SaaSベンダーとの協業も
提供側にとっても、ユーザー側にサーバーを置かなくてすむのでサポート負担が格段に軽減でき、利幅が大きいと、サービスに切り替える利点をあげる。
提供方法としては、ISPやSIer、販社のネットワークを介した販売が主流だ。SaaSベンダーとの協業の話があれば、各社一様にアライアンスを組んでいきたいと意欲を示す。セキュリティソフトは企業のほぼ9割に行き渡っている状況で、ソフトウェアからサービスへの切り替えを促す。「現在はまだ競合がいないせいで、SaaS自体の認知が低い。そこにさまざまな大規模ベンダーが入ってくれば、認知度はおのずと高まってくるだろう」(マカフィーの米澤寿員・プロダクトマーケティング部シニアプロダクトマーケティングマネージャー)とみている。デジターでは、さらに、グローバル企業にアルゴリズムを移植して、傘下のグループ会社なども展開する意向だ。
SaaS/ASPが普及するきっかけは何か、と聞いたところ、「マイクロソフト、もしくはグーグルなどの大企業がSaaS/ASPに参入すれば、一気に普及してくるだろう」と、各社は答える。今年に入り、シマンテックがバックアップソフトからSaaS/ASPへの参入を表明、トレンドマイクロは米国での報道で、中小向けSaaS/ASPビジネスを展開し、08年第1四半期までに日本にサーバーを設置する計画であることを発表した。
セキュリティ市場でのSaaS/ASPビジネスが本格化しそうだ。
解説 SaaSとASPは似て非なるもの

SaaS/ASP型サービスはIT業界にどう影響を及ぼすのか。ソフトウェアビジネスに詳しいサイバー大学の前川徹・IT総合学部教授に分析してもらった。(編集部)
SaaSと従来型のASPとは似て非なるものである。類似サービスとして語られることが多いが、両者の“利益率”には決定的な違いがある。SaaSは売上高の拡大に伴う利益率の上昇傾向が強く、ASPの利益率は頭打ちになりやすい。ビジネス規模が大きくなればなるほどSaaSの場合は利益率が高まり、収益力が増す。
1つのシステムを複数のユーザーで共有するマルチテナント方式がSaaSの特徴であり、ユーザー社数が増えてもコストが上がりにくい。つまりコストの上昇幅よりも、売上高のほうが大きくなるため利益率が高まる。しかし、ユーザーごとにシステムをつくり込むケースが多いASPでは、維持費や人件費などのコストがユーザー社数の増加に応じて膨らんでしまう。

これに対して、SaaSは規模のメリットを得やすく、ベンダーは大企業から中小企業に至るまで幅広いロングテール型のマーケティングを展開できる。CRMで成功しているセールスフォース・ドットコムがいい例であろう。
従来のパッケージソフト型のビジネスは、顧客の要求を上回る過剰な機能追加を行う“オーバーシュート現象”が起こっている。バージョンアップに応じなくなる顧客が増えており、ビジネスモデルの限界がみえつつある。これにいち早く気づいたベンダーがバージョンアップに依存しないSaaS型へ移行している。
オーバーシュート現象に直面するパッケージソフト業界にとってSaaSは助け船になる可能性が高い。一方で、大規模展開によって収益力が向上する特性があるため、有力ベンダーによる寡占化が進むことも考えられる。模様眺めに終始するのではなく、競争が激化する前にまずは小規模からでもSaaS型ビジネスに挑戦してみることが大切だろう。(週刊BCN 2007年8月27日号掲載)