PCやサーバーなどハード販売事業の比率が高い販売系SIer。2008年の空模様は「曇り」。好調・不調がはっきりしない。ビジネスによって伸びる分野があれば、低迷を続ける事業もある。プラスとマイナスの要素を両方持つのがハードに強い販売系SIerの特徴だからだ。カギは単価下落で不振が続くハード販売事業を補えるまで、ソフト・サービスビジネスを成長させられるかどうかだ。(木村剛士●取材/文)
ハード販売・保守の低迷を補えるか

サーバーやPCなどのハード販売事業は、07年もそれ以前と同様に厳しかった。有力SIerの今年度(08年3月期)上期業績をみても明らかだ。
富士通ビジネスシステム(FJB)のハード売上高は前年同期に比べ20億円減の211億円。JBCCホールディングスのハード売上高も、22億9400万円落ち込んで106億5400万円。FJBは、PCの販売減が最大の要因だ。サーバーの台数は伸びたものの単価下落の影響で売上金額は減少。売価ダウンもマイナス効果を増幅させた要因であることがよく分かる。サーバー市場で主役のIAサーバーは、単価が低く値下がりも激しい。08年も安価なIAサーバーの伸び率がもっとも高いと見込まれ、サーバー全体としては依然厳しい状況を強いられそうだ。
唯一の期待の星といえるブレードサーバーは急成長中とはいえ、まだ利用用途や購入する顧客が限定的で母数が小さい。IT調査会社のノークリサーチによれば、今年度(07年4月-08年3月)の全IAサーバーのなかでブレードが占める割合は2ポイントアップと予測する。ただ、予測通りに伸びたとしてもまだ10%程度。ブレード人気に火を付けたサーバー統合のニーズも「08年にピークを迎え、09年以降は縮小に転じる」(IDC Japan)との見方もある。ブレードがハード事業の救世主になるような状況は望めそうもない。各販売系SIerはハード事業の比率がまだ高く、全体の業績を圧迫する。これが08年を「曇り」と予想する最大の理由だ。
カギを握るのはソフト・サービス事業だ。各社ともハード事業は伸びないとみて、00年ぐらいからソリューションを標榜。意識・構造改革を進めてきた。自社のERPを開発したり、データセンターを設置して運用サービス体制を整えるなど着実に進めているが、まだ発展段階で、07年も各社のソフト・サービス事業の拡大施策が目についた。
JBCCホールディングスでは、情報システムの遠隔運用・監視やアウトソーシングなどのITサービス専門会社を設立。NECネクサソリューションズでは、組織再編を断行した。「大」「中堅」「中小」にターゲット顧客を区分けし、それぞれの顧客セグメント別に事業本部を設置。企業規模別に最適なソフト・サービスを体系化する体制を作った。また、FJBでは、営業手法の見直しを推進。各業種ごとにある固有の業務、仕事フローを熟知した営業担当者を育成。顧客先に深く入り込んで受注単価を上げる“コンサル型営業”と呼ぶビジネスが実を結び始めている。今年度下期、ソフト・サービス事業を昨年度比61億円増の498億円に照準を合わせた。
各社ともリスク承知で進めた改革が徐々に成果を出し始めている。

FJBやJBCCホールディングス、NECネクサソリューションズなど主要SIerは現在、3か年の中期経営計画を進めている最中。FJBは来年度が最終年度だ。各社が最終年度の目標に掲げる営業利益率は3-5%程度で、ソフト開発を主体としたSIerよりも大きく見劣りする。計画達成も注目だが、販売系SIerの天気が「晴れ」となるには、SaaSの仕組みなど新技術・概念を取り入れた新しいビジネス、BPOなどを取り込んだ業容拡大などが求められる。現行の中期経営計画達成が目先の注目点だが、次世代の新プラン立案を並行して進める意味でも08年は重要な年になる。

製造・流通業を軸にユーザー企業のIT投資は旺盛。市場環境は悪くない。主要SIerは、07年に営業手法の見直しや新会社設立、組織再編などの構造改革を実施し、攻めの体制を整えた。ハード事業は08年も縮小する可能性が高いが、自社開発ソフトやITアウトソーシングなどのサービスビジネスは伸長する。
05年や06年に多くみられた不採算案件は、07年は大幅に少なくなった。プロジェクト管理体制の強化や、開発の標準化など赤字撲滅施策が奏功している。ただ、「赤字案件発生の危険性は常にある」とみており、楽観視はできない。大型案件で失敗すれば、稼いだ利益をそっくり失うことになる。
PC、サーバーの売価ダウンは08年も続きそう。急激に下がることはないが、上がることもなく台数を伸ばさなければ売り上げ、利益の悪化は避けられない。ソリューションやサービスを伸ばすための体制、商材を整え、売れるスキルを身に付けていない箱売りだけのSIerは、ビジネスできる舞台がますます狭まる。

●4月、JBCCホールディングスは中核の事業会社である日本ビジネスコンピューター(JBCC)のサービス事業部門を分社化し、同事業を専門で手がける新会社「JBサービス」を設立。JBCCホールディングスの傘下事業会社は11社になった。
●4月、NECネクサソリューションズが大幅な人事・組織再編を実施。顧客を年商規模で3つに区分けし事業本部を設置した。大企業の顧客が増加傾向にあったが、中堅・中小企業をメインターゲットに置く姿勢を鮮明にした。
●6月、日本事務器(NJC)の常務取締役を務めていた田中啓一氏が社長に就任。約5年間社長を務めた大塚孝一氏は取締役相談役に。中期的目標として掲げる売上高500億円の突破に向けて新体制をスタートさせた。
●10月、富士通ビジネスシステム(FJB)は、保守サービス体制再編の一環で、富士通エフサスとの共同出資会社「エフサス・テクノ東日本」を設立した。拠点や人員の最適化を図り、低迷する保守サービス事業のテコ入れに動いた。