにしておけば、システム導入前後の作業負荷は軽減できるため、大企業に限らず、中堅中小企業でも仮想化を採用する例が出始めているのだ。
仮想化に対するニーズが高まる中で、1-2年前からは、ブレードサーバーに仮想化技術を取り入れた統合プラットフォームと呼ぶ製品を、NECや日立製作所、日本ヒューレット・パッカード(日本HP)、日本IBMなどが相次ぎ投入している。サーバーでは、障害発生時にケーブルや電源などに細心の注意を払う必要があった。しかし、ブレードサーバーであれば、障害機器の交換や新規作業などの際に起こる「停止」のリスクを最小限に抑えられるからだ。
サーバーに加え、ストレージ領域も 仮想化が一躍注目を集めた05年当時は、高価なサーバー上で大規模なリソースを確保したうえで、それを細分化する運用方法がとられていた。このため、比較的、IT投資にゆとりのある大企業でしか仮想化技術を利用することができずにいた。しかし、現在ではCPUの高速化が進み、小規模サーバーでリソースを確保できる環境が整ったことから、「小さく導入して必要に応じて拡張する」ことが可能になり、中堅中小企業でも仮想化の導入を選択する例が増えているのだ。
ある中堅SIerの担当者は「既存サーバーを統合する目的だけでなく、新規にサーバーを構築する際にも、仮想サーバーを選択するケースが増えている」という。物理サーバーをシステム要素の台数分だけ購入するのではなく、将来的な運用管理の負荷低減や拡張性を見込み、仮想化環境を構築するためにサーバーを追加オーダーする傾向にある。
仮想化機能を搭載した製品としては、サーバーに加え、ストレージ領域でも製品化され始めている。いままでのストレージは、ごく一部のディスクにI/Oが集中する問題が生じている。こうしたディスクへのアクセス集中を避けて、自動的に分散するという新機軸のストレージ製品も市場に投入されている。高性能で高信頼の仮想化環境を実現して、システムの「統合」や「全体最適化」のニーズに応える製品やソリューションは成熟し、今年から導入が加速して、2-3年後には最盛期を迎えるとさえいわれている。
今春には、マイクロソフトの次期サーバーOS「Windows Server“Longhorn”」と同時進行で開発が進む、ハイパーバイザー型の仮想化製品「Windows Server Virtualization」のβ版の提供が始まるなど、仮想化の利用に一層拍車がかかりそうだ。ヴイエムウェア日本法人によれば、国内で「西暦2000年問題(Y2K)」で新規導入したサーバーのリースアップが訪れ、仮想化技術を採用してシステム統合に成功したユーザー企業の導入事例が増えているという。
システム開発・構築を手がけるSIerにとっては、どのハードやソフトを利用し、どんなシステムやサービスを提供し、差別化を打ち出すのかが問われている。