弥生前社長の平松庚三氏率いるライブドアホールディングス(ライブドアHD)は8月24日、傘下の業務ソフトウェアベンダー、弥生(飼沼健社長)を投資会社のMBKパートナーズに譲渡することを決定した。そして、9月28日、弥生は正式に分離独立。グループ会社のしがらみにとらわれない「フリーハンド」を得て、「新たな出発」をする。これまでに、別の2社でも経営を協力して進めてきた仲の両社長に、株式譲渡までの経緯や弥生が“悲願”とするIPO(株式公開)への道筋を尋ねた。
<SPECIAL INTERVIEW>
谷畑良胤(本紙編集長)●聞き手/文
大星直輝●写真
“悲願”IPOへの道筋、どう描く?
Now 真のフリーになれず決断
Viewpoint 1
ライブドアHDの平松庚三社長が、自身の出身企業である弥生を手放した。8月24日に株式譲渡を公表するまでの間、旧知の仲である弥生の飼沼健社長との間では、どんな議論が交わされたのだろうか。弥生にとって“悲願”であったIPOを果たすたことが本当の狙いだったのか―。
──まずは、純粋持株会社のライブドアHD傘下から弥生を分離独立させた理由を、平松社長に伺います。
平松 大きく2つあります。弥生の企業価値が上がり、マーケットが非常に高く評価してくれたことが1つ。また、弥生は、かつて「MBO」(米インテュイットから経営陣による企業買収で独立)した2003年当時からIPOを目指していましたが、(証券取引法で有罪判決を受けた)今のライブドアHD傘下では、それが大変に困難であることが理由としてあげられます。
──弥生のIPOは、平松社長が弥生の社長であった時代からの“悲願”でした。ライブドアHDから弥生を分離することは、いつ頃から具体化したのですか。
平松 弥生の分離独立を決定するまでには数か月を要しました(正確には、MBKパートナーズが運用するファンドが全額出資する特別目的会社「MBKP1」への株式譲渡を発表したのが8月24日)。根底にあるのは、現在の私はライブドアHDの社長だということです。だから、HDの持つ資産価値を常に把握しておく必要があって、その延長線に今回の弥生株売却があるわけです。
──弥生は、平松社長が長年社長を務めた出身企業でもあります。袂を分かつ「寂しさ」はないのですか。
平松 よく聞かれるのですが、そういう心情はありません。73年、ソニーに入社して、30年以上にわたりビジネスを経験してきましたが、弥生での社長職は、最も「誇りに思う仕事」でした。00年に当時のインテュイット日本法人(米インテュイットとミルキーウェイ、日本マイコンが統合して設立)に入り、チームと一緒にこれだけ企業価値を高めることができたのですから、経営者人生で最も誇りとする会社です。
──飼沼社長に伺います。ライブドアHDから弥生を分離する検討がなされている間、弥生の飼沼社長と平松社長では、「弥生の将来像」などについて、どんな会話があったのでしょうか。
飼沼 昨年夏には、弥生が「独立性を高める」という話をすでにしていました。その先、IPOをするのか、ライブドアグループから切り離すのか、独立へ向けた議論はその頃から続けてきました。弥生独自でもIPOの道を探ってきましたが、親会社(ライブドアHD)が「証券取引法違反」ということが最大のネックで、このまま株式を保有されている間は、「上場は無理でしょう」というのが結論でした。
──両社のどちらから分離独立へ向けた話が持ち上がったというわけでなく、相互がすり寄ったということですか。
平松 いや、そうじゃない。マーケットから「弥生をこれからどうするのですか?」と、非常に高い企業価値を提示してくれるところが出てきて、弥生に興味をもってもらえるところに満遍なく諮り、「最高の価値がどの程度になるか」ということを、ライブドアHDの立場で検討することになったのです。
──今回の譲渡先の選定では、MBKパートナーズ陣営の競合先として、弥生がMBOする際に支援した投資会社、アドバンテッジパートナーズがあったと聞いています。アドバンテッジは弥生の企業価値を最もよく知る相手とみていましたが…。
平松 それは、守秘義務契約があって答えられません。譲渡先としてMBKパートナーズ陣営を選択した理由は、弥生に素晴らしい価値づけをしてくれたこと、さらに今後、弥生が継続して成長することを担保してくれたパートナーだったからです。
──MBKパートナーズ陣営は弥生のIPOまで担保してくれたのですか。
平松 それはこれから、弥生とMBKパートナーズ側の両社で、ロードマップを描いていくことになります。
──MBKP1へは、株式200株を1株当たり3億5000万円、総額710億円(このほか、譲渡前にライブドアHDは弥生から特別配当30億円を受けた)で譲渡するという、予想を超えた高額な価値がついたことに市場やIT業界が驚いています。
平松 今までの弥生の実績と今後の成長力が評価された。マーケットはいろいろ言うんですよ。弥生が旧ライブドアを売却先にして、イグジット(資金回収)した際は約230億円(注)でしたが、「あまりにも高過ぎる」と、評論家はみていました。ライブドアHD社長としては、710億円の譲渡額は誇りに思う価格です。
※最初に100億円で約50%の株式を取得、30億円の増資に応じ、残り50%は株式交換
──マーケットからは710億円という高い企業価値の評価を得ました。加えて、LBO(レバレッジド・バイアウト=買収対象企業の資産価値を担保に買収より先に資金を借りる)という方式で、譲渡が成立しました。そのため、「もう後はない」というプレッシャーがあると思うのですが…。
飼沼 たしかにプレッシャーは大きいですね。ただ、弥生がIPOをして、もう一度、世間の評価を受けることを狙うとすれば、ライブドアHDの傘下では、100%その道が閉ざされていて、弥生自身ではコントロールできません。LBOローンは多額ですが、「返済すればなくなる」ので、弥生がコントロールでき、そういう意味でプラスです。
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