楽天、IP電話のフュージョン買収

　楽天が東京電力の子会社でIP電話サービスを中心とした通信事業を手がけるフュージョン・コミュニケーションズの買収を発表した。これにより、楽天は通信事業への本格参入を図り、ネットサービスの基盤を強固なものにする方針。楽天の三木谷浩史会長兼社長は、「楽天経済圏の拡大を図る」としている。フュージョンを買収するのは、ネット外コミュニケーションを取り込むことで「ネット完結型だけではないサービスで、非ネットユーザーを会員として獲得する」ことが狙いだ。

　確かに、音声とウェブを組み合わせることは、新しいビジネスモデルの構築につながる。1つの例がソフトフォン。代表的な無料ソフトフォン「Skype（スカイプ）」は、ワールドワイドでユーザーが急激に増大している。個人や法人を問わず、ウェブ経由での通話が当たり前になりつつあるのが実情だ。こうした状況に加え、「オフラインユーザーとのコミュニケーションを可能にすることが重要となる」という考えで買収したというわけだ。

　楽天とフュージョン双方の強みを出すことで強化が可能なサービスは、ユーザーがパソコンでチャットや通話が楽しめる「楽天メッセンジャー」だという。「IP電話サービスと組み合わせれば、楽天会員に対する050番号の付与や、楽天メッセンジャーから電話網への接続、VoIP技術の強化など新しいビジネスを提供できる」。同サービスは、今年5月からβ版の提供を開始しており、「今後は、IP電話との融合を実現したサービスの中核に位置づけて本格提供を進める」としている。

　また、IP電話をサービスのなかに取り込むことで、広告事業の拡大も視野に入れている。着信課金型広告である「PPC（Pay Per Call）」だ。「インターネットマーケティング手法が急速な進化を遂げているなか、PPCは大きな成長が見込まれる。ネットショップで売られている商品のなかには、ネットの説明だけで完結できないものもある。説明が必要な商品に関しては、IP電話を使って説明員と会話できるようにすれば、ネットショップ運営企業にとっては掲載商品を一段と拡販できる」とみる。しかも、IP電話を通じて購入できるようになれば、商品購入者にとってはクレジットカード番号やメールアドレス、住所などをインターネット上に記入しなくても済む。「個人情報の漏えい問題を解決するための手立てになるのではないか」との期待もある。

　フュージョンの業績は、昨年度（2007年3月期）は赤字だったものの、「来年度には黒字化を達成できる」と言い切る。楽天は通信事業者を傘下に収め、IP電話をネットサービスの1つに取り入れることで事業領域の拡大に向けた準備を整えたことになる。TBSとの交渉が進展していない状況でのIP電話会社への資本参加なだけに、業界では「なぜ今の時期に通信事業者を買収するのか」との不審がる声も飛び交う。今回の買収は、通信を攻め落としてTBSへのけん制に使おうという意味合いも含んでいそうだ。通信の足場を固めることで“放送と通信の融合”を達成させようと目論んでいることは間違いない。