クラウドにおけるソフトウェア・サービス調達の在り方が大きく変わり始めている。グローバルでは、アマゾン ウェブ サービス(以下「AWS」)をはじめとするハイパースケーラーのマーケットプレイスが「新たな調達チャネル」として定着し、検索から契約、支払いまでを完結できる仕組みが広がっている。
2025年、日本でもAWSの指定登録販売者プログラム:Designated Seller of Record(以下「DSOR」)が展開され、販売店様が流通経由でソフトウェア・サービスを仕入れ、AWS Marketplace上で再販できる新たな調達の仕組みが整った。これにより従来のメーカー―流通―販売店という商流をそのままクラウド上で再現できるようになり、AWS Marketplaceが日本市場における新たな調達ルートとして本格的に立ち上がりつつある。
こうした転換点において、SB C&Sはいかにして新たな商流づくりに踏み出すのか。
(左から)ICT事業本部 ネットワーク&セキュリティ推進本部 本部長
山名 広朗 氏
ICT事業本部 クラウドプラットフォーム推進本部 本部長
山口 健二 氏
ICT事業本部 クラウドソフトウェア推進本部
顧 ぶん潔 氏
急成長するMarketplace経由調達
Marketplaceが、ソフトウェアやサービス調達の主要なプラットフォームへと変わりつつある。これまでは顧客がセルフサービスで購入する「直販かつ定価販売のみの場」という印象が強く、各種の事情を考慮した特別価格が設定できない、構築・保守といったプロフェッショナルサービスが登録できないなど、メーカーやISV、販売店などのビジネス活用の余地が限られていた。
しかし、この仕組みが大きく変わろうとしている。クラウドベンダー各社のMarketplaceは、自社製品だけでなく、サードパーティーベンダー各社のソリューションを、クラウド上で検索から契約まで完結できる商材プラットフォームとして機能し始めている。さらに重要なのは、流通を経由して、特定の顧客に提供される特別価格(プライベートオファー)を販売店様がMarketplace経由でエンドユーザー企業に提示できるようになった点だ。これにより、従来の「流通→販売店→エンドユーザー」という再販モデルがクラウド上でも成立し、販売店様にとっては売りやすく、エンドユーザー企業にとっては買いやすい調達ルートへと進化している。また、支払いをクラウドベンダーの請求に一元化できる点も大きなメリットとなる。
(AWS_KV)SB C&SのAWS Marketplace販売スキーム
ICT事業本部クラウドプラットフォーム推進本部の山口本部長は「特に北米ではAWS Marketplaceはソフトウェア調達の新たな調達ルートとして定着している」と話す。日本では税制や商慣習の違いから導入に時間がかかっていたが、2025年から本格的に海外と同様の制度が整備されてきた。
海外におけるAWS Marketplaceの存在感は数字を見れば顕著だ。山口本部長は「AWS Marketplace経由の売り上げは、Snowflakeでは20億ドル規模に達している。CrowdStrikeでは10億ドル超で、年間収益の2割をMarket placeが占めている」と話す。またクラウドセキュリティーのWizは創業からわずか18カ月で年間収益1億ドルに到達しているが、この背景にはAWS Marketplaceがあるといわれる。
現時点ではAWSが先行しているものの、他のクラウドベンダーもそれぞれのMarketplaceを活性化する動きが見られる。調査会社(Canalys/Omdia)によると、AWS、Google Cloud、Microsoft AzureといったハイパースケーラーのMarketplaceを通じた売り上げは、30年までに1630億ドル(約24兆円)に達するとの予測もある。
DSOR取得で新たな商流へ踏み出す
こうした急速な市場変化を背景に、SB C&Sはマルチクラウド時代の調達ビジネスに向けた第一歩として、AWS Marketplaceへの取り組みを本格的に開始した。同社は2025年11月末にDSORを取得し、AWS Marketplace経由の販売体制を正式に整備している。
DSORとは、AWS Marketplace上で「販売者(Seller of Record)」として認定される制度で、この認定により、SB C&Sはメーカー各社のソフトウェア・サービスを流通経由の仕組みで提供しつつ、案件ごとに特別価格(プライベートオファー)を提示することが可能になった。
日本国内でDSORを取得している企業はまだ限られており、SB C&Sは販売店様とともにMarketplaceビジネスを拡大できるポジションをいち早く確立した形となる。
ICT事業本部 ネットワーク&セキュリティ推進本部の山名本部長は「2025年から国内でもAWSのDSORが展開開始となり、メーカー、販売店、エンドユーザーで構成する従来の流通モデルが、そのままAWS Marketplace上で成り立つ仕組みへと変わった」と、大きな転換点を迎えたと話す。
また山口本部長は、AWSの年次カンファレンス「re:Invent 2025」に参加した感想として「日本ではAWS Marketplaceは新しい仕組みだが、海外では当たり前の購買チャネルになっている。ISVのブースでもAWS Marketplaceで買えることが前提で、パートナーもこのプラットフォームで提案するのが当たり前という空気だった」と振り返る。こうした状況については、山名本部長は「現状の日本は、北米でAWS Marketplaceが普及し始めた4~5年前に重なる」と話す。
近年、DX推進の内製化が進んでおり、直近では生成AIも加わり、開発のスピードはさらに加速していることから、AWS Marketplaceでソフトウェアやサービスを調達するのは時代の流れに沿っているといえる。
「調達のしやすさ」が広げるMarketplace活用
AWSはイベントなどの公的な場で「Strategic Procurement Highway(戦略的な調達の高速道路)」というフレーズを用い、AWS Marketplaceがソフトウェア購買のスピードと透明性を飛躍的に高めると強調している。このプラットフォームを使えばソフトウェアの検索、比較、契約、導入までが一気通貫で進み、トータルの時間を劇的に短縮できるからだ。加えて調達プロセスの契約が標準化されていることや、請求や支払いをAWSに一本化できることなどで効率化も進む。
さらに、re:Invent 2025ではAWS Market placeに関するいくつかの新しい強化策が発表された。例えば、MPOPP(Marketplace Private Offer Promotion Program)では、ISVパートナーによる申請後クレジットが迅速に配布される仕組みや、パートナーのカテゴリーに応じた支援策が発表されるなど、AWS Marketplaceを活用することで顧客との商談を進めやすく、より早く成長し、より高い利益率を得られるようになる。こうした仕組みにより海外ではますます、このプラットフォームを通じたソフトウェア調達が進んでいる。
北米でAWS Marketplaceが先行する最大のユーザーメリットの一つとして、山名本部長は「予めAWSサービスの購入用に確保した予算を消化しきれない場合、企業にとっては“使わずに失われる予算”が発生してしまう。AWS本体のサービスではこれ以上購入するものがないケースでも、Marketplace上には様々なソフトウェア・サービスのラインナップが揃っているため、残った予算で購入できるニーズに合わせた商材を探し、Marketplaceを経由した購買に切り替える機会が生まれやすい」と話す。Marketplaceでの購買はAWS利用料金として取り扱われるため、これまで取引のなかったメーカーの製品であっても、新規取引先登録や個別稟議の手続きを省けるケースが多い。調達プロセスが簡素化される点も、企業がMarketplaceを選ぶ大きな理由となっている。AWSを通じて購入するソリューションの「包括的予算管理」によって、日本でも未達の回避だけでなく“調達しやすくコスト効率も良いからMarketplaceで買う”という購買行動が今後さらに広がると見られる。
マルチクラウド時代の“流通”が果たす役割
MicrosoftやGoogle Cloudなど、他のクラウドベンダーも同様にMarketplaceの整備を進めており、今後はクラウド利用の拡大とともに、Marketplaceが主要な調達ルートとして存在感を強めるのは間違いない。
こうした環境変化の中で、SB C&SがMarket placeビジネスに注力することには明確な意義がある。
SB C&Sは、多数のメーカー製品を扱う“流通”として長年蓄積してきた基盤を持つ。
従来の商流でも、新しいMarketplace経由の商流でも、メーカー様・販売店様双方を支援できる点がSB C&Sの特長だ。
クラウドベンダー各社のMarketplaceは一見似ているが、制度や契約、登録方法などの細かな点が大きく異なる。 ここがパートナー様にとって負担になりやすいポイントだ。
山口本部長は「当社はこれらの違いを理解したうえでオペレーションを標準化し、パートナー様のビジネスを“ワンストップで支援できる体制”を整えている」と語る。
急激に拡大し、ルール変更も頻繁に起こるMarketplace領域において、メーカー様・販売店様の両方を支援できる“マルチクラウド流通”としての役割を果たすこと――それがSB C&Sが今、Marketplaceビジネスを本格化させる最大の理由である。
実際にAWS Marketplaceビジネスに乗り出す際の壁について、クラウドソフトウェア推進本部の顧氏は「製品を掲載するリスティングだけでも難易度が高い」とする。「技術・契約・税務など、さまざまな条件をクリアする必要があるだけでなく、説明文や価格体系の整理など作業量が膨大にのぼる。特別価格の設計も難しく、『どうつくればいいか分からない』との悩みもよく聞く」(顧氏)。そこで、パートナーがAWS Marketplaceビジネスでつまずきやすいポイントについても、SB C&Sはリスティングや特別価格設計などの支援を強化していく考えで、「情報提供や勉強会も計画中だ」(顧氏)ということだ。
SB C&SがAWSに注力する理由として、山口本部長は「当社は2500社ものメーカー様とコミュニケーションの実績があるが、その多くがいまだにAWS Marketplaceに載っていない。これから対応していく際に、われわれのケイパビリティーが生きると考えている」と話す。
AWS Marketplaceでは、CPPO(Channel Partner Private Offer)やDSORといったチャネル向けの仕組みが用意されている。山口本部長は「Private Offerで価格合意から契約、決済までをクラウド上で完結できる。当社は登録・出品・契約・計上までの実務をテンプレート化し、メーカー様の売り上げの創出/販売店様の受注オペレーションを支援する体制を整えている」と話す。
山名本部長は「今後はパートナー様とともに、さらに市場を開拓していきたい」と展望する。「外資系企業であればグローバルで情報が共有されているため、制度を理解し自力でAWS Marketplaceに参加できるかもしれない。しかし、国内ではまだ情報が不足しており、営業コスト削減や特別価格、追加インセンティブといったメリットや商機が十分に理解されていないケースも多い。そこをわれわれがしっかりオンボードしていくことは、国内市場において大きな意義がある」と話す。
メーカーに対しては、AWSのPrivate Offer設計/出品登録/価格モデルまでを伴走し、他のクラウドベンダーのAWS Marketplaceにも横展開が可能だ。また、販売店に対しては、見積もり・受注・請求の運用標準を提供することで「クラウド上で売る」新たな販路を提供する。山口本部長は「パートナー様のAWS Marketplaceビジネスへの参入をSB C&Sが今後もサポートしていく」との抱負を述べた。なお、SB C&SはMarketplaceにおいても従来と同様に“100%パートナー経由”のビジネスモデルを貫いている。メーカー様・販売店様との商流を尊重し、流通としての役割をそのままクラウド上に持ち込むことで、パートナーエコシステム全体でMarketplaceビジネスを伸ばしていく方針だ。