シングル機のプリンタを主軸に販売展開をする国内プリンタ販売各社では、「特定市場・用途」に向けた市場拡大を画策する動きが顕著になってきた。一般OA向け印刷ボリュームが減少しているほか、複数台のプリンタをデジタル複合機(MFP)に集約する傾向が強まりシングル機の需要が減っているためだ。このため、エプソン販売やOKIデータ、コニカミノルタなどは、ラベルプリンタなど産業用の特殊プリンタをもつメーカーなどと連携し「ソリューション販売」を強化。各社の販売チャネルである“箱売り”するだけのディーラーを選別する動きも始まった。
特殊印刷メーカーとの協業進展へ
「業種特化型の売り方では、カラー需要が落ちていない」──。LED(発光ダイオード)のシングル機を中心に早くから「特定市場・用途」に傾注していたカシオ計算機の藁谷幸司・国内営業統轄部システム企画部次長は、こう指摘する。同社ではA3対応の3機種とA4対応の1機種をベースに、水や油に強い特殊紙などを利用して調剤薬局や学校などへ用途に応じた提案販売をしてきた。「業種特化の売り方は堅調。さらに強化する」(同)と、さまざまな業種に向けたソリューションを数多く揃えようとしている。
POPとDTP分野で高いシェアを誇るOKIデータは、LEDプリンタの良さを生かしながら、自社プリンタとラベル印刷など特定用途向け産業印刷メーカー、SIerなどのソリューション販売を融合した展開を本格化した。このほど、製品、販売、パートナーを組み合わせ一貫したビジネスモデルを組み立てる「ソリューション・マネージャー」を配置。「POP・DTPに次ぐ第3、第4の市場をつくる」(舘守.・執行役員国内営業本部長)と、新規市場開拓に躍起だ。OKIデータの「ソリューション・マネージャー」はまず、想定市場を探し、その市場で需要がありそうな特定用途のソリューションを構築。特定市場に強みのあるSIerに販売してもらう商流を築こうとしている。
エプソン販売は、流通、医療、建設など特定用途の利用が多い市場をターゲットにした戦略を開始した。レーザープリンタや低コストなインクジェットプリンタ、得意分野の電子写真、サーマルなど自社プリンタを組み合わせソリューションを組み上げる。例えば、医療向けには、ラベル印刷メーカー大手と協力体制を敷き、薬袋や注射器など医療器具に貼るラベルなどの用途に合わせて、自社のレーザープリンタなどのセット販売を増やすことを狙う。小野潤司・プロダクトマーケティング部部長は「特定用途を増やせば、一般OA分野のマイナス分を補填できる」と、今後強力に推進する計画だ。
エプソン販売と競合することの多いコニカミノルタプリンティングソリューションズは、ラベルや会計帳票、医療などの「特定市場・用途」に向けた販売強化のため、特殊印刷メーカーとの技術的なアライアンスのほか、販売面でグループ会社経由の流通網の確立を急いでいる。三木英明・営業部部長は「昨年度(2008年3月期)は、販売チャネルの種まきをした。当社の独自コントローラや画像処理技術を生かし、グループ力を活用する」と、今年度はチャネル販売を本格化させ収益を急速に伸ばす「元年」とする。同社はこれまで、エプソン販売が得意分野としていた会計帳票ベンダーとの業務提携を成し遂げ、市場の一部を奪取した模様。今年度は、特定用途の需要を喚起するプリンタの新機種を相次ぎ投入する計画だ。

一方、MFPを主軸にするコピー機メーカーにも、「特定市場・用途」へ進出する動きがある。リコーは医療機関向け調剤業務用プリンタや流通向けのラベル印刷用プリンタで「業種展開に力を入れる」(藤川康弘・販売事業本部ソリューションマーケティングセンタープリンタ販売計画室室長)と、自前のシングル機、MFP、特殊プリンタ、ソリューション販売などを含めた総合力で競合他社に対抗する構えだ。
こうした「特定市場・用途」を中心とした「ソリューション販売」をメーカー各社が強化する一方で、プリンタを右から左に“箱売り”していたディーラーが淘汰の波にさらされ始めた。ある大手プリンタ会社と販売契約するディーラーは突然「諸般の事情で売買契約を打ち切る」と突き付けられ、困惑しているという。プリンタ販売は価格競争下にありハードを売るだけでは粗利を稼げない。そのため、ソリューション販売で付加価値をユーザー企業に与え、リースアップ時にも必ず自社機へリプレースするスキームを築かなければ、他社に顧客を奪われてしまう。同メーカーに限らず、ディーラーなど販売店を選別して整理する傾向は往々にあり特化分野に強みをもちソリューション展開できるようディーラー自体の業態変革が迫られている。