ビジネスプリンタ業界は、「局地戦」から「空中戦」へとシフトし始めている。企業向け機器を提供する国内プリンタベンダー各社は、販売台数が稼げる都市部の個別企業に対する攻めから、再度、ローカルエリアを含めて全国の販売網を築くことに重心を移している。都市部攻略を進めていたデジタル複合機(MFP)をもつ大手が全国展開を加速したことに中堅中小企業向けの単機能プリンタ販売を主力とするベンダーが呼応。ローカルエリアの既存販社を引き締めるため、複合提案の仕方やサポートなどの支援を強化している。伸び悩むプリンタ市場を再浮上できるか各ベンダーの動きが注目される。
各社が全国展開を加速
カシオ、事務機販社を手中に
エプソン販売は4月1日、プリンタのマーケティングと地域の営業部隊を統合した横断的な新組織「LPプロジェクト」を立ち上げる。「企業のIT環境が変化し、ハードウェア単体売りに加え、提案型の販売にシフトする」(織戸司郎・販売推進部部長)と、既存販社がユーザー企業にこれまで以上に付加価値を提供でき、収益を上げる仕組みを、「都市型」と「ローカル型」などエリア別に戦略・戦術を検討するという。
まずは、印刷の「見える化」を進めるため、印刷ログ管理などセキュリティ管理をネットワーク上で可能にする機能を提供するほか、販社にはユーザー企業で消耗品が切れると同時にデータを転送したり、販社だけに顧客データベースを閲覧できるようにして、エリア別の販売力を強化する。エプソン販売のプリンタは、大半が買い替え時期にあるようで、「自社製品を導入している企業のリプレースを確実にする」(織戸部長)と、当面は“自陣”を他社に奪われるリスクを減らそうと懸命になっている。
カシオ計算機は昨年10月から、これまで注力していた東京、名古屋、大阪の印刷ボリュームの高い地域だけでなく、全国展開する大手事務機ディーラーや地場有力ディーラーと新たに手を組み、「全国フルサポート体制」を構築した。「従来は、カラー化ニーズの顕在化と業種に特化したSIerとのチャネル構築に力を注いできた。これからは、当社のサポート体制と事務機ディーラーの販売網を利用して、“空中戦”を展開する」(藁谷幸司・国内営業統轄部システム企画部次長)と、販売台数シェアで上位の競合ベンダー追随に自信をみせる。
昨年10月からの半年間で、カシオ計算機は新規チャネルを含めた事務機ディーラーに2000台のプリンタを供給した。1996年からプリンタ販売を開始した同社の年間販売台数は、これまでの最高値が約5000台であることから、短期間ながら“空中戦”はかなりの効果を発揮しているといえる。

エプソン販売やカシオ計算機が、エリア別に販売網を体系化する理由は、MFPと単機能プリンタをもつ業界トップクラスのベンダーが全国展開を本格化していることと無縁ではなさそうだ。このうち、キヤノンマーケティングジャパン(キヤノンMJ)は昨年から、東京・品川の本社で展開している通称「ライブオフィス」を仙台、大阪、広島、福岡にも設置した。実際に同社内の利用環境を販社や企業に公開することで、商談期間の短縮化につなげている。今年は「ライブオフィス」を春に札幌、秋に名古屋に新設する計画だ。
キヤノンMJは、昨年度(06年12月期)にメジャーアカウントの大型契約が成立して、プリンタ事業全体を大幅に底上げした。しかし、大型案件は一過性の色合いが強く、「個別企業を攻略する“局地戦”に加え、エリア別の広域な戦略を進める」(峯好文・ビジネスプロダクト企画本部ページプリンタ商品企画部部長)と、大型案件が獲得できる首都圏の活性化とエリア別の旧販社網の活用、新規販社開拓を通じて足場固めをする考えだ。
プリンタ各社、複合提案を促進
また、富士ゼロックスの子会社で単機能プリンタを主に拡販していた富士ゼロックスプリンティングシステムズ(FXPS)が、4月に親会社と再合併することも、プリンタ業界に衝撃を与えている。4年前に分離独立したFXPSは、エリア別にSIerなど独自の販社網を築くことを積極化していた。
こうした販社に自社の単機能プリンタを拡販してもらう一方、親会社の地域販売会社に対し、MFPとのセット販売を要請していた。だが、「地域販売会社が単機能プリンタを販売する機会は少なく、FXPSの営業リソースが自社内向けに取られるという不都合が起きていた。やっと、親会社が本気になった」(中林慎悟・販売本部マーケティングセンターセンター長)という。再統合を機に、富士ゼロックスはグループ内の地域販売会社に対し、本社から「単機能プリンタとMFPを複合提案して拡販すべし」という〝指令〟が下ったようで、同社単機能プリンタの販売網は拡大し、エリア別の展開を拡充できそうである。
企業向けカラープリンタは、急成長を期待した業界の予想に反して、伸び悩んでいる。昨年は大型案件でモノクロからモノクロへのリプレースが進んだ影響で、単価アップを期待できるカラープリンタ市場は鈍化。キヤノンMJの峯部長は「OA系では、カラー化率が上がり、カラー印刷の枚数も伸びた。しかし、業務系にはカラーが浸透していない。業界全体の読み違いがあった」と、カラー化の波は2─3年後に本格化すると分析している。
こうした現状を受け、リコーでは、カラー化率を上げるため、業務系に向けた販売を増やす取り組みとして、従来の支援策を集約。販社のパートナーに複合提案で販売しやすい環境を提供する「パートナーサポートプログラム(PSP)」を2月に体系化。検証機支援や導入前出力検証、物流・設置支援、フルタイム保守支援、人材育成など、販売・導入設置・保守まで、販社がかかわる部分の無駄を省き販売効率を高めるプログラムを拡充した。
リコーの武田健一・販売事業本部ソリューションマーケティングセンター商品計画室室長は「業務系領域を攻めるには、当社の直販だけでは限界がある。この領域を開拓するには、複合提案ができるベンダーとのアライアンスが必須になる」と、既存販社に販売力をつけ、高いインセンティブを提供することでチャネル網の引き締めを狙う。
一昨年来、国内プリンタベンダーは、デルやヒューレット・パッカード(HP)の価格競争の煽りを受け、海外シェアが軒並み低下した。それだけに、国内に回帰して、都市部だけでなく、全国のエリア販売網を再構築する動きに出ているようである。一部には、単機能のカラープリンタを中心に、「すでに国内でも価格競争が始まっている」という指摘もあり、〝箱売り〟から脱却して、内部統制やセキュリティの強化など、ユーザー企業の要望に応じた複合提案で競合他社に打ち勝っていく必要性に迫られているようだ。