その他
組み込みソフトの検証サービス 激しさ増す市場開拓競争
2007/08/27 14:53
週刊BCN 2007年08月27日vol.1200掲載
組み込みソフトの検証サービスが拡大している。ソフトウェアの開発規模が増大するのに伴い、検証サービスに対する需要が急速に顕在化。有力ベンダーが相次いで検証サービスの充実を図る。組み込み製品を対象とした検証サービスの市場は2兆円近い規模と推定される。しかし、その大半は開発元が自前で検証しており、第三者による検証サービスに結びついていないのが実情だ。ベンダー各社はサービスメニューを増やすなどして市場の開拓を本格化させている。
2兆円の巨大市場に化ける?
検証分野の拡大へ
検証サービス専業ベンダーでCSKグループのベリサーブの昨年度(2007年3月期)売上高は前年度比45.6%増の69億円。営業利益率も16.5%と一般的なソフトウェアの受託開発の水準を上回る。10年3月期には「少なくとも売上高120億円を目指す」(浅井清孝社長)と鼻息が荒い。
なぜ、急成長しているのか──。携帯電話やカーナビゲーションシステムなどに搭載するソフトの開発規模が拡大しており、動作検証にかかる工数が増大。メーカーが自社内だけで対応できなくなっていることが要因としてあげられる。
ベリサーブではプロトタイプができあがった段階で、利用者になりかわって操作。設計者が予想していない使い方をあえて行うことで不具合を見つけたり、設計通りの動作をするかを第三者の目で検証する。需要の拡大に自社や協力会社だけでは人手が足らず、シニアや主婦などを動員する試みも始めているほどだ。
競合他社も黙ってはいない。組み込みシステム向けの開発ツールベンダーのガイオ・テクノロジーは、ソフトウェアの根幹であるソースコードレベルの検証サービスで差別化を図る。システム検証ツールも製品化するなど「プログラムの構造を熟知しているのが当社の強み」(岩井陽二・事業推進担当執行役員)としている。自社ツールを検証サービスにも応用することで検証の精度と効率を高める。
ソフト開発大手のNECシステムテクノロジー(NECST)は、最上流の設計段階から検証サービスの要素を盛り込む。電子機器に不可欠なLSIから、その上で動作する組み込みソフトの設計に至るまで、「主に上流工程をカバーする」(芝野良一・エンベデッドソフトウェア事業部長)ことで、他社との違いを明確化した。
ベリサーブは組み上がった製品の動作検証を柱とし、ガイオはソースコードの分析に軸足を置く。これに対してNECSTは開発前の上流工程をターゲットにするなど各社のアプローチは異なる。
情報処理推進機構(IPA)の「2007年度版組込みソフトウェア産業実態調査」による組み込みソフトの開発費は3兆2700億円。06年度版の調査に比べ19.8%も増えた。組み込み製品全体の開発費は約7兆8000億円で、うち2兆円近くが品質検証に当てられているという分析もある。
しかし、主要ベンダーの検証サービス単体の売上高を合計しても数百億円規模に過ぎず、需要の大半は埋もれたままだ。
第三者による検証サービスに至らない理由のひとつに、各社が提供するサービスが特定の部分に限られていることがあげられる。設計段階や開発途中、開発後などメインとする工程が部分的であったり、携帯電話やカーナビなど製品ジャンルに偏りがあるケースもみられる。
需要が顕在化してきたことを受けて、ベリサーブなどトップグループは工程や製品ジャンルのカバー率を高める動きを加速させる。眠れる巨大市場の開拓・争奪戦が今後ますます激しさを増すのは必至。似たようなサービス内容で価格競争に陥るのではなく、検証サービスの“健全な産業化”をリードする総合ベンダーへの脱皮が急務だ。
検証サービスの課題
自動車産業の高い壁 横展開に取り組む
急速な拡大が見込める検証サービス市場を開拓するうえで課題もある。自動車など大規模な組み込み製品にITベンダーが十分に対応できていないことや、一般の業務システムでの需要がみえてこないことだ。検証サービスビジネスを拡大していくうえで克服すべき壁が立ちふさがっている。
組み込みソフトでは携帯電話、薄型テレビやDVDなどの情報家電、カーナビや自動車に内蔵される制御システムが3大需要。このうち平均単価が高く、人命に直接的にかかわる自動車関連が需要の多くを占めているといわれ、検証サービスベンダーが受注獲得に狙いを定める。
しかし、カーナビや車載制御システム単体の動作検証テスト、プログラム分析はできても自動車に組み上がったあとの検証テストまで対応できないケースが目立つ。実際に車を走行させて試験するには危険が伴うため、最終の結合テストは自動車メーカーに任せるしか術がない。部品単位の検証サービスは受注できても、全体として正しく動作するかまでカバーできる見通しが立っていない。
一方、業務システムは第三者による検証サービスの需要が組み込みソフトほど顕在化していない。一般消費者が使うことの多い組み込み製品に対して、業務システムは限られたユーザーが使う専門的なものであり特性が異なる。
だが、社会インフラを支える重要な情報システムの不具合が相次いでいることから、第三者による検証の必要性を改めて問われている。
経済産業省が8月初旬に発表した「情報システムの信頼性向上のための緊急点検」でも「第三者による情報システムのレビューおよびシステム監査が不十分」と指摘。大手SIerのシーイーシーは、これまで組み込みソフトをメインターゲットにしてきたが、今後は業務システム分野への横展開にも力を入れる。「組み込みソフトで培ったノウハウは業務システムへも応用できる」(橋村清海取締役)と、ビジネス拡大に意欲を示す。埋もれた需要を斬新なアイデアとスピード感をもって開拓したベンダーが、先行者利益を享受することになりそうだ。
組み込みソフトの検証サービスが拡大している。ソフトウェアの開発規模が増大するのに伴い、検証サービスに対する需要が急速に顕在化。有力ベンダーが相次いで検証サービスの充実を図る。組み込み製品を対象とした検証サービスの市場は2兆円近い規模と推定される。しかし、その大半は開発元が自前で検証しており、第三者による検証サービスに結びついていないのが実情だ。ベンダー各社はサービスメニューを増やすなどして市場の開拓を本格化させている。
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