WAN（ワイド・エリア・ネットワーク）高速化をラインアップとして揃えるネットワーク機器メーカーにビジネスチャンスが訪れている。通信事業者が次世代通信網（NGN）を全国で構築するにあたり、WANを視野に入れているからだ。通信事業者をはじめとしたサービスプロバイダー（SP）向け市場に新参入を図ろうとするメーカーが相次ぎそうだ。（佐相彰彦●取材／文）

SP市場に新規参入が相次ぐ可能性も

■通信事業者が表敬訪問

　WAN高速化を武器に国内スイッチ市場でのシェア拡大を図ろうとしているリバーベッドテクノロジー（遠井雅和社長）は、SP向け事業に着手するための準備を進めている。「ある通信事業者から、『地方にもNGNサービスを提供するためにWANの採用を検討している』との依頼を受けた」からだ。同社は、今年5月24日付で経営体制を刷新。遠井社長は、日本ネットワーク・アプライアンスで営業本部長を努めた経歴の持ち主。「ネットワーク側からだけでなく、コンピュータ側からネットワークの利便性を顧客に提案するなど、新しい切り口で新規顧客を開拓したい」との考えから、これまでとは異なる業界にも挨拶回りした。

　その1つとして通信事業者を訪れたのだが、「NGNを全国網で実現するための準備は整っているのだろうか、という素朴な疑問があった」。挨拶回りでは雑談ベースでNGNに対する最適論を話し合ったが、しばらくして通信事業者の担当者がリバーベッドのオフィスを訪問。地方でのNGN構築に最適製品を探しているとの話が具体的に持ち込まれたという。現段階では、販売契約を完全に結んでいるわけではないものの「SP向け事業の拡大を視野に入れるようになった」と遠井社長は打ち明ける。

■「音声のIP化」は必須

　通信事業者によるNGN構想の具現には、住民が生活する地域に必ずIP網を敷設しなければならない。NGNの前提は「音声のIP化」で、電話回線を入れ替えることだからだ。極端な話だが、電話回線では通話が可能だったのに、IP網が敷かれていないため、NGNになった途端に通話できないというのでは意味がない。しかし実際には、山間部などでは通信事業者の基地局が未設置の地域もある。こうした地域は、NGNが構築されたら本当にサービスが受けられるのか。そこで浮上してきたのがWANである。WANなら、専用線などを使って大容量のデジタルデータのやり取りが可能になる。各地域のケーブル会社や地方自治体などと組んでWANを構築し、住民に対して通話をはじめとしたNGNサービスが提供できるようになるというわけだ。

　某大手通信事業者の話では、「NGNにWANを構築するとは決定していない。さまざまな方法を検討したなかで最適なシステムを導入する」ということだ。WAN以外の選択肢としてWiMAXがあげられるが、3G携帯電話を持つ事業者には周波数の割り当てが定められていない。したがって、NTTグループやKDDIは現段階では免許を取得できないことになり、地方へのNGNサービス提供にはWANが最有力候補だといっていいだろう。

　こうしたことから、これまで通信事業者向け市場でビジネスを手がけていなかったネットワーク機器メーカーが新規参入組として勢力を伸ばす可能性を秘めている。L4－7スイッチ市場でトップシェアのF5ネットワークス（長崎忠雄社長）は、同市場に本格参入できていないものの「通信事業者は、NGNならではのアプリケーションサービス提供が可能なシステムの構築を模索している。アプリケーション配信の分野は、当社が得意の領域。何としてでも入り込む」（長崎社長）としており、同社製品の優位性をアピールする。通信事業者からのシステム受注合戦で、メーカー間の激しい戦いが繰り広げられることになりそうだ。