主要Linuxディストリビュータ3社がパートナー制度を刷新・新設し始めた。サーバー/クライアントOSのシェア向上にはISVなどのパートナー企業の取り込みが必須とみて、共通して制度の充実を図っている。内容はそれぞれ個性があり異なる。新版のリリースとともに、商品の機能だけでなくパートナーへの販売・技術支援内容でもしのぎを削り始めた。
プログラム内容の違いが顕著に
パートナーの囲い込みで攻勢
圧倒的なシェアでトップベンダーに位置するレッドハットは、11月6日にISV向け新支援制度を発表。評価用サブスクリプション(ソフトの利用権利)の提供が中心だった内容を見直し、技術サポートプログラムを充実させた。本社に各ハードメーカーの最新サーバーを設置した施設を開設して、ISVが持つ業務アプリケーションの動作検証をバックアップ。技術セミナーの定期開催も約束した。自社Linux上で動作する業務アプリケーションソフトの開発企業を、来年11月までに200社まで増やす計画を打ち出した。
レッドハットは、OSSのアプリケーションサーバー開発会社であるJBossを子会社化するなど、ここ最近の重点施策として商品・サービスのラインアップ拡充に注力。OSだけにとどまらずミドルウェアまでビジネス領域を広げ、「総合OSSカンパニーを目指す」(纐纈昌嗣・マーケティング&パートナービジネス統括本部長)とする戦略を進めている最中だ。ただ、中核となるOSの業務アプリケーション対応数の増強を軽視しているわけではなく、磐石の体制を築こうという動きの一環として今回の刷新に至った。
一方、2番手争いの渦中にいるミラクル・リナックスは、レッドハットとは一線を画した。11月20日にISV向け支援制度をリニューアルし、「これまでは技術サポートに偏り過ぎた」(中野正彦・カスタマーサービス本部製品企画グループシニアマネージャー)点を反省し、価格メリットや販売支援に重点を置いた。ISVが業務アプリケーションとミラクルのLinuxなどを組み合わせて販売しやすいように、ミラクルの対象商品を従来に比べ最大75%割り引く大胆な値引き制度を盛り込んだ。自社Linuxに対応するソフトを持つISVを紹介する小冊子も作成予定で、「この1年間はISV獲得施策が手薄だった」(同)という反省のもとに、局面を打開しようと必死だ。

ミラクルのLinuxに対応する業務アプリケーションを持つISVは、目標200社に対し現在は80社と下回っている。まずは来年5月までに100社体制に増強したい考えだ。
ミラクルとシェアが拮抗するターボリナックスは、11月29日に新Linuxを発表。ウィンドウズとの相互運用性や、特許使用許諾などで話題になった米マイクロソフトとの協業内容を初めて盛り込んだバージョンだ。ただ、2社とは違い、この時期にサーバーOSのISV向け支援制度は刷新しない。むしろ、強化したのは、サーバーではなくクライアント向け商品。11月14日、ソフトとハードを組み合わせたシンクライアントで初めてパートナー制度をつくった。SI企業がターボのシンクライアントでシステム構築を手がけやすいように、特別価格でのライセンス提供や商談の紹介、技術トレーニングの実施などを用意した。
国内Linux市場はトップと後を追うベンダーがこぞって、ISVやSI企業への支援内容を拡充してきた。「各ディストリビュータの商用Linuxの機能面での違いはほとんどない」(中堅SI企業)という声を考慮すれば、差別化は対応アプリケーション数やOSに付加価値をつけた新コンセプト商品になる。ウェブやメールサーバーでの利用が中心だったLinuxも徐々に業務アプリケーションシステムでの採用が進み始めている。ISVやSIerをどれほど囲い込めるかがLinuxディストリビュータにとっての重要課題で、本腰を入れて取り組み始めている。
微妙な立場のミラクル
日本オラクルの動きに注目
Linuxディストリビュータ各社のISV・SIer獲得施策と同様に、Linux市場で見逃せないのが日本オラクルの動きだ。
同社は、今年9月に「Oracle Unbreakable Linux」と名付けたLinuxのサポートサービスプログラムを始めた。Linuxの(1)修正モジュール提供(2)24時間365日の問い合わせ対応(3)バックポート実施サービスをパートナー企業を通じて提供する内容で、対象Linuxにはレッドハットの「RedHat Enterprise Linux(RHEL)」を選択している。「RHEL」を利用していないユーザーには、オラクル独自の「Oracle Enterprise Linux」を提供するが、それでもデータベースベンダー最大手の日本オラクルがサポートプログラムを、Linux関連サービスベンダーに向けて始めることでレッドハットの優位性はさらに高まるだろう。
この戦略で、立場が難しくなったのが、ミラクル・リナックス。ミラクルの筆頭株主は株式の50.5%を保有する日本オラクルで、親会社がレッドハットのサポートプログラムを立ち上げたなかで、対抗しなければならなくなった。
この状況下で、ミラクルは「Oracle Unbreakable Linux」の国内発表と同時に、同サポートプログラムのバックエンド・サポートで協業することを決断。日本オラクルから「Oracle Unbreakable Linux」関連業務の一部受託、Linuxの重大な障害に対する技術サポートを請け負うことにした。自社のLinuxを販売しながら、競合のサポートを手がけることを決めたのだ。
ミラクルの担当者は、「自社Linuxでサポートできないユーザーには、オラクルを提案することができる」というが、「ユーザーの混乱がある」と戸惑いも隠さない。
「Oracle Unbreakable Linux」の普及が、レッドハットとミラクルのシェアの行方を左右するのは間違いなく、今後の浸透状況も要注目だ。