その他
中部地区の組み込みソフト産業 巨大産業に食い込めるか
2007/09/17 14:53
週刊BCN 2007年09月17日vol.1203掲載
中部地区の組み込みソフトウェア産業が拡大している。自動車産業の集積度が高く、車載・制御系やITS(高度道路交通システム)などに使う機器への組み込み需要が高まっているのが主な理由である。ところが、付加価値の高い最先端の研究・設計は自動車関連メーカー自身で行うケースが多く、かつソフトウェア人材も自動車業界へ流れる傾向が強い。IT産業としてみた組み込みソフトはぜい弱さが色濃く残ったままだ。(安藤章司●取材/文)
自動車に人材奪われる“弱さ”
■強い製造業、弱いIT産業
経済産業省などによる産業政策は、これまで中部地区の特性を踏まえ、主に自動車関連のものが多かった。産官学が連携して産業集積度を高める経産省の産業クラスター政策でも、中部地区は製造業が主なターゲットである。だが、近年では自動車の付加価値の重要な部分を組み込みソフトウェアが占め、ITと自動車の相乗効果の実現が中部地区の産業振興に欠かせなくなっている。
しかし、地元のIT産業はぜい弱だ。顧客である自動車関連企業をリードするだけの実力を持ち合わせていないベンダーが多数を占める。中部経済産業局が今年5月に発表した「中部の組込みソフトウェア実態調査」では、総人口に占める中部地区の比率が10%強であるのに対して、情報サービス業の売上高は全国の約4.5%の比率でしかない。これに対して組み込み製品の出荷額の比率は同25%余りと製造業の強さを示す。
現状のままでは、成長余地が大きい組み込みソフト需要を首都圏などITベンダーの集積度が高い地域に吸い取られてしまい、産業発展のチャンスを失ってしまう危険性もある。最終製品の付加価値を大きく左右する組み込みソフトが他地域に流れてしまえば、強みとする自動車産業そのものの弱体化にもつながりかねない。これを回避するため中部経産局や地元公的機関ではITベンダーの育成強化に力を入れている。
■賛否分かれる人材育成策
組み込みソフトの人材を育成するためのカリキュラムづくりや、組み込みソフト用の開発環境の整備事業を今年度、新たにスタートさせるなど産官学が連携して“産業基盤”の整備で取り組みが始まっている。
カリキュラムづくりでは、来年度から地元の大学や公的機関などで実際に研修を実施する予定で、主に中堅のプログラムマネージャー(PM)の育成を目指す。ただ、現実問題として組み込みソフトベンダーの人材不足の要因は、自動車関連メーカーに客先常駐させたり、派遣するプログラマ要員に人手をとられるためであることが多いのも事実だ。
この部分を補ったところで、「付加価値の低い“単純作業”を担う人材を量産するだけで、キャリアパスがみえない雇用を生む」(地元IT業界幹部)と、否定的な意見も聞こえる。一方で、「下請けでもまずは需要を満たして、将来のPMを育てるきっかけをつくることが先決」(別の幹部)という声もあり、カリキュラムづくりでは人材をどう位置づけるのかが課題となりそうだ。
また、中部経産局は現在、自動車関連をメインとする中部地区の産業クラスター政策の柱の1つに、組み込みソフトを盛り込む検討も始めている。人材育成、先進的な開発環境の整備と並行して、クラスター政策全体とリンクさせ相乗効果を高めるのが狙いだ。
自動車産業は、さまざまな企業が得意とする技術を持ち寄って形成される巨大産業である。ITだけが下請け体質では自動車メーカーにとってもマイナスだ。中部地区の組み込みソフトの開発規模は8000億円を上回るという推計もある。
今後の中部地区の産業振興を考えると、自動車向けの組み込みソフトに精通した地元ITベンダーの育成は不可欠な要件である。
中部地区の組み込みソフトウェア産業が拡大している。自動車産業の集積度が高く、車載・制御系やITS(高度道路交通システム)などに使う機器への組み込み需要が高まっているのが主な理由である。ところが、付加価値の高い最先端の研究・設計は自動車関連メーカー自身で行うケースが多く、かつソフトウェア人材も自動車業界へ流れる傾向が強い。IT産業としてみた組み込みソフトはぜい弱さが色濃く残ったままだ。(安藤章司●取材/文)
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