その他
ソフトウェアの品質問題 トラブルが後絶たず
2007/07/30 14:53
週刊BCN 2007年07月30日vol.1197掲載
ソフトウェアの品質向上が喫緊の課題になっている。ITは今や社会を支えるインフラになっているにもかかわらず、ソフトに端を発する大規模な情報システムのトラブルが後を絶たない。多くのオーダーメイドのソフトは、ユーザー企業とベンダーとの共同作業によってつくられてきた。しかし、この共同作業がうまく機能していないことが、大きなトラブルにつながる要因との見方が有力だ。ユーザー企業とベンダーの双方の不満が高まっている。(安藤章司●取材/文)
発注・受注双方の不満高まる
■責任のなすりあい
情報システムの重要性が増すにつれて、些細なトラブルでも大きな社会的混乱を招くケースが増えている。全日本空輸の予約システムの不具合は国内線が多数欠航、遅延する事態に陥り、NTT東西地域会社のシステム障害ではIP電話などが一時使えなくなった。社会保険庁の年金記録問題は一義的には情報システムのトラブルではないものの、多額の投資をしてもなお、問題を解決できないシステム開発の在り方が問われている。
トラブルが起きればユーザー企業、ベンダーともに困る。ユーザー企業のトップは顧客に頭を下げて詫び、ベンダーはユーザー企業から厳しい叱責を受ける。“ITのプロに任せたのだから、ちゃんと責任をとってくれ”というのがユーザー企業の言い分であり、ベンダーは“ユーザー企業の指示通りに作業をしただけ。最終的な責任はユーザー企業にある”と考えがちになる。
では、どうしたら責任なすりあいの“泥沼”に陥らずに済むのか──。この5月に業界団体の情報サービス産業協会(JISA)会長に就いた浜口友一・NTTデータ取締役相談役は、「最初から完璧なシステムなどあり得ない。必ずどこかに不具合があることをユーザー企業、ベンダー双方が理解すべき」と説く。根本的なところで情報システムの“安全神話”がまかり通り、いざ障害が起こると必要以上に混乱してしまうというのだ。
自動車や家電製品などの量産品とは異なり、オーダーメイドの情報システムはユーザー企業の要求どおりにソフトウェアを組み上げていく。設計仕様は最終的にユーザー企業の了承を得ている。ベンダーは要求や了承済みの設計に基づいて開発しているため、この部分でのミスはベンダーだけの力で改善するのは難しい。開発工程でのバグも一定の割合で発生し、動作テストなどで補修するが、すべてを直せるわけではない。結果としてある程度の品質のブレはやむを得ないというのがベンダー側の見方である。
■責任だけ負わされる
品質をあまりにも重視しすぎると、いつまでもテストを繰り返すことになりコストに跳ね返る。ある程度のところで本稼働に入るわけだが、トラブルが起きるたびに「責任だけ負わされるのは、かなわない」(JISA幹部)と本音が聞こえてくる。ベンダー側からしてみればぎりぎりの採算ラインで仕事をしているのに、トラブルの責任を負わされ、賠償に怯えるのではビジネスとして成り立たないという言い分にも一理はある。
JISA前会長の棚橋康郎・新日鉄ソリューションズ相談役は、「ユーザー企業の発注能力の問題もある」と指摘する。情報システムの重要性の高まりに比べて、IT部門の力が追いつかず、ベンダーに丸投げになる傾向が強まっていると分析する。ベンダーもユーザー企業の業務がよく分からないまま、言いなりに作業を進めるとシステムの品質は確実に落ちる。システム障害が起きるたびに、「あのユーザー企業にして、このベンダーか」と、体たらくを揶揄される。
しかし、ITの進展は目覚ましい。ユーザー企業に最先端の知識を常に身につけろ、というのは少々酷だ。ベンダーはこの点に早くから着目し、ユーザー企業の業務に踏み込んだコンサルティングサービス、業務分析サービスで収益性を高める努力をしてきたのではないのか。「要求仕様に従って開発したまで」という言い訳は、ユーザー企業のみならず、迷惑を蒙った最終顧客の理解は得られない。“メーカーは何をやっとるんだ”という一般市民の非難感情は抑えられない。
情報サービス産業界のトップグループは業績伸長や再編によって大きく成長し、元請け(プライム)での受注が増えている。ユーザー企業と直接接するプライム企業がユーザー企業の業務ノウハウを吸収、積極的に提案し、改善策をとりまとめる努力がより一層求められている。“御用聞き”とか“言われるがまま”の下請け体質を残していては、通用しない局面を迎えているのではなかろうか。
■悪循環を断ち切る
悪循環を断ち切ろうとする動きもある。ユーザー企業団体の日本情報システム・ユーザー協会(JUAS)は今年7月、「要求仕様定義ガイドライン」を公表。これまで要求仕様書に「“何を記述すべきか”の研究は行ってきたが、“どうやって作成すべきか”の研究は手薄だった」(細川泰秀・専務理事)として、作成に関する詳細なノウハウをまとめた。
ベンダー側でも「やるべき改善策はまだ数多くある」(NECソフトの国嶋矩彦社長)と、トラブル問題を真摯に受け止める声が強まっている。NECソフトは母体がメーカーだけあって、トヨタ自動車式の品質向上策をソフト開発に採り入れたり、オーダーメイドのシステムでも品質を高めやすいパッケージ製品の適用率を高めるなど、メーカーらしい取り組みを行っている。他のベンダーもそれぞれの特性に合わせた改善策は必ずあるはずだ。
プライムで受注する業界トップ企業がリーダーシップを発揮しなければ、下につく協力会社はたまったものではない。情報システムが今後も社会的重要性を増していくのは明らか。社会から頼りにされる、魅力ある産業に脱皮しなければ、業績改善どころか、競争力の源泉である優秀な人材の確保すらままならなくなる。
【チャンスの芽】
・業務に踏み込んだコンサルティングはプライムベンダーの務め
・ユーザー企業IT部門の弱体化を補う力量がビジネス拡大につながる
・ 設計、開発、運用の品質向上こそ社会的信用を得る基盤になる
ソフトウェアの品質向上が喫緊の課題になっている。ITは今や社会を支えるインフラになっているにもかかわらず、ソフトに端を発する大規模な情報システムのトラブルが後を絶たない。多くのオーダーメイドのソフトは、ユーザー企業とベンダーとの共同作業によってつくられてきた。しかし、この共同作業がうまく機能していないことが、大きなトラブルにつながる要因との見方が有力だ。ユーザー企業とベンダーの双方の不満が高まっている。(安藤章司●取材/文)
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