SOHOや中小企業向け国内プリンタ市場にインクジェット機が台頭してきそうだ。企業内で使われている家庭用インクジェット機などの代替機として需要が見込めると判断し、セイコーエプソンや日本HP(ヒューレット・パッカード)などが、ここへきて相次ぎビジネスインクジェットプリンタの新製品を発売。販売会社や家電量販店での拡販を強化している。日本HPは「数年内に年間100万台規模に達するポテンシャルがある」と見込む。ページプリンタ市場が伸び悩むなかで、需要を喚起する新たな商材として注目されそうだ。
エプソン、HPなどが本格展開へ
セイコーエプソンは4月下旬、企業需要をターゲットとしたA4カラーインクジェット2機種を「新たに開発した」と発表した。エプソン販売の越智均・プロダクトマーケティング部長は「製品を単独で訴求するのではなく、ビジネスシーンで使うプリンタの選択肢の1つとしてアピールする」と、医療機関や小売・流通、飲食業などの業種向けにカラーレーザーなど他の事務機器と一緒に提案していくと語る。
同社は、家庭用インクジェットでも得意分野とする顔料インクによる「普通紙くっきり印刷」を売りに製品展開する。最近では、カラーレーザープリンタを含め自社事務機器を複合的に組み合わせ「特定市場」の開拓を強化している。例えば「病院で使うレセプト(診療報酬明細書)などの印刷では、コスト低減と印刷の鮮明度が求められている」(越智部長)と、今回のビジネスインクジェットを製品ラインアップに加えることで、特定用途の幅広い顧客層を開拓できるとみている。
セイコーエプソンの発表から3週間後の5月中旬には、日本HPが記者会見を開き、「ビジネスにもインクジェット」を合言葉にして世界で高いシェアを獲得しているビジネスインクジェットの新製品4機種を公表した。挽野元・執行役員は「最強プロダクトの投入だ。100万台規模の潜在市場を開拓するため、『全方位チャネル展開』を行う」としている。具体的には、家庭用インクジェットやカラーページプリンタに不満を持つ層へ向け、「ヨドバシカメラやビックカメラなど主要家電量販店で、今日から発売する」(同)としたほか、同社の強固なパソコン製品チャネルを中心とした代理店展開を最大化する計画だ。
企業向けインクジェットが注目されているのは、先に列挙した業種やSOHO、中小企業など小規模オフィスの多くで、ビジネス用途でないセイコーエプソンやキヤノンの家庭用インクジェットプリンタが利用されてきたことに起因する。家庭用インクジェットは、ビジネス用途で使うには、印刷などのランニングコストが高いほか、印刷速度が遅い、消耗品の交換頻度が高い、両面印刷ができない、給紙の枚数が少ない――など、ユーザーの不満を抱えていた。
また、カラーレーザープリンタは本体価格が家庭用インクジェットに比べ2-3倍と高く、SOHOなど小規模事業所が手を出しにくい状況にある。このため、カラーレーザー並みの高速・大容量・高機能を備えているビジネスインクジェットは「売れる」というのが両社の共通認識だ。日本HPの挽野・執行役員は「ユーザーのニーズが満たされていない環境に最適なプリンタを提供することで、新たな市場を切り開ける」と、強気の姿勢を崩さない。
一方、キヤノンは、「ビジネスに適した新技術を搭載した」とする「新しいビジネスドキュメントを提案する多機能オフィスモデル」となる新製品「PIXUS MX7600」をリリースした。家庭向けのPIXUSシリーズにビジネス用途の機能を加えたように見えるが、キヤノンマーケティングジャパンによれば、「現在のPIXUSのラインアップでも10%前後はビジネスシーンで利用されていると想定しているが、新たに市場参入する位置づけでない」(広報)という。他社が企業向けのインクジェット製品を強化していることについて「今後の影響度は分からないが、現時点では、市場環境が大きく変化することはない」と、冷めた見方をしている。
リコーは、以前から企業向けインクジェット製品として「ジェルジェットプリンタ」を販売している。「今後必ずニーズは出てくる」と、手を緩めることはない姿勢だ。インクジェットプリンタはページプリンタに比べ、熱量などを低減できるなど環境に配慮した製品として注目度も高まっていることからも、市場は確実に伸びると期待できる。