ITS(高度道路交通システム)関連ベンダーが新規ユーザーの開拓に向けてビジネスの拡大に乗り出した。道路システム高度化推進機構(ORSE)によるETC(自動料金収受システム)利用番号の民間開放にともない、ベンダー各社はDSRC(狭域通信)対応の路側装置とCRMなどバックシステムとの連携が可能な製品・サービスの提供を強化。商業施設などへの導入例が徐々に現れ始めている。ビジネスチャンスが広がっているようだ。
ベンダー各社が新規開拓へ
沖電気工業は、今年度(2008年3月期)から「ITSソリューションカンパニー」と称する社内カンパニーを設立し、民間企業向けITS関連ビジネスを本格化させた。
昨年度は、まだカンパニーを立ち上げていなかったものの、自動車関連のディーラーなどにDSRC路側装置とCRMシステムを連携させた製品・サービスを提供。このシステム案件を中心に3億円の売上高を達成した。今年度は、高速道路へのIT導入ノウハウをベースに、製品・サービスのラインアップ化に力を注いでおり、ショッピングモールに対して駐車場管理の提案、ガソリンスタンドには決済システムのテスト稼働といった案件を獲得。「昨年度の3倍以上となる売り上げ10億円規模を見込む」(ITSソリューションカンパニーの中ノ森賢朗プレジデント)としている。今年度中にビジネスを軌道に乗せ、「2010年度には100億円を目指す」方針だ。
ITS関連サービスプロバイダのITS事業企画(IBA)は、「IBA利用者番号サービス」や「多機能型ETCサービス」などを提供。ETC車載器の購入者が同社のサイトに登録することで、複数の場所でETCによる料金決済が行えるようになる。決済可能な場所は、ビルやショッピングモールの駐車場をはじめ、ガソリンスタンドなど30か所を超える。最近は、ジャンボフェリーに乗る際にもETCでの運賃決済が可能だ。サービスの会員数は、今年8月初旬の時点で7000人程度。小池建四郎社長は、「2010年までに30万人、15年に300万人の会員を目指す」としている。
NECエンジニアリングは、アンテナ部と通信制御部を一体化したDSRC路側装置「インフォビーコン」の販売に力を注いでおり、「徐々に導入企業が出始めている」(小野英雄・営業本部マーケット企画部主任)という。最近では、ほかの機器との連携で販売するケースもあり、「ソリューションベースでの提供はユーザー企業を増やすカギになる」と判断しており、協業メーカーを開拓していく。
ベンダー各社がITS関連ビジネスの拡大に乗り出したのは、昨年3月にORSEがETC車載器の利用者番号を民間開放したことが背景にある。開放前は、利用者番号が高速道路の通過だけで使われていた。しかし、民間利用になることでショッピングモールやガソリンスタンド、駐車場管理会社など消費者を顧客対象とした商業施設がETCユーザーから番号を登録してもらえるようになった。そこで、商業施設が付加価値サービスの提供に向けてETC活用システムを導入する機運が浮上。ベンダーにとっては、ビジネスチャンスが広がったことになる。
最近では、商業施設向けにASPでITS関連のアプリケーションサービスを使いたいというニーズも出てきている。そのため、沖電気では自社のIDCを使って交通情報提供サービス「Locoもび」を提供。物流会社が保有トラックでサービスを受けるなど、2000台近くが導入しているという。「将来的には、SaaSベースで提供していく」ことも模索しており、プラットフォーム開発やアプリケーションベンダーとのアライアンスを進めている。
今後は、ITSを切り口にシステム提案やASPなどでSIerのビジネス拡大につながる可能性が高くなりそうだ。